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無限ロードのギャルゲ転生〜俺が恋したのはモブでした。世界が許さなくても俺の思いは変わらない〜

作者: 三瀬

 今日もまた、ふざけたショーの幕が上がる。


 街もすっかり色褪せた二月末。

 卒業講演と銘打たれたステージに舞う紙吹雪はそんな侘しい光景と真逆。

 ピンク、黄色、青に赤。

 アイスクリーム屋みたいな賑やかな髪色の美少女達と、何の変哲もない店員みたいな見た目をした俺。

 舞台の上で笑顔を振りまく俺達は、さぞ華々しく見えていることだろう。

 だがしかし、俺が求めているのは毎日色とりどりのアイスを楽しむワンダフルな日常ではない。

 舞台の下、広い体育館のずっと先。

 何でもない顔でこちらを見つめている彼女との……平凡な日常なのだ。


『恋色ショータイム♪』


 令和の始まりに発売された恋愛シュミレーションゲーム。

 とある学校のサーカス部を舞台に、多くの美少女達とめくるめく恋愛を楽しめるど定番なギャルゲー。

 その年に発売されたノベルゲームの中で一番の売上を記録し、何気なく立ち寄ったゲーム屋で『令和の伝説』とかいう大々的なキャッチコピーと共に平積みされていたのをよく覚えている。


 俺こと西宮 班(にしみや まだら)は、ひょんなことからこのゲームの世界に主人公として転生した。

 転生の流れは最早語るまでもないだろう、というか俺自身が全く覚えていないから語りようがない。

 ただ何かしらに固くて早いものにぶつかられたような痛みを感じた覚えがあるから多分トラックに轢かれたとかその手だろう。

 20歳になっても尚特に人生に起伏は生まれず平々凡々な人生を過ごしていた身だ。

 今更異世界転移したことに文句を言うつもりはないし、もう一度学生という楽しい時間を過ごせる身になれたのだからそこは間違いなく幸運だろう。

 加えてこのゲームはギャルゲーだ。

 どれだけ俺がブサイクだろうと、絶対に可愛い女の子から好かれるし、華々しい青春を送ることが出来る。


 若返り、ハーレム、約束された将来。


 世間から見れば間違いなく幸せな二度目の人生だが、たった一つ俺はこの世界に不満があった。


「相変わらず、不満気な表情ですねぇ。ステージにいる時の笑顔はどうしたんですか?」

「外で話しかけるなってもう一年言い続けたぞ。デカい独り言を言ってる変質者だと思われるだろ。」

「またそんなこといっちゃってぇ、そんなんだからお友達の一人も出来ないまま卒業しちゃうんですよ?」

「お前がくだらない因果で俺を縛るからだろ!俺は本来バチバチの陰キャなんだ!サーカス部にも入りたくはないし、話しかけてくるイケイケの陽キャとも仲良くなりたくはない!」


 俺の肩の辺りをふわふわと飛びながらからかってくるゴスロリの少女、ニコ。

 何でもこのゲームのマスコットであり、俺をこの世界に招いた張本人らしいが、俺はこいつの事を憎んでいる。

 そもそも俺はこのゲームに全くもって興味がない。

 ゲームをするとなれば一瞬の油断が命取りとなるゴリゴリのFPSのみ。

 浮ついた仮想の恋愛に現を抜かすつもりなど毛頭ないタイプの人間だ。

 このゲームに関してももちろん未プレイだし、どういうゲームかも全くもって把握していない。

 だがしかし、俺はニコの手違いでこの世界に連れてこられてしまった。

 それからというもの、ニコには付き纏われるし「ゲームのシナリオに従え」と言われてサーカス部に強制入部させられるし。

 ある程度反抗的に生活してはいるものの、一年もの間このふざけた部活に拘束されてしまった。


「斑くーん!卒業講演お疲れー!!!」

「お疲れ斑。おや、また後髪が跳ねているよ。」

「触るな。俺は人に髪を触られるのが嫌いなんだ。そしてお前は離れろ!」

「ははは、相変わらず無愛想だね。せっかくの凛々しい顔が台無しだよ。」


 目が合うなり人に抱きついてくる過激派ポケモントレーナーみたいな性格をしたピンク髪の女と、背後に薔薇の幻影が見えてきそうな雰囲気の青髪の女。

 躑躅 琥珀(つつじ こはく)芹 悠(せり ゆう)

 共にこのサーカス部の部員であり、本ゲームのメインヒロイン。

 ニコの発言が正しければ、主人公である俺が少しばかり甘い言葉を吐くだけで簡単に彼女に出来る相手である。


「残りの二人はどこ行ったんだ。講演後の反省会がないなら俺はさっさと帰るぞ。」

「ユキユキは疲れて保健室!ネムネムはどっか行っちゃったから今から二人で探しに行くところ!」

「相変わらず体力と協調性のない奴らだな。ま、そういう事なら今日はおさらばだ。」

「えー帰っちゃうのー!卒業講演なのに……もっと遊ぼうよ!」

「お前の遊びはソリ滑りとか陸上十種競技とかぶっ飛びすぎなんだよ。それに卒業式やら何やらでまだ会うだろ。じゃあな。」


 ぶらぶらと手を振り、俺は体育館を後にする。

 何度も言うように、俺はこのゲームにもこのヒロイン達にも微塵も興味がない。

 こと今日に関してはこいつらを相手にしている場合ではないのだ。

 俺はゲームの主人公としてはなく、ただ一人の男として幸せを掴もうとしている。




「あ、やっと来た。ほら見て見て?待ってる間に雪だるま作ってたんだ。中々可愛いでしょ?」

「寒い中待たせてごめん。そっか、昨日の雪がまだ残ってたのか。」

「もう二月も終わりだからね。最後の雪は楽しんでおかなきゃ。そうそう、卒業講演お疲れ様。」


 手のひらに小さな雪だるまを乗せながら笑いかけてくる少女。

 先ほどの二人とは違ってごく一般的な栗色のポニーテールと、何ともパッとしない目鼻立ち。

 街中ですれ違っても気付きもしないだろうその平凡な見た目の少女に、俺は恋をしていた。


「卒業講演が終わっちゃったってことは、私達ももうすぐ卒業しちゃうんだね……。なんか寂しいなぁ。」

「進学先も同じだしそんなに寂しがる事ないよ。」

「それはそうだけどさぁ。いいの?私は帰宅部だけど斑くんは部活があったじゃん。」

「あれは強制的に入れられただけだから。俺は渚がいればそれでいいよ。」


 佐藤 渚(さとう なぎさ)

 何とも平凡な名前の相手と手を繋ぎ、俺はゆっくりと通学路を歩いていく。

 普段囲まれているギャルゲヒロイン達は軒並みテンションが高い。

 機嫌がいいとかそういうレベルではなく、気が狂っているのだあの女達は。

 だが渚は違う。

 極めて自然体で一般的。

 個性と美しさを鉄鍋で煮込んだような禍々しい女は要らない、渚のような優しい味わいの女性こそ俺が求める姿なのだ。


「そうだ、卒業したらどこか日帰りで旅行行こうよ!日帰りなら今からでも予約取れるでしょ?」

「いいなぁ。日帰りで行ける範囲となると箱根とかかな。いいとこ探しとくよ。」

「いつもいつも私の適当な思いつきに付き合ってくださりありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそいい感じに振り回して頂きありがとうございます。」


 少しおどけた調子で頭を下げる渚につられ、俺もわざとらしく頭を下げる。

 基本的に頭が硬い俺と違って渚はいつも自由な発想を持っている。

 サーカス部の狂人程ではなく、常識を持った上での自由人。


 この世界への転生に絶望している真っ只中、俺は彼女と出会い恋をした。

 そのまま部活動の合間を縫って彼女と仲良くなり、交際。

 俺はサーカス部というしがらみから解き放たれた今日という日に、彼女へ婚約を申し込むつもりである。

 そう決意できるぐらいには、俺は彼女を愛している。


 俺が渚とのめくるめく日々を思い出している間に、彼女はいつもと違う声色で話し始めた。


「ねぇ、あれ……女の子だよね。」

「斑さ〜ん!ハロハロ〜!」


 目線の高さより少し上を指差し困惑する渚と、馬鹿みたいな声を挙げる少女。

 気怠げな体勢で空を飛びつつ、一張羅のゴスロリの裾を振り回すその姿に、俺は見覚えしかなかった。


「初めまして渚さん。(わたくし)、愛と秩序のハピハピエンジェル。ニコと申します。何やかんやあってお宅の彼氏さんのお世話というか監視というかそんな感じのサムシングを行わせて頂いてます。いかがわしい関係とかではないのでご心配なく♪」

「初めまして佐藤渚です。も〜斑くん!こんな可愛いお友達がいるなら紹介してよ!」


 渚のこれは決して嫉妬とか牽制とかその手の類ではない。

 持ち前の天然性から来る言葉通りの好意。

 大方今目の前で空を飛んでるトンチキな存在を「手品好きの近所の子供」ぐらいに思っているのだろう。

 渚はそれぐらいお気楽な思考ができる人間だ。

 そしてそれとは裏腹に、俺の眉間には皺が寄っていた。


「俺以外の人間には見えないんじゃなかったのか?何で急に姿を現した。」

「私はあくまで上の指示に忠実に従う社畜天使ですから。上の方針が変わったら、私の動きも変わります。」

「もう学生生活も終わるっていうのに一体何の文句があるんだ。俺は、俺の幸せを掴もうとしているだけだ。」

「お忘れですか?貴方は主人公なんですよ。メインヒロインと連絡先すら交換せず、どこの馬の骨とも知らない()()と幸せを掴むことなんて……許されないんですよ!」


 名前通りのにこやかな表情を放り捨て、天使は悪魔へと姿を変えていく。

 細い体に似つかわしくないサイズのハンマーを手に持ち、俺達へと振りかざすニコ。

 状況を全く理解できずに立ち尽くす渚を背に隠し、俺はその影を一身に受け止める。


 間違いない、この女は俺と渚を殺すつもりだ。

 この世界は「恋色ショータイム♪」とかいうふざけたゲームの中、そして俺はその主人公。

 だが俺はそのシナリオをガン無視し、琥珀や悠などのメインヒロインとまともな交流をせずモブの渚と交際している。

 自由奔放といえばそうだが、監視役であるニコが何も言ってこないからそれでいいものだと思っていた。

 しかし、そうではなかったということだろう。


「お前が勝手に連れてきて、今度は勝手に奪うのか。そんなことを俺が許すと思ってるのか。」

「あーそうですね、先にそっちの説明をしときましょうか。よし、一時休戦!」


 そう言ってニコはハンマーをポンと消し去り、いつもの笑顔を取り戻す。

 あれほど巨大なハンマーを簡単に出し入れするなどやはりこいつは人ならざるものだ。

 二種の恐怖を感じながらも俺は毅然とした態度でニコを睨み続ける。

 相手が天使だろうと悪魔だろうと、俺は横でキョトンとしている彼女を守らなければならない。


「そもそもこの世界はゲームの中です。それ故に規定のストーリーからはみ出ることは許されないという結論が私の上司達によって今更ながら下され、異分子であるお二人は排除されることになりました。ここまでの話は聡い斑さんならもうお分かりですよね?」

「だからこうやってお前に殺意を向けてるんだろ腐れマスコット。」

「もう相変わらず口が悪いですねぇ。私が今から話すのは救済処置の話です。」


 満面の笑みを浮かべたニコは空中に腰掛け、俺の瞳だけをじっと見つめてくる。

 ゲームの中だの、主人公だの、俺以外の人間に聞かれてはいけないことをペラペラ喋っている辺り、こいつは本気で俺達を潰すつもりなのだろう。

 あくまでも上司の指示に従い、その冠通りゲームの秩序と愛を守る者。

 ニコはそういう存在だ。


「この世界がゲーム、と言うことはつまりセーブとロードがある訳です。私は極めて善良な天使ですから?今年の初めに斑さんが転校してきたあの日にセーブを取っておきました!なので斑さんは何度でもこの世界をやり直す事ができます。」

「世界を……やり直す?」

「はい!今が二月末ですからもう十ヶ月ぐらい前ですね。四月十日に斑さんはタイムスリップし、再び三年生としての一年間を過ごすことが出来ます!た・だ・し、ゲームのシナリオに従って。ですけどね!」


 ゲームのシナリオに従って。

 その悪魔の言葉を反芻し、俺は横をチラリと見る。


 どれだけ間違えてもこの世界は何度でもやり直せる。

 だがどれだけやり直そうと、渚との幸せは掴めない、いや掴ませて貰えない。

 西宮斑は主人公としてメインヒロイン達と幸せを掴まなければならないのだ。


 ニコの宣言の意味を噛み締めている間に、天使は悪魔へと再び姿を変えていた。


「と、いうことで。さっさとリセットしちゃいましょう!そろそろ今日の労働時間も終わりですからね!うちはフレックス制なんですが、そろそろ今月の労働時間を超過しちゃうんですよ。いやはや制度だけホワイトでも意味がないってことの表れですね。」

「そんなにサクサクと事が進むと思ってるのか。俺は何としても抵抗するぞ。」

「どう抵抗しようと無駄ですよ。貴方達とは、住む世界が違うんです。」


 哀れな人間とも、無垢なモブとも違う超越者。

 その存在を知らしめるかのようにニコは再びハンマーを振りかざし、俺達の体に二度目の影が落ちる。


「な、渚くん……。なんか大事そうな話だったから黙ってたけれど、一体どういうこと?な、なんでニコちゃんはあんな怖い顔をしてるの?ゲームって、住む世界が違うってどういうこと?」

「ごめん渚。その質問には答えられない。けど、俺は渚だけを愛し続ける。それだけは……頭に刻んでおいてくれ。」

「渚くん?待って、どういうこと!?」


 分かっている。

 ニコは絶対に止められない。

 だからこそリセットを受け止め、もう一度この世界をやり直す。


「ニコ、お前もこれだけは覚えとけ。俺は、何度阻まれようと渚と結ばれる。お前らがそれを拒んだとしても変わらない。」

「まぁ精々頑張って下さい♪私だけは、いつでもそばにいますから!」


 この世界に来た時と同じ鈍痛。

 腹部を走るその痛みと骨が折れていく感覚に発狂しつつ、俺は横を見る。

 最愛の人の死に様。

 絶望が全てを忘れさせ、俺はゆっくりと意識を失っていった。


 これは、因果に抗う男の物語。


『恋色ショータイム♪』


 綺麗なタイトルロゴと共に再び世界は彩られていく。

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[良い点] タイムループの引き具合 [一言] 悪魔に主人公が勝つのかそこが知りたいです(๑╹ω╹๑ )
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