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第69話 おれはきみが好きだ、ハチバン

 古鏡のつまみに当たる龍の彫り物はシャオロン先輩と名乗り(ブルース・リーと同じだな)、タッくんと気軽に呼んでください、と自己紹介をした。大きさは酒虫のアルくんやジュリーちゃんをすこし大きくした程度だ。

「先輩はすごいんです!」とアルくんは言った。

 話によればタッくんは、アルくんより千年ぐらい前に生まれたらしい。

 この、生まれた、というのをどう解釈するかは不明だが、ヒトに認識された、というのが正しいのだろうか。あるいは、ヒトが作った。ヒトは、名前がついていないものは認識できない。つまり、記号・コトバとして扱えない。なんか、あのヒトというととても楽しいなー、一緒にいたいなー、みたいな気持ちは「恋」という名が与えられた。そういうようなヒトのことを考えていることが「恋」なんじゃないか、と思う。

「ハチバンは、そう考えたことはないかな」と、おれは聞いてみた。

「あのねえ、普通はナオがどう考えてたかなんて、あんた以外の人間にはわからないわけ。でもそんなの口や動作にして、だらだら話すというのは、よほどうまく演出を作るかしないと退屈で、あきらめてデイヴィッド・リンチみたいに撮る方法もあるけどさ。えっと、なんの話だったっけ」

「おれはきみが好きだ、ハチバン」

 え、え、みたいな感じでハチバンは赤くなって、そんなの言わなくてもわかってるよ、と答えた。

 向かいに座っているブラノワちゃんは、やれやれ、という感じで肩をあげた。

「それより、私を見つけてくれてどうもありがとう」と、タッくんは言った。

「え? あれってやっぱりタッくんのことだったの? それで、「私はここにいます」というのは、誰が残したメッセージだったんだろう」

 もうそれは、昔から決まっていたことなのだ。15枚の古鏡が失われ、そのうちの1枚が不完全な形で見つかり、運命によって再生され、その力を取り戻す、ということは。

「ならば、わが力をお見せしよう。われこそが真の神、そしてネストなり…こういう話し方は疲れるので普通に話します。ナオ、私を持ち上げて、あなた自身をこの鏡に映してみてください」

 おれは言われたとおりにした。

 復活した神の力を持つ古鏡に写っていた姿は、おれにとてもよく似た美青年(自分で言うのも何ですが)だった。

「その…ひょっとして、ようやくわたしが見えるようになったのかな、ナオ」

 おれの向かい、ブラノワちゃんの隣には、その鏡の中と同じ顔の男子がいた。

 おれは、鏡に男子を映して見た。

 見えた像は、おれがよく知っている、おれ自身の、曖昧で力強い表現としての、可愛い系美少女だった。

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