女ガンスリンガー、まずは蘇生魔術
「あれが俺にとっての"最後の都市"か……。あそこで3本目がなけりゃ、俺も終いか」
黒のボロマントを身にまとい、布で厳重に包まれた2本の槍を背負った巨漢。
さびしさまとう風の中、星の下に見える城塞都市に目をやる。
彼の名は『アートマン』、かつて賢者と言われた男。
その最後の旅路、山岳にそびえる古都に目を細めた。
思うに、どこか北風のような冷たさと人生への乾きを宿した瞳なのだろう。
失って、疲れ果てて、それでも旅をしてきた者の証がその目にはあった。
「行き倒れ……じゃないな。……しかも女だ。武器は持ってない……いや、奪われたか? ……追い剥ぎにあったにしちゃあ不自然な死に方だ。争いの形跡もない。……まぁいい。こんな若ぇのにみじめな死にざま晒すとはな。待ってろ」
周囲に緑は少なくなり、土色が目立つようになっている。
そんな中を進んでいくと、道の真ん中に人が倒れているのを見つけた。
ひと目でわかるほどに凄惨なものだった。
うつ伏せに倒れていると思ったが、違ったらしい。
扇情的なカウガールの衣装をまとった若い女。
あまりに艶美なその胴体は仰向け、首はややうしろ向けに折られていた。
アートマンは彼女の傍にしゃがみ手をかざす。
魔力がほとばしり、彼女の肉体を優しく包み込んでいった。
ものの数秒で、その効果は表れる。
光が消えると、女は上体を起こして周囲を見渡した。
「ここは、……私死んだはずじゃ」
「気がついたか。なにが起きたか知らねぇが、災難だったな」
絵画の女神のように腰元まで流れる金色の髪。
瞳には生気が戻り、両の碧眼がアートマンをとらえるや、彼女の表情はパッと明るくなる。
「ワァオ! まさか生き返られるだなんて信じられない! ありがとう、えーっと、魔術師さん?」
「俺の名はアートマン。魔術師なんてそんな高尚なモンじゃあねぇ。ただの旅人さ」
「ウッソだぁ! ぜ~ったいすごい魔術師さんだね間違いない! うん!」
死から蘇らせた女。
普通ならかなり戸惑い、死の直前の恐怖やら、死んでいた事実などで発狂でもしたりしそうなものだが……。
「こうして助けてもらえるなんて、私の運もまだまだ捨てたもんじゃあないね」
「……えらくこう、カラッとしてやがるな。理由は知らねぇけど、死んでたんだぞ?」
「うん、死んでたよ。で、アナタに……アートマンに助けてもらった」
そういうことでしょ?
にこやかに首を傾けて見せながら立ち上がるこの女に、アートマンは調子を狂わされそうになる。
「あ、まだ名乗ってなかったね。私は『ハンナ・アールマティ』。見ての通りのガンスリンガーよ。あ、カウガールってわかる? 世間じゃそういう表現もあるらしいケド」
「お、おう。まぁわかるけどよ。……で、その銃使いの嬢ちゃん」
「ハ・ン・ナ!」
「……ハンナの商売道具が見えねぇんだが? 質屋に売った帰りに襲われたか?」
「ブッブー! 大外れ! ……多分、アイツらに奪われたんだと思う。私の持ってるの結構上物だからね」
「アイツら?」
「山賊の連中よ。それに黒ずくめの殺し屋がひとり」
曰く、都市の外れの村々を悩ませている山賊を相手に、殺し屋を雇ってともに討伐しようとした。
ところが殺し屋は山賊とグルで、まんまと罠にはまってあの場所で殺された挙句、ガンベルトごと奪われたのではないかと。
どれだけ腕に自信があったかは知らないが、たとえ裏切りがなくとも、たったふたりで挑むのは無謀というものだ。
「山賊がどれだけの規模かは知らねぇが、そういうのは軍隊にでも任せときゃいいんだ。計画もなしにヒーロー気取りで首突っ込むもんじゃあねぇ。ま、高い授業料だと思って諦めるんだな」
「え~!」
「え~、じゃない。よみがえっただけでもありがたいと思え」
「やだ」
「もう勝手にしろ」
「あ、待ってよ! あれは大事なものなの! ねぇお願い。武器取り戻すの手伝って欲しいの!」
「なんで俺が?」
「アナタ、魔術師なんでしょ? 多分すっごい強い。お願い、協力して。お礼は弾むから」
「いらねぇよ」
「じゃあどうしたら協力してくれるの! ま、まさか、私の身体?」
「てめっ……もっぺん死にやがれッ!!」
アートマンは通せんぼするハンナの脇を通り抜け、再び都市へ歩こうとしたが。
「ちょ……ごめんって。でも、ホントにそうなの。普通の銃だったら諦めただろうけど、あれだけは……」
「村の人間を助けようとした理由は……その銃でただドンパチしたかったからその理由づけか?」
「それは否定できない。けど、ホントに良い人たち。こんなろくでなしの私でもさ、なにか力になれたらなって思って……」
「……はぁ」
アートマンは足を止めた。
ハンナのほうを振り向き、もっと詳しく話を聞こうと道の脇にある切り株に座るよう告げる。
「勘違いすんなよ。困ってる村人のためにやるんだ。テメェの銃なんざどうでもいい。さっさと終わらせてさっさと旅に戻る。それだけだ」
「手伝ってくれるのね」
「いいか、そこで銃がなけりゃもう諦めろ。銃探しまではしない。それでいいのなら、な」
「わかった。じゃあ、奴らのアジトを教えるね……」
女ガンスリンガーの蘇生から始まったこの奇妙かつ運命的な出会いと面倒事が、アートマンの灰色の人生を徐々に彩っていく。
次話は昼か夕方にて!!
★★★★★、ブックマークぜひぜひお願いいたします!!