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第34話 あなたが吸血鬼なら、マニラ湾のこの場所が絶好の日没ポイントになると思います

「島の民は、遭難してもそんなに経済的には打撃を受けない程度の舟をいくつも作り、多くの若者はその舟で、日の出とともに東の海へ旅に出ました」と、イチバンさんは話を続けた。

     *

 帆と櫓と櫂を持つ舟に、複数の男性の若者は乗り込みます。その中には恋人を島に残した者もいたかもしれません。

 複数の漕ぎ手は力自慢で青の印をつけ、日と月と星を見ながら行き先を決める者は赤、風を読む者は緑、旅を記録する者は紫、すべてを決める者は黄色の印を、体のどこかにつけます。漕ぎ手は海の流れに逆らって、風がない日は昼夜交代で漕ぎます。旅を記録する者は、過去の海図を読む者でもあります。

 海図は小石と紐と木の枝によって作られ、とても高く売買されます。海図によって数十日分の、何人かの食料と水が節約できるようなら、それはそれだけの価値があるということですからね。

     *

 イチバンさんはその実物を誠実に複製したものと、携帯端末上の画像をいくつか見せてくれた。

 さらに、方位磁針、つまり指南魚と呼ばれるものも。

     *

 この方位磁針は、南のほうが魚の頭の形をしています。中国語・日本語の「指南」、つまり導くもの、の語源はこれに由来します。

 私たちの先祖は、水と食料が半分を切るまで海とその間の島々を渡ります。すでに知られていても、誰の領土でもない島々で水と食料を補給し、それで新しい島が見つからなかった場合はあきらめて、途中の島に住みついたり、故郷の島に戻ったりします。

 海の流れに逆らって島を探すのは、漕ぎ手がいなくなっても、そのまま元の故郷の島に戻れる可能性が高いからですね。流れに従って行ったら、戻れなくなります。

 そのようにして、千年以上前、私のはるか昔の母の弟は、緑の印をつけて海を渡り、というかまあ渡りそこなって海流に流されて、神話時代の日本にたどり着きました。母は島の女王であり、王は代々女系でつながれていたので、正確には王という言葉はありません。

 古代ギリシャ人が地中海に植民地を築いたように、あるいは近い未来に地球人が宇宙移民を始めたらそうなるだろうように、私の先祖たちはゆるい結束を持ちながら、海の一部を勢力圏にしたのです。あるいはすでに、いいか悪いかわからない古い神が、すでに地球を植民地にしていたように。

     *

「あるいは、吸血鬼がヒトの土地に住みついたように」と、ハチバンさんは言った。

 この人はいい人なのか悪い人なのか、おれには不明だけれど、悪い人だったらかなりの大物っぽい気がしてきた。

 おれたちが乗った船は速度を落とし、静かに動きを止めた。

「あなたが吸血鬼なら、マニラ湾のこの場所が絶好の日没ポイントになると思います」

 おれは嫌な予感がした。

 西方にはサマット山があり、その頂上には戦没者慰霊記念館と巨大な十字架がある。

 初冬の太陽は、それと重なるように、いや、まさに重なる形で沈もうとしていた。

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