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黄金の女

 サラトラ・キェルケゴール。

 『黄金の女』の異名を持つ大剣使い。


 アートマンもここへ来るまでに彼女の名を何度も聞いた。

 恐ろしい戦鬼がいると噂がたった戦場には血の海が向こう側まで広がるという。


 美貌に似合わぬ残虐性は、彼女の戦装束の黄金の名の下に伝説を作り上げた。


「アナタの体術中々ね。見ていてキモチ良かったわぁ」


「嗜み程度だ。お前ほど下品じゃない」


「いやん、初対面のレディに対して下品だなんて……お仕置きが必要かしら?」


「やってみろ。……テメェらは下がれ」


「な、なにを言っている! ここは我々の管轄で……」


「大人数でかかればその分ここは血の池地獄になっちまう。俺に任せろ」


 サラトラとアートマンが対峙する。

 サキュバスのように艶やかな笑みと石像のように硬い顔。


 両者睨み合う中、ジリジリと圧力が空間を軋ませていく。

 始まりのきっかけは一瞬だった。


 小石がコロンと向きを変えた瞬間の音。

 ふたりの姿が一瞬にして消えて、衝撃波と剣閃のみが辛うじて見える程度。


 目にも止まらぬ速さとはまさにこのこと。

 アートマンは槍を使っていないにも関わらず、完全にサラトラと渡り合っている。


(魔力をまとわせた腕で私の攻撃しのぐって……!!)


 誰の目にも超越的ながら互角の勝負に見えている中、サラトラは久々に悪寒を感じていた。

 肉厚な魔力層と重圧な筋肉から織り成される拳の理。


 大剣という凶悪な刃をものともしない立ち回りと刹那に巡らされる駆け引きの数々。


 これまで経験したことがないレベルの相手に、サラトラの太刀筋が鈍る。


「しまっ────」


「ヌンッ!!」


 深く沈んだ姿勢からの山突き。

 重圧な踏み込みから放たれる両の拳が、サラトラの顔面と腹を打つ。


 ────チュドッ!!


 衝撃をまといながらサラトラの身体は建物に衝突し、瓦礫とともに埋まっていった。

 拳を蒸気めいた覇気がまとう中、その先にある気配に違和感を抱く。


(変わり身の術!)


「はい、死んだぁぁぁあああッ!!」


「なんのぉお!」


 上空背後から斬りかかるサラトラとまたぶつかり合う。

 先ほどよりはるかに苛烈な動きで、サラトラも勢いづいていた。


「スゴいわ。私の動きに合わせられるオトコなんていつぶりかしら。ねぇもっとハゲしくしやりあいましょ?」


「ご冗談!」


 蹴りを華麗に宙返りで躱したサラトラは女豹のような着地をし、下腹部あたりに手を当てる。


「ぅふぅん……もう我慢できないッ」


(下腹部の部分から強力な魔力反応。魔力ブーストで身体能力を上げて一点突破するタイプか。こういうヤツは厄介だ。周りなんざお構いなしに平気でぶっ壊す。……てか、あれでブーストかけてなかったのかよ)


「さぁ、もっと燃え上がりましょ!!」


 ここまでの規模になると最早災厄そのものだ。

 これにはハンナも加勢しようと前に出ようとするも、それをアートマンに静かに制される。


「アートマン?」


 彼の表情は変わらず静かなものだった。

 凪いだ海を見るように穏やかで、とても血生臭い戦場に立っているとは思えない。


「どうしたのぉ? アナタも激しく昂っていいのよぉ!」


「お気遣いなく、だ。お前がその気なら、こっちも使わざるをえない」

 

 恐れることなく、彼はサラトラのほうへと1歩踏み出す。

 アートマンのかもしだすそれは『魔力』ではない。


 ゆえにそれは『魔術』にあらず。

 それを感じ取ったサラトラもハンナも思わず押し黙った。


「────汝、『異次元なる言葉(ロゴス)』をその耳に聞け。我はそれを口ずさむ者。外なる祝福、母なる次元、聖なる中心への道標。始源の力、究極的自然、かの者の言葉は暗黒の宇宙すら千の胎盤はらに包み覆み、やがてかの者にゆだねるだろう」


 アートマンの瞳が蒼白いエフェクトを出すように光り、サラトラを睨みつける。


「ロゴス? そんなの聞いたことないわね」


「知る必要はない。そして、これからも理解はできない」


「言ってくれるわね。……予定変更。その脳みそビン詰めにして知り合いの魔術師に届けて上げる」


「やれるもんなら、やってみな」


 お互い力を解放した状態で再度ぶつかり合う。


「んふっ!」


 サラトラの瞳にも余裕の色が見える。

 魔力によるブーストのほかに、別の力も宿したようだ。


(右へ2歩……そこからワン・ツー。当たり、拳の2連撃!!)


 未来予知。

 サラトラの切り札的能力であり、アートマンの気配からして使うに不足はないと判断した。


 その後も予知は的中し続ける。

 今度はサラトラが押し返し始め、アートマンの防戦一方となっていった。


 ピンチと見るやハンナが焦って銃を手にしようとしたとき。


「ロゴス・理知を騙せ・ファータ・モルガナ」


 彼が妙な言葉を呟いた。

 サラトラは鼻で笑いつつ、大剣を振るおうとしたそのとき。


「うぐぅう!?」


 予知が外れた。

 回し蹴りが来る未来が見えたにも関わらず、現実はまったく違うものになる。


 脇腹に拳がめり込み、そこから続けざまにアッパーカット。

 未来予知が外れたことと、無防備に攻撃を受けてしまったことへのショックで受け身を取り損ね地面を無様に転げる。


(なに、今の? 私の未来予知が、外れた? そんなはずはない。私の未来予知から逃れるだなんて不可能よ)


 だが現実としてアートマンは見事に真正面から打ち破った。

 舌打ちをしながら立ち上がり大剣を構えて、もう一度未来予知を行う。


 動きが丸見えだ。

 どの方向へと行くのか、どんな攻撃をするのか手に取るようにわかる。


 この力があればどんな相手も掌の上。

 なのに目の前のこの男に限り、それが通用しない。


 再度斬り結ぶも、先ほどまでのように優勢にはなれない。

 むしろ未来のヴィジョンが余計にサラトラの動きを鈍らせる。


「アナタ、なにをしたの!?」


「……簡単に言えば、未来予知が外れるようにした」


「なっ!?」


「正確には偽の未来をお前に見せてる。……ほかの力も見たいか? お望みならもっとおぞましいロゴスをお前に捧げてやろう」


 その言葉に嘘はない。

 アートマンの表情は依然変わりないが、その瞳の奥には確かに狂気めいた思念が存在する。

 

 彼の過去に起因するものなのだろうが、その真意は計り知れない。

 それを感じ取ったサラトラは睨みつけたまま一歩退き、大剣を納める。


「アナタ、名前は?」


「……」


「あら、教えてくれないのぉ? 私はサラトラ・キェルケゴール。"黄金の女"と言われた大剣使いよ」


「失せろ。二度とこの都市に現れるな」


「つれない男。でもそういうとこちょっと好き。ちょっとだけよ。いいわ。調べればわかるだろうし」


「ちょっとアンタ。このまま逃がすと思っているの?」


「余計な横槍、いえ、横銃を入れないでくださる? 男と女が話し合ってるの。わかるでしょ?」


「あら、そ。そんなに話たきゃ牢屋の衛兵と喋れば?」


「はぁ、不粋な女ね。嫌いよ。……ずいぶんと気に入られてるのねぇ」


「さぁな」


「……ちょっと妬けちゃったかな。まぁいいわぁ。それじゃあねぇ」


 まるで瞬間移動のように跳躍していった。

 ハンナはそんな彼女を撃ち抜こうと何発か撃つも結局は外れ。


「お前えげつねぇことすんな」


「うるっさい」


「……さて、俺らは俺らでずいぶんと派手にやっちまった。これ以上騒ぎが大きくなる前にずらかるぞ!」


「あ、ちょっと待ってよぉ!!」


 ふたりは人混みをかきわけ、とりあえず現場を離れるために遠くへと走っていく。

 都市の、どこか落ち着ける場所へ。



 

 


  

これにて第一章おわり

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