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争いの予感

 そろそろ腹が減ってきたので、昼食にありつこうと観光で賑わう通りを歩く。

 味はそこまで気にはしない性質なので、適当に店を選んだ。


 流行りの店はあまりにも混雑している。

 観光がメインの地区なので当たり前だとは思うが。


「お、あそこの店はそこまで混んでねぇな。あそこでメシにでもありつくか」


 少し古そうな造りの店。

 中へ入るとそこだけ時間が逆行でもしているかのように、落ち着いた空間だった。


 ひと昔前はかなり繁盛していたかもしれない。

 そんな名残を感じさせる店内を歩くと木の床が心地よい軋みを上げる。


「オヤジ、これとこれを……」


「あいよ」


 適当な店で適当に頼んだ。

 まばらな客席に漂う静寂と、わずかに聞こえる外界の喧騒さがうまく合わさり、心がリラックスの状態へと落ち着いていく。


 この音のバランスもアートマンは好きだった。


(観光区も捨てたもんじゃあねぇな。この店、行きつけにしよ)


 考えているうちに料理が運ばれてきた。

 普段は大食いな彼だが、頼んだものの規模を考えるとまだ少食なほう。


 スペアリブの束とビール。


 ほんのりと暗い席で舌と鼻を肥えさせる。

 口の中に残る肉汁をビールで流し込み、ほっとひと息。


「オヤジ、代金だ」


「あいよ」


 店主はそこまでしゃべらない。

 必要最低限の会話で済ませてくれるところがまたいい。


(ハンナとは正反対だな。……奴をここに連れてくるわけにはいかねぇ。死守せねば)


 そうして店を出たときだった。


「あれ、アートマンじゃん! ヤッホー!」


「うげっ!?」


「うげってなに? なぁんでそんなに驚くの」


「ハンナ、お前……なんでここに」


「なにって、フラフラ~って歩いてたらここに着いた。そしたらアートマン見つけた」


 子供のような純真な瞳を向けながらハンナは歯を見せつつ笑う。

 この女からは逃げられないのかと、アートマンは内心嘆いた。


「さっきこの店から出てきたよね? なになに? この店超いいの?」


「お前には関係ない」


「あ、ってことはめっちゃいいんだね。私もいつか来よっと」


(だからなんでお前はこういうときだけ勘が良いんだよッ!)


 ギリギリと歯軋りをしつつもハンナから逃げるように踵を返そうとすると、ハンナもひょっこり着いてきた。


「おい、なんで着いてくる?」


「……?」


「当たり前じゃん、みたいな顔するな。俺はひとりで歩きたいんだ」


「え~いいじゃん。ひとりよりふたりだよ」


「仮にそうでもお前とはごめんだ」


「んも~照れちゃって。カワイイんだからぁ」


「かわっ……、くそ、勝手にしやがれ」


「わーい」


 ハンナに調子を狂わされつつも、区内を歩くことになったアートマンだった。

 この都市にいて長いだろうハンナの表情がさらにも増して明るい。


 それがどんなに小さなことでも、すべてはアートマンに向けられていた。

 なぜかアートマンはそれらから目を離すことができない。


 ふと、彼の中の記憶に眠る"ひとりの女性"が浮かび、そのシルエットがハンナとかぶる。


「……ーい、おーいアートマン」


「お、おう、なんでぇ? どうかしたか?」


「さっきから呼んでるのに全然反応してくれないから」


「あぁ……そうか。すまん、ちょっと考えごとしてた」


「考えごとって? ……あらら~、ナニ考えてたのかなぁ~? んんん~?」


「もっぺん首折れろ」


「ちょ、ひどい!!」


 そんなことを話ながらまた歩こうとしたときだった。


「キャァアアアアアアアアッ!」


 向こう側の広場で悲鳴が起きると同時に、銃声と血の臭いが届いてくる。

 アートマンが反応し向かおうとしたときには、すでにハンナが動いていた。


「ちょ、待て!」


 

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