第40話 虚構度が強い施設や存在には、通常の爆弾は効かない
ジュンコさんによると、友だちの友だちは友だちらしいけど、じゃあ敵の敵は敵なのか。
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敵であるネストの秘密基地のひとつはとある島の中にあるということは、ずっと前からわかっていたのだが、おれたちが交戦の準備が整うまでアンチ・ネストのみなさん(各国の軍による混成部隊)は待っていてくれたらしい。
島の表側で派手に戦闘を展開している間、おれたちはこそこそと、難攻不落で登攀不能と言われていた裏山の崖を登って攻め込んだ。
そのトライアル回数は297回+数回。
酒虫のアルくん(アルチュール)は、タイムリープ、つまり時間の巻き戻しができる、ということなのでそういう羽目になった。
アルくんは、われわれの体内に残ったアルコール分をエネルギーにして、おれがアルくんと最初に会ったときまでなら何回でも、記憶だけ残して戻せる、という超銀河的な能力を持っていた。
しかし、30分の同じアニメ300回(OP・ED除くと6300分だから105時間)も普通は見ないよね、いくら演出が違っていても。
ハチバンは崖から数十回落ちて、おれはうまく自分の鱗粉が撒けるようになるまで数十回失敗して、イチバンさんは敵に発見されて火炎放射器で数十回焼かれて、ジュンコさんは十数回足を撃たれて動けなくなった。
もっとも、突撃前にイチバンさんが「何でも嘘か本当かあいまいにしてしまう魔法の鱗粉(仮)」をおれたちにかけてくれたので、たいした被害を受けることはなかった。銀色のバリアに囲まれたおれたちを狙うワルモノの銃弾は、いわゆるワルモノ弾になって、めったに当たることがないうえ、当たってもたいしたことはない存在になる。
爆発・炎上する神殿と言いたいところだが、虚構度が強い施設や存在には、通常の爆弾は効かないと言ってイチバンさんが用意したのは虚構爆弾だ。
「これを施設の数か所に仕掛ければ、旧神とその仲間は元の虚構世界に戻り、二度と復活することはないでしょう。ボツになった映画のシナリオのように。いや、その場合でも書き直しとか、プロデューサーのご意向があれば復活するのかな」と、イチバンさんは言った。
要するにスラッシュ・パイル(ボツ原稿の山)のひとつになる、ということね。別に虚構(物語)を世に出す方法は、自主制作映画とかネット小説とか、いくらでもある。
おれたちの味方である選りすぐりの正規部隊は正門を突破し、おれたちは爆弾と時限装置をいくつか手配して置いた。
ついでにおれは、ニースでワインをご馳走になったちびっこ探偵のブラノワちゃん(ブラン・ノワール)が旧神の生贄として半裸状態で十字架はりつけになっていたのを救ってあげた。
「きっと来てくれると信じてましたわ、ナオ」と、ブラノワちゃんは半泣きになっておれにすがりついてきたので、なんか得をした気分になったけど、最初は、こいつ誰? って、思い出すのに苦労しちゃったよ。
助けるときには、繋がれていた鉄輪みたいなものをまたすこしだけ熱くしてゆるくしたので、ブラノワちゃんは今度は両手両足に赤い軽度の火傷を負った。あとどうせ助けるならもっとボリューム感がある美人のほうがよかった。 虚構爆弾は、秘密基地とその神殿を縮退させ、古代の巨大爬虫類のようだったひとつの復活寸前の旧神は真紅の体を漆黒の影に色を変え、消えるはずだったが、お約束通り爆弾のひとつが起爆しないため縮退が止まった。
「ここは私がやる」と、お約束通りジュンコさんは言った。
「だめだよ、そんなことしたら、ジュンコも消えちゃう!」と、お約束通りイチバンさんは泣きながら止めようとした。




