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金獅子と言われた女

 ハンナを追いかけるも、異常なまでに速い。

 アートマンも脚力には自信はあるが、すばしっこさの点なら彼女のほうが上か。


 現場にたどり着くと、この都市を守る衛兵と強盗が戦っていた。

 銀行を襲っていたらしく、駆けつけた衛兵と交戦中。


 すでに一般市民にも被害が出ている中、ふたりは物陰に隠れる。


「……あの様子なら連中がお縄になるのも時間の問題だ。ここは衛兵に任せておかねぇか?」


「そんなことできない」


「一応聞く。なんでだ?」


「いちいち理由っている?」


「だろうな」


 そんなとき、強盗のほうに増援が来て一気に形勢が逆転した。

 中には相当な使い手もいるらしく、衛兵が放つ銃弾を剣で軽々と弾いている。


「あーあー、お前といると暇しないな」


「協力してくれるんでしょ。素直になっちゃえ」


「皮肉で言ってんだ。……じゃあ、行くぞ!」

 

 アートマンは強盗団の側面に一気に肉薄し、素早い体術で一掃していく。


 彼を援護するようにハンナは自慢の銃で撃ち抜いていって、どんどん数を減らしていった。


「おい、あの物陰で撃ってるのはハンナ、だよな?」


「あぁ、だがあの強盗連中とやりあってるのは誰だ!?」


 銃を持つ相手にも、剣士相手にも引けをとらず、一撃で昏倒させていくアートマンと、狙撃手のように精密な銃撃で急所を撃ち抜くハンナ。


 やっと形勢逆転したと息巻いていた強盗団は一気に総崩れ。


 誰もがその場から逃げようとしてひとりまたひとりと捕まっていく。


 無論、逃げようとする前にハンナに撃ち抜かれる者もいるのだが。


(容赦ねぇなあの女。銃を持つと豹変するタイプか)


 2挺とは言え、リロードが思った以上に速く、次の12発までの間隔が通常より遥かに短い。


 彼女のことを天才と呼ぶ者がいるのも頷ける。


 そんなハンナの驚異に負けないくらいに、アートマンの体術もめざましいものだ。


 どこか大陸武術めいた動きで、人体急所を的確に打ち抜いている。


 膝や肘などの硬い部分で相手の骨を容易く折り、柔術のような関節技で固めたと思えば、相手を軽々と投げ飛ばして2、3人ほど巻き込んでいく。


 一騎当千とはまさにこのこと。

 さらには魔力で編んだ縄で残りを一網打尽にするなど技のレパートリーに枚挙がない。


「あの図体であの身のこなし。しかもあれだけの魔術を……」


「あ、見ろ!」


 指差した方向には人質を取る強盗のひとり。


「お前ら動くなぁ! この幼女ガキ殺すぞ!」


「うわぁあああん!」


「うるせぇええ! 泣くんじゃねぇええええ!!」


 人質を殴りつける強盗。

 血走った目で周囲を威嚇する。


 特にアートマンに対する警戒心は強い。

 近づかせまいと罵声を浴びせまくる始末だ。


「やれやれだ。面倒事増やしやがって」


「近づくんじゃねぇっつってんだろ!!」


「人質をとったところで、俺には……」


 そう言いかけたとき、ふと視線を横にやると。


「その子、放しなよ」


 銃はすでにホルスターに納めた状態でハンナが近づいてきた。


「お、おい女ぁ! テメェ、止まりやがれ! 止まらないと」


「無駄だよ。アンタが引き金引くより私のほうが速い」


「な、なにを言って────」


「今ならまだ裁判を受ける権利はある。だけど」


「うるせぇぇえぇえええええええ!!!」


 そう言って人質に銃口を向けた次の瞬間、アートマンでさえもその空間の異常性を感じ取った。


 それはまるで爆発前の刹那、膨大な空気が圧縮して一気に解き放たれるかのような圧力が広がる。


 ────銃使いの早撃ち。


 銃声は一発のそれだったと思うが、実際に放たれたのはなんと『3発』だ。

 普段の表情はなりをひそめ、荘厳な戦乙女のような形相で長い髪をフワリと舞わせていた。


 2発の弾丸を撃ち込まれ、強盗は倒れる。

 持っていた銃は砕け、もう1発は物陰に隠れて銃を撃とうとしていたもうひとりのメンバーに。


(大した腕だ。まさに神業ってやつだな)


 動く手間を省いてくれたことには感謝した。

 ハンナのこれまでの性格を考えると、すべて自分でやらなければならないと思っていたのだが、思いもよらぬ側面に安堵と同時に空恐ろしさを感じる。


「……もう大丈夫よ。ホラ、ママのところいっといで」


 人質になった幼女の頭を撫でて母親のところに行かせているころには、すでに表情は戻っていた。


「あ、アートマン! おっつかれ~」


「おう、お前もやればできるじゃねぇか」


「ん~、私のことみくびってなねぇ? 前にも行ったじゃない。私、天才って言われてるって」 


「調子いいこった。さて、これ以上騒ぎが大きくなる前にずらかるぞ」


「え、もう行くの? 恩赦とか欲しくないの?」


「だったらテメェひとりだけもらっとけ」


「いや、それは……────」


 即座にそれは現れた。


「早撃ちによる3発同時撃ち。普通は2発でもすごいのにそれをやってのけるって……さすがは"金獅子"って言われてるだけはあるわね。その銃とアナタの天性の才能がなし得る神業。興奮しちゃうわぁ」


 のそのそ現れたるはひとりの美女。

 レオタードの上からジャケットを羽織ったようなデザインの黄金の鎧と、ハンナと同じ長い金色の髪。


 身の丈ほどもある大剣を片手に全滅した強盗団を見ながら、銀行強盗の失敗を察知し、興醒めと言わんばかりにため息を漏らす。


「なぁによぉう、私が来るまでもうちょっと粘ってよねぇ。お化粧にちょっとてまどっちゃっただけなのに」


「お、おい、コイツ……!」


「あぁ間違いない。ならず者……"黄金の女"だ!」


 衛兵が騒ぎつつも、銃をかまえる。

 ことの成り行きを見守っていたアートマンも、その名に聞き覚えがあった。



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