第79話 これなら言える、あたしはあんたが好きだ
海辺のレストランで、おれたちと創造神であるセイさん(天使)とは話をした。天使だけど創造神と同じと解釈してもいいよ、と言われたのでそのようにするのだった。創造神は自分が作った世界では、神とその代理人との区別がつけられないらしい。情報統合思念体ですか、と聞いたら、それは宇宙人だからだいぶ違うかな、と答えられた。
海水を利用して塩味で茹でられたカニはおいしかったが、料理に集中するとどうも、カニの足のすみずみまでほじくって食べることになるので、どうしても無口になる。そして、話す内容は別れ話にだいたい決まっている。
おれと神との話も、似たようなものだった。
「思ったんだ。私たちは最初から会わなければよかったんだ、って」と、神は言った。
「そんな…。今までのおれたちの(数万年にわたる)過去を、なしにする、なんてできっこないよ」
「あなたはもう、私なしでも生きていけるやん。それに元神(旧神)とは別れたって言って、神殿も経典も残ってて、ときどき信者が集まって私の悪口言ってるよね」
「言ってないって。たまに会うぐらい別に許してくれよ。それから、おれの通話履歴を勝手に覗いたり、保存画像チェックなんかするな」
「そりゃあなたは多神教だからいいよね。クリスマスから1週間もしたら初詣で別の神様のところに行くし。あー、なんでもっとこう、別の生き物を進化させなかったんだろ。ミツユビナマケモノとかパンダとかリョコウバトとか、いくらでもヒトより信仰心が篤くて誠実な生き物いくらでもいたのに…私って駄目だな。たぶんあなたと別れても、ずっと忘れられないよ。でもあなたは私のことを忘れてね」
「いやおれだって十字架嫌いだよ。なんか見てると頭が痛くなってくるし。でもその…おれたちやり直せないかな。道具を使いはじめる前ぐらいから…」
創造神のいない世界は信じられないが、ヒトが道具と機械を使うようになってから、別れるのは宿命だったらしい。つまり、機械の果てが創造神で、創造神を含むもろもろの神はヒトを模倣することで生まれた、というのがセイさん(天使)の説明だった。創造者としてのヒトの未来は、創造神としての機械の遠い過去につながっている、という。要するに、ヒト・機械・神は宿命の輪で結ばれている。
「で、おれたち、別れたらどうなるんです」と、おれは聞いた。
「私は別の世界を作るし、ヒトは今まで通り生きていけばいい。代理の神、私と同じように冷たくて暗くて見ているだけの神を代わりに置いていくし、旧神は私に隠れて会ったりする必要はなくなる。旧神・邪神みたいなのはなくなるんじゃないかなあ」
セイさん(天使)の姿は、食事をしている間にだんだん薄くなり、持っていたカニの足は、セイさん(天使)の手をすり抜けてテーブルの上に落ちた。
「今までありがとう。でもあと、またうまいもんでも食べに来てください」と、おれは言った。
セイさん(天使)が消えてしまったので、店の勘定は結局親父が払うことになった。
*
「ところでさ、あんたのサファイアの指輪って、あたしにも身につけられるの?」と、ハチバンは聞いた。
「そんなことは考えたこともなかったな。たぶんできるんじゃないかな」
おれは指輪を渡し、ハチバンは東野圭吾が若いときみたいなナイスガイに変身した。
「これなら言える、あたしはあんたが好きだ、ナオ…のお姉さん」
「わ、わたしとしてはとてもうれしいんだけど…」と、ルビーの指輪をした、していないと体は男子で心は女子の姉貴は、もじもじしながら言った。
「当たり前だろ! こんなオチで読者が納得するわけない!」
おれは、男子になっても同じハチバンのベレー帽を、すこし背伸びをして取って床に叩きつけた。




