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手鎖

作者: 神名代洸

何かの本で読んだことがある。

手鎖は警察関係者しか持っていない。

だけど僕は今まさに両手に手錠をかけられていた。

犯罪なんかした覚えもないのにね。

だけど僕は知らなかったんだ。

亡くなった奴がいて、僕の知り合いだったってこと。




「ねぇ、ちょっと。なんで僕がこんな目に?」

「は?覚えてないってか?お前がした事だ。罪を償え。」

「罪って何だよ?僕は何もしてないよ。」

「それが罪だとなぜ気づかない。お前のせいであいつは死んだんだ。それを…それを…。」

「え?ちょっと待てよ!僕のせい?何で?何もしてない事がなんで罪になるんだ?何があったんだよ。教えろよ!」

「いいだろう…死ぬ前に懺悔して死ね。」


そう言って話し始めたのは僕が知らない奴のダチとかいうやつだった。




死んだ奴はクラスで浮いていた。よく言う虐めってやつだ。僕はそのいじめグループには参加してなかった。だけど見て見ぬ振りをしていた。

知ってはいたよ。

だけどさ〜、多勢に無勢、刃向かったらこっちが逆に的にされちまう。だから助けを無視したんだ。

それが続いたのは3ヶ月ほどだったかな?

ある日からバッタリとそいつは学校に来なくなったから…。担任は気づいていないようだった。

まぁ、気づいたって何もできなかっただろうなぁ〜?ここいらでは有名な札付きのワルばかりだったし、担任自体も歳だったから。定年までの腰掛けとしか見てなかったのだろう。


大体ひと月経った頃、教師もようやくきていないことに気づき、過去に遡って学校に来てないことに気づいた。慌てた様子で授業を中断し、実習として自分は職員室に入る。

直ぐに自宅へ連絡するも、誰も出ない。

こうなると行くしかなくなる為、放課後を待ってその子の家に急いで向かう。


すると玄関には喪中の紙がかけられており、何かあったのかと教師も不安になりながらも玄関のチャイムを鳴らす。

ペタペタと足音が聞こえたかと思うと、玄関が空き、母親らしき女性が顔を出す。

泣き腫らした目。

下ばかり見る目。

こちらを見ているのかと疑いたくもなるが、この家で何かあったことだけはわかった。


「何しにきたんですか?今頃…今頃になって。」

「何かあったんですか?」

「何かあったかじゃないですよ。子供はもういないんです。…死んだんですよ。」

「えっ?どうして…。」

「先生が知らないわけないですよね。子供はいじめられてたんですから。まさか知らなかったとか言わないですよね。」

「お恥ずかしい話ですが、私は知りませんでした。」

「そんな事ないわ。子供はちゃんと言ったんですよ。副担任に。でも無視されたっていうじゃないですか。生徒も生徒なら教師も教師ね。みんなで寄ってたかってうちの子を…。返して!子供を返してよ!」そう言いながら泣きだしていた。私は副担任からそんな話は一度だって聞いたことはなかった。そんな大事な事知らせないって…一体何考えてたんだ!

副担任と話をする為、学校に戻るも帰った後だと聞かされ、担任は校長に事情を説明する。

それを聞いた校長はすぐに副担任に連絡を取り学校に戻るように指示。

先生達は皆職員室に戻り話し合いが持たれた。

すぐに動いたのは担任だ。

いじめアンケートなるものを作成し、匿名でと名前を書く欄を削除し、今現状がどうなっているのかを全校生徒にアンケート調査した。

するとどうだろう。

何人かがいじめを目撃している事がわかった。いじめられていたのは亡くなった生徒だった。

他にはいじめられているものはいないかを徹底調査した結果他の子はいないと知る。

なぜそんな事になったのかを知る子が詳しく書いてくれていた。

ありがたかった。

そこにどうやら僕の名前が入っていたらしい。




「僕は知りませんよ。いじめたりする相手はいませんから。何より理由がない。」

「本当か?本当だな?」

「当たり前じゃないですか。そんなの隠して何の得があるっていうんですか?」

「分かった。信じよう。君は接点はなかったんだね?」

「ないですね。」

あっさりと僕のいうことを信じてくれたのか?手鎖ははずされた。

まぁ、逃げようと思えば今がチャンスではあるが、そんなことをして逆に疑いの目が向けられるのだけは嫌だったので大人しくしていることにした。


その日の夜。


僕はいつも通り布団に入って眠りについた。

しかし、何故か深夜に目が覚めてしまい、喉が渇いた為キッチンへと向かう。

冷蔵庫のドアを開け、ジュースをラッパ飲みする。

一息ついた為、トイレを済ませ自室へ戻るも部屋の明かりが真っ暗だ。

確かさっき部屋の電気はつけたはず。

何で?

分からないが、大して気にもせずに自室に戻ると部屋の電気のスイッチを押す。でもおかしい…。つかないんだ。

何で?

その時だ。生暖かい風のようなものを感じた。

部屋の中なのにだ。おかしくね?

後ずさりしながら手にしていた携帯の明かりをつける。すると何かがチラリと見えた気がした。何だろう?


それはさっきまで目にしていた手鎖だった。それがなぜか机の上に置かれているではないか。

刑事が来たのか?

なんで?

僕は何もやってないのに、…アリバイってやつが取れなかったのか?確かにあの時間、誰かと会うとすれば家族しかいないだろう。何てったって自宅だからだ。

でもみんな寝てる時間だから起きてるはずはないんだよね〜。


光を当てるとそれは動いた気がした。

それは…黒い何か。

モヤのようなものかなぁ〜?

半分人ごとのように思ってフラフラと近寄ろうとしたら光る物が浮いているように見えた。

それは僕がされていた手鎖だ。

そもそも何でこんなところに置いてあるんだ?警官がきたなんて聞いてないし。ってか置いてくはずないっしょ?こんな大事なもん。


じゃあ何であるんだ?


その時じゃらんと音がした。

手鎖の音だ。

なんかよくわかんないんだけど、黒い塊にくっついている感じがしてやばいと正直思ったよ。

その黒い塊の口元が開いた気がした。

中は真っ赤だった。歯は?

無い。

じゃあそれは何?


黒い塊が徐々に変わり始め、知っている姿に変わった。そう、死んだ奴のだ。

片腕には手鎖がはまっている。

空いてる方がこっちに近づいてる。

まさか…まさかさ〜、僕の手に?

それが現実になると僕はパニックになった。

死んだ奴の顔がニヤリと笑い、自身の腕をあげると僕の手の手鎖が引っ張られ僕の手も上がる。

なんで?

僕は何もしてないのに何で?

もしかしてそれが良くなかったの?

分からない。

そんなんで僕に取り付く気か?

馬鹿な!

それなら僕じゃなくて主導していたヤツに取り付けばよかったじゃないか。まるで死んでも怖くて近寄れないってか?

僕はだんだん腹が立ってきたが、相手は死んでる人間。何とか説得するしかないと考えた。


「な、なぁ〜、なんで僕に取り憑くの?他の奴らの方に取り憑いた方がいいってやついるじゃん。なんで僕?分からないよ。悪い。助けて!」

僕はなりふりなんか構っていられなかった。

だって怖いから。

相手は死んでるんだよ?冷静になれってのは無理な相談だ。ガタガタと震える体。ジャラジャラとする音。

なんとか手鎖を外せないかと悪戦苦闘するも全く外れる気配がない。


いっそ気絶でもできればよかったとその時思ったよ。でも心臓ばくばくいってる…。とても気絶できそうにない。

どうしたらいいんだ?


どうしたら…。





そうだ。

塩…塩だ。清めの塩がいい。

大声で叫んだ!

だけど誰も起きてきそうもない。

自力で取りに行けるのか?分からない。でもダメ元で置いてあるであろう棚に向かった。

そこには確かに塩が置かれていた。

自由に動く手でガシッと掴み取り、体に塩を振った。当然腕にも。

するとスーーッと消えていった。手鎖とともに。

なんだったんだ?一体。

それよりも何よりも怖かったから慌てて自室に戻り布団を頭からかぶってジッとしていた。

しばらくすると緊張からか僕はスーッと意識をなくしていった。寝てしまったのかもしれない。

翌朝手錠がかけられていた側の手首を見ると確かに手鎖の跡があった。

夢じゃなかったんだとこのとき初めて思ったんだ。

じゃあ消えたあいつはどこに行った?


ザワザワと人が集まり何か喋っている。

聞き耳を立てているとどうやら昨夜に何かあったようだ。

聞いてみるとこうだ。


①いじめをしていた奴らに何かあった。

②主犯格の奴の所にも何か出た。

③事故が起きてみんな病院にいる。


と言うことらしい。

いじめていた奴らが何かあったなんてどうでも良かったが、病院にいるって…どういう事?

僕は確かに亡くなったやつに恨みは本人にと言ったような記憶がある。

まさか本当にするなんて思わなかったが、亡くなったやつはそれで満足できたのか?

成仏できたのか?

分からない。

だけど、それ以降何も起きてないことからきっと…。


それ以上は知りたくもなかったから聞かずにその場を後にした。

その後、いじめてたやつらがどうなったかなんて誰も口にはしないから分からないが、噂がなくなったからもうしてないんだろう。


僕も反省だ。

今度はちゃんと助けたい。

その時は来ないことを祈りつつ…。





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