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朝食はビールとサンドウィッチ20個

 谷を抜けたころには朝日は昇っていた。

 たまに吹く砂ぼこりをまとった風が、その光を吸い込むようにして、西へ流れていく。


 そんな大地の脈動を眺めながら、アートマンは都市へと歩みを進めた。

 彼の背後で、ハンナは金銀財宝の入った袋を背負って運んでいる。


 彼女の腰には自慢の武器を帯びていた。

 ガンベルトのホルスターには黄金色に彫刻された2挺の(シングル・)(アクション・アーミー)、腰背部には業物の山刀マチェーテを。


 愛用の武器を取り戻しただけでなく、金銀財宝までも手に入れたハンナの表情は上機嫌のそれそのものだ。


「お前それ、どうする気だ」


「どうするって……ふたりで山分けでしょ?」


「いらねぇ」


「え~いらないの!? お宝だよ!?」


「テメェの好きにしろ。俺にはどうでもいいことだ」


「欲がないなぁ~。もしかして草食系?」


「ベラベラとうるせぇヤツだな。宝が手に入ったんだからそれでいいじゃねぇか」


 そう言って彼女の言葉をさえぎる。

 アートマンは確かに村人たちのために戦った。


 それがその人々に認知されたか否かはどうでもいい。

 ただ縁があった────彼にとってはそれだけなのだ。 


「私をよみがえらせても見返りは求めないし、お宝もいらないって言うし。アナタって変わってるね」


「さぁな。それよりも俺は早く飯にありつきてぇんだ。ここ3日ろくなもん食ってねぇ」


「あ、じゃあさ! 私がおごったげる! いいお店知ってるよ!」


「……いいって。オメェとはここまでの縁だ」


「そんなこと言わずにさ。やっぱりお礼したいよ。ね、お願い!」


「ったく。じゃあ案内してもらおうか」


 このまま断り続けてもしつこく言ってくるだろうと、アートマンは即座に諦めて彼女に案内を頼んだ。

 ハンナは嬉しそうにしながら前を歩き始める。


 巨大魔導城塞都市

 この国のかなめにして、あらゆる知識と欲望が集う場所。


 分厚い城壁は、古めかしいながらも数多の侵略を阻止してきた重厚な歴史を感じさせる。

 堅牢な守りの中に敷き詰められた発展の証たる街の姿。


 魔術だけではなく、工業や商業にも力を入れており、『この世に生まれたならば一度はこの都市を見てから死ね』とまで言われるほどに美しくも力強い活気にあふれた都市でもあるのだ。


「まさか最初に入る場所が酒場とはな……」


「いいじゃんいいじゃん。あ、すみませ~ん! ビールひとつ!」


「ガチで酒飲むのかよ。しゃねぇな。……俺はサンドウィッチ。20個だ」


「そんな食べるの!?」


「食わなきゃ力が入らねぇ」


「力仕事するわけでもあるまいし……」


「うるせ」


 大きな皿に山のように積んであるサンドウィッチが運ばれるや、アートマンは人目を気にせずにむしゃむしゃと食べ始める。


 シャキシャキとしたレタスと新鮮なハムとトマトを挟んだ分厚めのパン。

 ふたつも食べれば十分なくらいのサイズだが、アートマンはヒョイヒョイと口に運んでいく。


「うわぁ~すっごい。みるみるなくなっていく。あ、すみませ~ん。おかわりお願いしま~す!」


 大ジョッキでガブガブとビールを堪能するハンナ。

 今ので3杯目であり、本人はまだ飲み足りないというような感じで店員ですら表情を若干引きつらせていた。


 独特の雰囲気を醸し出すそのテーブルでの食事の中で、ようやくまともな会話の空気が生まれる。


「お前、これからどうするんだ?」


「私はそうだなぁ。これだけお金があればしばらくはハードな仕事しなくて済むから……ボツボツやっていくわ。とりあえず魔物退治の依頼とかあったら……」


「テメェ全然懲りてねぇのな。もう助けねぇぞ」


「え~、そう言わずにさぁ~。……なぁんてね。大丈夫、今度はヘマしないよ」


「どうだかな」


「アナタはどうするの?」


「アレドリア図書館……ここにあんだろ? そこにいくんだ。昔の馴染みが管理人やってるからな」


「えぇ~アートマンが図書館に!? 似合わない……」


「よく言われるよ。じゃあ、ここはお前の奢りでいいんだよな」


「いいよ。私の愛用武器ダーリンを取り戻してくれたお礼」


 アートマンは席を立ち、酒場から出る。

 遅れてハンナが出てくると。


「また会いましょうねー!!」


 行き交う人々の目を気にせず、天真爛漫てんしんらんまんな明るさを全身にたずさえ、両手を振りながらアートマンを見送った。


(ホントにまた会いそうだ……あぁいうタイプは平気でヒトのプライベートにも押し入ってくる)


 振り向かずに軽く手を振って、アートマンは西の区画のほうへと歩く。

 


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