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第28話 これは物語とリアルの虚実をつなぐ、その狭間にある指輪なんだ

「つまりどういうことかというと、おれとハチバンとアクレナさんは、ルビーの指輪の本物と偽物を取り替える機会が3人ともにあって、3人とも取り替えたので、本物が増えた。この指輪は増殖するんだな」

 さっぱりわからん、と首をひねっているブラン・ノワール(ブラノワ)ちゃんだが、これは別に鮎川哲也の本格ミステリーではないのでどうにでもなる。黒いトランクが3つあったってどうということはないだろうと思うんだけど、気になるのはうまいこと乗せてくれるトラックが見つかったことやね、いや本当にどうでもいいことですが。

「あたしが本物を投げるわけないよね。ナオのお父さんから、これはいつか犯罪に使われるだろう、と偽物を渡されてたの」と、ハチバンは言った。

「嘘だろ! おれが拾ったときは本物だったよ。で、おれもおれの親父から渡された偽物を、アクレナさんに渡した」

「でも、アクレナさんは本物を持って行ったんだよね。じゃあ、あたしの本物の指輪を出すぜ」と、ハチバンは自分の小さなバッグから、どう見ても本物にしか見えない指輪を出した。

「もうすこし、私たちにもわかるように説明してくれないかしら」と、ブラノワちゃんは言った。

 この子のほどほどの知力は、実に適当なミステリー系物語の説明相手にちょうどいいな、とおれは思った。喜怒哀楽もはっきりしてて安定している。ハチバンのキャラ設定は、その点かなりいい加減と言ってもいい。むしろブラノワちゃんを相棒に選びたかったぐらいだ。

「それじゃ、実演してみよう。ハチバン、お前の持ってる本物のルビーの指輪をちょっとおれに貸してくれ」

 おれは、ふたつの指輪を両手にひとつずつ、親指と人差し指の間にはさんで、くるくるっと回した。種も仕掛けもありません、というプレステージである。そして、ふたつを重ねて、テーブルの上にあったナプキンを広げて掛け、その上をぱん、と叩く。

「ほら、指輪はひとつしかないよね」

 おれはナプキンを広げた。

「じゃ、ハチバン、今度はもう一度自分のバッグを覗いてみな」

「…うん、確かに指輪がひとつ入ってた」

「それをそのまま持ってて、みんなに見せたままにしろよ。おれが持ってる指輪を、もう一度ナプキンで包んで、こう、手の中でシェイクして広げると、ほら、ふたつの指輪になる」

 おれは、ふたつの指輪をテーブルに並べた。

「な、合わせると3つだろ。こんな感じでいくらでも増えるんだ」

 簡単な手品みたいなもんかな。

 実は、ブラノワちゃんのバッグの中から、どう見ても本物っぽいルビーの指輪を抜き取って、ハチバンにこっそり渡しておいたのだ。だから、ブラノワちゃんがバッグを調べたら、おれが一度渡したはずの指輪がないことに気がつくことになるんだけど。

「まあ、本物は昔おれのおふくろが、現在はおれが持っている奴だけなんだけどね。なぜなら、この指輪が合うのは、おれのおふくろとおれしかいない。ブラノワちゃんのおばあさんは、多分指にはめたことはないんじゃないかな。逆に言うと、おれ以外の者が持っている指輪は偽物だ。これは物語とリアルの虚実をつなぐ、その狭間にある指輪なんだ」

 ブラノワちゃんはおれの手首ごとつかんで、手にしていた指輪のひとつをもぎ取った。

「面白いわね。でもその指輪、ハチバンには無理かもしれないけど、私にはちょうどいいかもしれないわ」

 そう言いながらブラノワちゃんは、右手の薬指にその指輪をはめた。

 そのとたん、ブラノワちゃんの周りに光の霧が発生して、ほわんと光ったと思うと、ブラノワちゃんは変身して魔法少女になった。

 …ということは全然ありませんが。

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