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始まりニューデイズ

カクヨムでも投稿している作品になります。

温かく見守ってください。




「どうして……どうして京くんは……どこに行っちゃったの……?」

「なんで……なんで京くんなの……」

「なんで……曜くんじゃなかったの……」

「死んだのが京くんじゃなくて曜くんだったら……良かったのに……」


















 窓から見える空は相変わらずどんよりとした雲に覆われていて、見ているだけでため息が溢れてしまいそうだった。

 時刻は午後の1時15分だった。

 外では早めに昼食を終えたであろう男子学生達がバスケやサッカーに精を出していて、よくもまあそんなに体力があるものだね。

 僕が食後に直ぐに運動でもしようものなら直ぐにバテバテで吐き気を催してしまうだろう。


「……い……ら……さ……あ……は……ん……」


 教室の机からいつもの様に窓の外を見ていると反対側から声がする。

 はぁ、やれやれ、またいつものか……

 そして向かいの呼び主の方に目を向けると、そこには1人の女子生徒が立っていた。


「相原さん、いつもいつもどうしてあなたは先生の授業をちゃんと聞かないのですか? 学校は学ぶために来るところです。読書をするために来るところではありません」


 そう言って僕の前に仁王立ちしている女性。

 彼女の名前は氷室(ひむろ)紗夜(さや)

 このクラスの学級委員長でもあり、この高校の風紀委員でもある。


 僕はこの女性に悪い意味で目を付けられていて主に授業態度のことでだった。

 僕は基本的に授業中は文庫本を読んでいる。

 僕が授業中に本を読む理由、それは授業が退屈だからで、まともに授業を受けなくても良い点が取れてしまう。

 軽く全教科を100点取れるほどには。


 教師陣もそのせいで僕に強く言ってこない。

 僕は入学してきてからずっとテストは1位を取っているし、1年の頃も、お陰様でずっと授業中は文庫本を読んでいた。

 だが、2年生に上がりクラス替えが行われ、彼女、氷室紗夜と出会い、僕の生活は一変した。

 彼女が学級委員になると同時に、僕への注意喚起が始まったのだ。


「別に聞かなくても自分で勉強すれば理解出来るし、それにちゃんと点数だって取っている。現に僕は入学してからずっと学年1位を譲った事がない。ですよね? 学年2位の氷室さん?」


 そう、彼女は学年2位の実力の持ち主なのだ。

 ずっと晩年2位で僕に勝てたことがない。

 僕より順位の下の人に勉強がどうのこうのと指図されたくない。


「それに、授業中にふざけて妨害している訳ではないし、誰かに迷惑をかけている訳でもない。なら別にいいだろう?」


 僕は文庫本を見ながら淡々とそう返す。

 正直このやり取りですら面倒だ、しかもここ最近毎日だ……


「だからと言って授業中に本を読んでいい理由にはなりません。本は没収させて頂きます」


 そう言って僕の読んでいた文庫本を取り上げる氷室さん。

 本当にめんどくさいなこの人は……正しさの奴隷にでもなったのだろうか? ため息を零し、そのまま机に突っ張って寝ることにした。


 本を取られたんじゃ、何もする事はない。

 明日から、万が一に備えて予備の本を2、3冊持ってくる事にしよう。


「ちょっと、何寝てるんですか!? 話はまだ終わっていません」

「この学校の風紀委員会は昼休みに寝る事すら許してくれないのかい? せめて僕にテストの順位で勝ってからあーだこーだ言ってくれ」

相原(あいはら)さんは本当に口が減らない人ですね……」


 口が減らないはもちろん、盛大に気に触る様な言い方をしたのは自覚している。

 そう言いながら不服そうではあるが、彼女は自分の席に戻っていった。


「はぁ……やっと解放された」


 流石に僕も疲れてしまい、何かしら具体的に策を考えないと僕の身が持たない。

 しばらくすると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 文庫本を取られているので久しぶりに授業を聞いてみる事にしたが、授業が始まって早10分、非常に退屈だった。

 この時間を後40分も過ごさないといけないのか……? それに今日は6限まであるから10分の休憩を挟んでさらに50分になり、これはなかなかの地獄だな……


 よし、サボろう。


 僕はそう思い席を立ち先生の元へ向かった。

 体調が悪いという体にして保健室へ行くことにした。

 保健室の先生にも事情を説明して、ベッドを借りて休むことにした。

 時間はあっという間に過ぎて、もう下校時刻になっていたが、僕はそのまま寝てしまっているので気がついていなかったため、目を覚ますと時刻は17時になっていた。


 こんな遅くまで残っているのは部活動に入ってる人達くらいだろう。

 荷物をまとめて帰らないといけないとそう思いベッドから起き上がり閉めていたカーテンを開けて保健室を後にした。


 他の教室は電気が消えて真っ暗だったが、僕の教室だけ明かりが点いていた。

 まだ誰か残っている人でもいるのだろうかと、そう思い教室のドアを開けてクラスの中に入る。


 そこで、1人の女性と目があった。

 このクラスの学級委員長の氷室さんだった。

 こんな時間まで何をしているのだろうか? そんな事を疑問に思っても仕方がない。


 僕はそのまま帰るだけだし、無駄な口論は避けたいので、そのまま素通りして自分の席へ行き、荷物を纏める。

 すると氷室さんが席を立ち上がり僕の席へと歩み寄ってくる。


「体調は大丈夫ですか?」


 またしても何か説教かと思ったら意外にも、僕の体調面の心配だった。

 氷のようにに堅く冷たい人だと思っていだから、こうやって他人を心配するくらいには柔らかいらしい。


「暫く休んだので問題ないです。ご心配おかけしてすみませんでした。僕はこれで失礼します」


 淡々とそう述べて僕は席を立ち上がり教室を後にしようとした。

 だが、氷室さんが僕の制服の裾を掴み、それを止めた。


「あの、これを……」


 すると氷室さんが何かを渡してきた。

 目線を向けると、昼休みに没収された文庫本だった。


「昼休みは文庫本を取り上げてしまい、申し訳ありませんでした」

「謝るくらいなら最初からしなきゃいいんじゃないですか?」


 そう言って謝ってくる彼女に対し、僕はまたしてもきつい言葉をはく。

 出来ればこれを機にもう関わって欲しくないものだな。


「あの時は私も興奮してしまい、冷静な判断が出来ていませんでした」

「ま、どうでもいいですけど今後はこの様な事はやめてください。それともう突っかかってこないでください」


 僕は氷室さんにそう冷たく言い放ち、教室を後にした。そしてその帰り道……


「ですが、やっぱり学生の本分は勉強ですので、そこは私も譲りません」


 氷室さんがついてきた……そして僕の避けていた説教のおまけ付きで……


「今はもう学校も終わってプライベートなんで、説教とかやめてもらっていいですか? 僕の母親じゃあるまいし」

「今は私もプライベートの氷室紗夜として言っていますので」


 あー言えばこーゆー人だな。

 氷室さんという女性を、また余計にめんどくさいと思ってしまった。


「それに、相原さんは何故友達を作らないんですか?」


 不意に氷室さんがそう聞いてきた。

 友達か、考えた事もないなそんなこと。

 何故急にそんな事を聞いてきたのかは不明だが、僕は氷室さんに淡白に言葉を返した。


「変に気を使ったり使われたりするのが嫌なので、人間関係の数だけトラブルも多いですし。なら1人でいた方が楽なので」


 これは事実だ。

 友達なんかはただ相手のご機嫌を伺いながらよいしょしながら築く関係だろう。

 そこには信頼関係もなく必要とされていないし、あるのは承認欲求だけだ。


「そうですか。では、私はこっちなのでお先に失礼します」


 そう言って軽く会釈をして氷室さんが帰っていった。

 今日は久しぶりに長く人と絡んだ気がした。

 たが、心地良いものではない。

 自分のしたいことを妨害されて不満しかなかった。







 ▼







 次の日、僕はいつもの様に学校へ登校していた。

 鞄を置き、いつもの様に文庫本を広げて読み進める。

 昨日は急に取り上げられた為、どこからか分からなくなっていた。

 中盤辺りの記憶はあるので、そこら辺でページを探す。


「相原さん、おはようございます」


 すると誰かが僕に挨拶をしてきた。

 顔を上げるとそこには氷室さんがいた。

 笑いもせず、かといって怒っている訳でもない、そんな表情をしていた。


「おはようございます」


 一応は目を見て挨拶はしたが、すぐに文庫本へと視線を落とす。

 只の挨拶なのにクラスの連中は何やらヒソヒソと話をしている。

 そんなに僕と氷室さんが挨拶をするのが珍しいか? 僕は基本的に人とは関わらない様にしている。


 だが、全くの遮断ではない、必要最低限の会話なら行う。

 挨拶だってされれば当然返答はする。

 クラスの騒めきをうっとおしく思いながら、僕は再度、文庫本へと意識を集中させる。


 その後の授業は普通に行われた。

 僕もいつもの様に授業中は文庫本を読んでいた。

 普段なら10分休憩の時にも氷室さんが小言を言いに来るはずだが、何もしてこない。

 昨日の帰りに道にもう突っかかっこないでほしいと伝えた。基本的に彼女は真面目な部類の人だ。

 だから関わってこないのはそのおかげだろう。

 だが、問題が起きたのは昼休みだった。


「ですから、毎回言ってますけど授業中に本を読むのはやめてください」


 俺の目の前で昼食の弁当を食べながら説教をしてくる氷室さん。

 昼休みは学校生活において、1番過ごしやすい時間だろう。

 だが、例の彼女はその安らぎさえ犠牲に、僕の元へとやってきていた。


「その前にさ、なにしてるんですか?」

「何をしていると言われましても昼食のお弁当を食べているだけですが?」

「いや、いつもここで食べてないじゃないてすか」

「ここで食べては行けませんか?」

「目障りなので」

「……相原さんってストレートに物を言うんですね」

「隠し事が出来ない正直者なので」

「そんな屁理屈は要りません」

「休み時間くらいストレス無く過ごしたいんですよ僕」

「私も相原さんを説得出来る時間が休み時間しかないもので、こうするしか手段がありませんでした」

「昨日僕は突っかかってくるなと言ったはずですが」

「突っかかっていません。これは風紀委員会としての当然の責務です」

「僕がいつ学校の風紀を乱しましたか?」

「授業中に本を読んで良いという規律は本校にはありません」

「別に誰にも迷惑はかけていないじゃないですか。違法性阻却事由です」

「またもそんな屁理屈を。とにかく、私は相原さんが改心するまでこの行為はやめませんから」


 何それすごいめんどくさいじゃん……僕は改心する気なんかさらさらないし、だとするとこれが毎日続くってことだもんな。


「風紀委員って1人の生徒に付きっきりになるくらい暇なんですか? ならもっと学校を良くしようと考えてみては?」

「この学校で風紀を乱しているのは相原さん、貴方くらいなんですよ。もう少し自覚してください」


 話していても、らちがあかないと、そう思い僕はため息を零して昼食を取ることに専念する。

 明日からは場所を変えるか。


 その後も氷室さんの小言は続いたが、聞き流しながら昼休みを過ごした。


感想などお待ちしてます。

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