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ハンナの友達

 都市の西門から出たところにある川辺に寝かせられているふたつの影。

 ハンナの女友達であり、その容態は……。


「確かに、これは内臓と骨がイッちまってる。それともうひとり……」


 重体の隣はすでに死に体だった。

 アートマンの心に、嫌な風が吹く。


 心の底にまで彼女らの血の臭いが入り込むようで、気分が悪くなった。


「聞いてたとおり、凄惨だな」


「うん、お願いアートマン。ふたりを助けてッ!」


「……今度はなにやらかしたんだオイ。山賊やチンピラ相手じゃこうもならねぇ。3人でなにをやった!」 


「それは……魔物、退治を……」


「魔物退治だぁ? 当ててやろうか。テメェら遊び半分で行ったろ。それも強い部類に入る奴相手にな」


「あ、遊び半分って私たちはッ!」


「ここ最近、魔物が暴れているという情報はなかった。そしてふたりの装備品。血で汚れてはいるが買ったばかりの新品だ。最近市場で出たやつだな。大方性能試しでもやろうとしたんだろ」


 図書館にいる間、使い魔を数匹。

 都市の中と外に派遣し、夜ともなれば目立った情報はないか聞き出す。


 ハンナの行動については度外視していた。

 こちらから気にかけるときっと自分から首を突っ込んでしまうだろうから。


 だがその結果、こうして巻き込まれているわけだが。


「依頼でもなし、修練でもなし。相手も選ばず強敵に挑む。この行き当たりばったりどもめ。……発案者はお前か? 図星っぽいな」


 アートマンは重体の女に視線を外さないまま、背後のハンナに語気を強める。

 唇を噛みながら拳を握りしめるハンナに、アートマンはさらにきついことを突きつけた。


「選べ」


「え?」


「死にかけの奴か、死体か。どっちかを助けてやる」


「そんな! ふたりとも助けてよ」


「俺は慈善家じゃねぇ。こないだみてぇな気まぐれはねぇぞ。さぁどうする?」


 ハンナが口ごもる中、アートマンは重体の女のか細い声を聞いた。

 

「たす……け、て……」


 てっきり命乞いかと思った。


「ベランを……たす、けて……」


 どうやらまだ友人が生きているものだと思っているようだ。

 痛む身体に鞭を打って、友人の名前を呟き続けている。


「ハァ……」


 頭をかきながらも術式の準備をする。


「金とるから覚悟しとけ」


「え!?」


「当たり前だ。それと勘違いすんじゃあねぇぞ。お前の願いを叶えてやったわけじゃない。このお前の友達の友情に免じてやってやってんだ」


「……うん、ありがとうアートマン」


「死体のほうは損傷が激しい。蘇生させてもしばらくは安静が必要だ」


「わかった」


 地面に大きな術式方陣が敷かれ、そこからでる光に包まれるふたり。

 あとは自動的に回復と蘇生が行われていく。


 それまで小さな岩の上に座り込んで休むことにしたアートマン。

 彼と向かい合うようにハンナはちょこんと座るも、互いに会話はなかった。


 アートマンは別にそれでもいいようだが、ハンナは気まずさを感じて、それでもにょもにょとしている。


「適当に話せ。静かなの嫌なんだろ」


「あ、うん……私ね、ほら、結構調子に乗っちゃうじゃん? 自分でもダメってわかってても、なんていうか、抑えらえないっていうか……」


「……」


「そのふたりとか、ほかにも私の実力知ってる人たちからはね、結構『天才』って言われるんだよ? 銃の腕とかマジで最強だから……ッ! でも、まぁ、アハハハ……こんなことになっちゃって。バカみたい」


 天才と言われるガンスリンガー。

 だがアートマンから見てその中身は空っぽに等しかった。


 銃の腕も戦闘センスも恐らく申し分ない。

 ふたりがこんな状態なのに、彼女は傷ひとつないのだから。


 だがそこに責任感と言われるものはない。

 自由と言えば聞こえはいいだろうが……。


「天才か、俺はバカとしか思ってなかったがな」


「う゛……」


「でも、周りがお前のことを天才と言ってるんなら、少しでもそれらしいことをしたらどうだ。引き金引くだけが取り柄なんて嫌だろう」


「そりゃあ、まぁ。でもどうしたら……」


「これは受け売りだがな、天才っていうのはなにも能力のある奴のことを言うんじゃない。生きること、成し遂げようとすることの重みを誰よりも知っていなければならない人間のことだ。……力だけの存在じゃあねぇってことだよ」


 それは剣の達人が『斬ること』『斬らないこと』をよく知っていなければならないように。

 剣を振り回すだけなら子供でもできると諭す。


「すごいねアートマン。誰から教わったの? アートマンはそれが守れてるの?」


「冗談じゃあない。俺は天才じゃねぇ。……むしろ天才の教えを踏みにじっちまった、ただの馬鹿野郎だ」


「アートマンが?」


「いいか。天才って言われてるのなら、そんな馬鹿野郎に説教されるようなことするな。……その、なんだ」


「ん?」


「今度からなにかやるときは前もって俺に言え。あとからになって尻ぬぐいに呼ばれんのはごめんだ」


「……ッ! うん!」


 話をしている間に術式が終わりかけていた。

 死体だったベランはまだ眠っているが顔に生気が戻っている。


 その隣の女も今はぐっすりだ。

 

「さて、治療費だが先日の財宝でいいだろ? 全部よこせ」


「え゛!? そ、そんなにとるの~?」


「へっ、運が悪かったな。俺じゃなけりゃあふんだくられることもなかったろうによ」 


 その後、都市へ戻ったアートマンはハンナが財宝を持って来るのを待っていたのだが……。


「なにぃい!? 財宝全部カジノですっちまっただぁ!?」


「あ、あぁ~、その、ごめん。だいぶ使い込んじゃったから……その……増やしてから渡したほうがいいかなって……」


「なんかやるときゃ前もって言えって言ったよな?」


「いや、さすがにカジノ行くべって言えないでしょ?」


「言ったよな?」


「はい」


「もういい、帰れ。治療費もいい。萎えちまった」


「ご、ご、ごめんね! ホントごめん! ちゃんと埋め合わせするから! ね?」


「いらねぇ。期待できるか」


 ハンナを去らせたあと、アートマンは溜め息をつきながら。


「……なぁんでアイツは厄介事と一緒にしか現れねぇんだ」


 そう呟きながらも、どこか賑やかなあの雰囲気に、一種の安心感を覚えてしまった。





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