第41話 あなたが敵であったのはうれしい。爆弾は青の線を切れば爆発しない
酒虫のアルくん(アルチュール)が島の表側に船を操縦して回してくれたので、おれたち(おれ、イチバンさん、ハチバン、ブラノワちゃん)は、うす青く虚構世界に帰っていく神殿を見ながら、島からすこし離れたところで船のエンジンを止めて、帽子やバーカーを取って黙祷した。
「ありがとう、ジュンコさん。おれたちはあなたのことを決して忘れません」と、おれは言った。
ジュンコさん、つまりジェームズ・ボンドの孫娘であるジュンコ・ボンドさんは、旧神と一緒にボツ原稿の山になった。要するに、このキャラクターは映画化できねー、ってことになったのである。
「……ちょっと待って。何かおかしな音がするわ」と、ハチバンがパーカーを貸してくれたので半裸状態からすこしましな格好になったブラン・ノワール(ブラノワ)ちゃんは言った。
「これは時限爆弾の音ね。エンジン室から聞こえてくるわ」
確かに、かすかに時計のカチコチという音がする。おれたちは急いで音のするほうへ向かった。
五分後にセットされた爆弾と、赤と青の線、そしてメッセージ。
『あなたが敵であったのはうれしい。爆弾は青の線を切れば爆発しない』
裏にはこう書いてあった。
『さようなら これが嘘のつきじまい ジュンコ』
「どどどどど、どうしよう」と、おれは言った。
「おおおおお、落ち着くのよ、ナオ」と、ブラノワちゃんは言った。
「ジュンコに関する情報はすでに入手ずみよ。あの子の父親は、ネストの大幹部だったの」
そんな話は初耳だ。
「そんな話は初耳です」と、イチバンさんも言った。
「私たちの調査では、イチバンさんと出会う前に、いろいろいろいろ、いろいろいろいろあったみたいね。で、その真相をジュンコが知ったのはついこの間」
唐突に無理な設定を入れてくるなよ、とおれは思った。
「私はジュンコを信じます。ジュンコは、いつも私の右側にいて、私を守ってくれていた人でした。この思い、とどけーっ!」と、イチバンさんは言って、青の線じゃなくて赤の線を切った。
イチバンさん以外のおれたちはびっくりした。




