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こころの修理屋さん

作者: DAYORI☆

やぁ、いらっしゃい。

こんにちは。はじめまして。


ここは『ココロ』を修理するお店、『こころの修理屋』です。


よくこの場所を見つけましたね。

ずいぶん見つけにくかったでしょう?

手も足もキズだらけ。

でも、しっかりココロだけは持ってきましたね。

頑張りましたね。


さぁ、挨拶はここまでにしましょうか。

さっそく、あなたの『ココロ』を見せてください。


え? あまりにもボロボロで恥ずかしい?


大丈夫です。

皆さんはじめは同じことを言うんですよ。

むしろボロボロじゃないと、この店は見つけられないと言いますか……。

あ、いえ、こちらの話です。


え? 袋に入れて持ってきた?

だいぶ何回も壊してしまったんですね。

あぁ…でも、ちゃんと拾っておいたんですね。

わかりますよ。

大切なココロの欠けらほど、キラキラ輝いていますからね。


どれどれ……。

切り傷、刺し傷、すり傷……踏みつけた後もありますね。

自分で踏んだんですか? それとも踏まれたのかな……?

わぁ。この部分は見事に粉々ですね。

こんなにもココロを砕いてしまうことがあったんですね……。


ん? 無くしたものもある?

そうですよね。

ここまでボロボロなら、うっかり落として見つからないものもありますよね。

……それは悲しいことですが、どうしようもできません。本当はわかっているんでしょう?


さぁ始めましょう。

大丈夫。こう見えて私、腕はいいんですよ。

あなたのココロ、直します。



#####



まずはこれ、トンカチで……


ガンッ ガンッ ガンッ


わぁ~! いきなり手を出さないでください!! 危ないじゃないですか!!


え? 叩くとは何事か? 痛いじゃないか??


何言ってるんですか。今まで散々痛い思いはしてきたでしょう?

トンカチで叩かれるくらいどうってことないですよ。

ほら、ちゃんと見ていてください。

いきますよ?


ガンッ ガンッ ガンッ


だいぶもろくなっていますね。

よくここまでっといたもんだ……って、後半は痛みすら感じてなかったのかな?

ほんと、すんでの所で直しに来たんだから、あなたは偉いですよ。


大丈夫。

もとの形には戻せませんが、ちゃんと直しますよ。任せてください。


ガンッ ガンッ ガンッ


あぁ、でもやっぱり痛いですよね。

ハンカチ、使ってください。

……痛かったですよね。心ゆくまでどうぞ泣いてください。

その涙が、あなたの新しいココロをうるおしてくれますよ。


ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ


ふぅ。だいぶ割れたかな?


次はこれ、ナイフで切り刻みます。

チョコレートを溶かすときも、ナイフで刻むでしょう?

あれとおんなじです。


ガキッ ガキッ ザクッ ザクッ


あ、わぁ~。大洪水じゃないですか?! 大丈夫ですか?

え? キズをえぐるな?

何言ってるんですか。

散々自分で自分の心を傷つけてきて今更そんな……。

耐えてください。

これは必要なことなんです。


あなた、ココロを直しに来たんでしょう?


……当時のことを思い出すかもしれませんが、過去は変えようにないんです。どんなことであろうと、今までのすべてが―――今までの全てで、あなたは作られている。


過去は変えられないけれど、未来は変えていけます。

変えるために、ここに来たんでしょう?


さぁ、おしゃべりしている間に細かくなりましたよ。

次はこれ、すりこぎです。


ふふふ……あきれてますね。

もうどうにでもしてくれって思っているでしょう?

えぇ、好きにさせていただきますよ。

全部全部粉々にして、灰にしてしまいましょう。


え? なんか怖い??


怖じ気づいたんですか?? ここまで来て??

お望みなら別室で待っていてくださってもかまいませんよ?

って、ここで隣の部屋に行ったらどうなるか分かると思いますが……。


ふふふ……もう少し、頑張りましょう?


ゴリゴリゴリゴリ……


ずいぶん頑固な欠けらがありますね。2つ? 3つはあるかな?

これはどうしようかな……


ゴリゴリゴリゴリ……


ずいぶん大事なものみたいですね。

2つは小さくなったけど、残りの1つはこのままにしますか。

え? それは何だって?

知りませんよ~。それは自分が一番ご存知でしょう?


ゴリゴリゴリゴリ……


うん。サラサラになりました。

見てください……って逃げないで。

そんなに震えないで、見てやってください。


ほら、ところどころ、キラキラ光っているでしょう?

いつのまにか見えなくなってしまっていたんですよ。

でもやっぱり、ちゃんと心の中にあったんです。


あなたが忘れてしまった、大切な『こころ』


さぁ、泣くのはもうおしまい。

ハンカチ、返してください。

このハンカチ、実は魔法のハンカチなんです。

あなたの涙を、今からこのココロに入れますよ。


ぎゅーーー


ずいぶん泣いたんですね。

それほど苦しかったんですね。

誰もいないところで一人で泣いて、どれほど耐えてきたんだか…。

本当に、きれいな涙。


ぎゅーーー


これくらいでいいでしょう。

え? 涙が染みる?

当たり前じゃないですか。涙ですよ? 

傷口に塩を塗ったらどうなるか……おわかりでしょう??


さぁ、あとはゆっくり少しずつ……


こねこねこね こねこねこね


いや~この作業が一番好きですね~。

思い出しません? きれいな泥団子、作ったことありません?

作ったことがなくても、ままごとで「食べろ」とか言われたことないですか? あぁ~都会の砂場は汚いって言いますから、今は作れないんですか……だから最近、心を修理に来る人が多いのかな? 自分で修復する仕方が伝わっていないのかな? こればっかりは何とも言えませんね~。


こねこねこね


まとまってきました。

良いですね~。良い感じです。


ふふ……あなた、来たときは今にも死にそうな顔をしていたのに、少しの間にずいぶん変わりましたよ? 悪態ついて、元気出たんでしょう? 面白い顔してますよ。


こねこねこね


ちゃんと自分で考えて、これじゃ駄目だと思ったんでしょう?

ココロを直そうと、大事なものを取り戻そうと、思ったんでしょう?

それって、とっても難しいことなんですよ。

でも、選んであなたはやって来た。

あなた自身で考えて……そう、その立派なココロ意気で。


まるまるまるまる


これからどうするべきか、だんだん分かって来たんじゃないですか?

心が治ってくると、頭もやっと動いてくれるんですよね~。

だからって焦っちゃだめですよ。

ゆっくり、一つずつ取り戻していけば良いんです。

だけど、まだちゃんとくっついていないですから、無理は禁物です。


まるまるまるまる ギュッギュッギュッギュッ

まるまるギュッギュッ まるまるギュッギュッ


そろそろ仕上げに移りましょうか。

サラサラのココロをまぶしながら…表面を磨きますよ。


すりすりすりすり


根気のいるところです。


まるまるまるまる すりすりすりすり

まるまるまるまる……


もう少し涙を使おうかな?


なでなで すりすり なでなで すりすり


だんだん整ってきたでしょう?


なでなでなでなで すりすりすりすり

なでなでなでなで なでなでなでなで


え? こんなに誰かに撫でてもらったことはないですか?

人によって違うと思いますが、忘れているだけではないですか?

だって、撫でられて気持ちいいって感じるのは、その記憶と経験があるからですよね?

……本当は誰かに頭を撫でて欲しかったんですよね。

ほんっと、不器用なんですから。

今度からはちゃんと自分で自分を可愛がってあげるんですよ? あと、他の人のことも、たまには褒めてあげるんですよ。何でって……気持ちよかったでしょう? 心は配ることも出来るんですよ。ふふふ……知らなかったでしょう?


なでなでなでなで なでなでなでなで


ほら、ぴかぴかに光ってきました。


なでなで なでなで ……コト…





……さて、私がするのはここまでです。

もっとぴかぴかにするには、今度は自分の手で撫でていくんですよ。

…今度はナイフで刺したり、踏みつけちゃ駄目ですよ?

ちゃんと撫でて、撫でて撫でてぴかぴかにしてください。


心って、本当は凄いんですよ。

とっても光輝くんですよ。


頑張って、輝かせてください。


あなただけの『こころ』


どうか誇ってあげてください。


…また行き詰まってしまったときは、直してあげますよ。

って言っても、この店を見つけられたらですけれど。


そうそう。このココロ、あなたの涙でくっつけたでしょう? だから、まだもろいんです。大事に大事に扱ってくださいね。ちゃんとくっつくまで、油断しないでくださいね。


あなたの新しいこころは、今まで流した涙で出来ているんです。

泣いた分だけ、強いココロになっているはずです。


さぁ、修理はこれにて終了。

ご来店、ありがとうございました。

またのお越しは……お待ちしていませんからね。


どうぞ道中お気をつけて。

あなたの進む道が、今度はより光輝くことを、こころよりお祈り申し上げております。




では、




さようなら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まるで読者と対面しているかのように語りかけてくるリズミカルな文体。 『ココロ』を知り尽くしたかのような細やかさ。 すみません。 また、来店してしまいました(^^笑)
[良い点] 一体何処が良いかって、貴方。 着想が素晴らしいことです。タイトルや内容に格別凄まじいオリジナリティがある訳ではない…しかし、懐かしさと斬新さが相共存していて、読了後納得してココロが蘇生す…
[良い点] 良いですね、この着想^^ 文は人を楽しませることも 世界へ連れ出すことも 恐れおののかせることも 感動させることも ワクワクさせることも ・・・あれもこれも自由自在だということを 文の原点…
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