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第21話 まあ、眼鏡そのものがただのオシャレアイテムだからね  

とりあえず部屋からはアクレナさんに出てもらって、おれはハチバンの着ている服をざっくり脱がせて、メイク落としをすこしだけやっておいた。ついでに耳に息とか吹きかけて、耳のうしろをこすってやると非常にエロっぽく悶えたのでとてもテキスト化できるようなしろものにはならなくなった。

 なお、実際は左手で魔法の指輪(と言ってももはやいいだろう)を持って、その穴を通して左の目で見ていたので、ただのエロっぽいウサギの姿だった。

 おれがアクレナさんと下のロビーで待ち合わせをして会ったのは十分後で、そんなに早いと風呂も着替えもできやしない。女装の乱れをざっくりチェックしただけだった。

 アクレナさんが持ってきたのは、高校時代のおふくろがかけていた、赤いフチの眼鏡だった。当時はアンダーハーフリムというものが存在しなかったのか普及しなかったのかは不明だが、そう言えばおふくろもときどきかけていた気がする。しかしそれもまた偽造・仮想の記憶かもしれない。そもそもおふくろの顔がおれと同じだということも、アクレナさんがそうだ、と言っているだけで、本当なのか嘘なのかは実に曖昧なのである。

 おれは、アクレナさんに言われてその眼鏡をかけてみた。世界が変わるかもしれないと思ったからだ。別に世界がズートピアになるということはなく、ダークブルーのスーツに薄紫色のシャツを着た、伊丹十三みたいな顔のアクレナさんが見えるだけだった。照明はオレンジに近い青の間接照明で、アクレナさんの鼻の両脇は暗褐色の影が落ちていた。

「なにも変わったことは起きないですね。これは度がほんのすこし入っているのかな。世界がちょっとだけクリアになったような、ならないような」

「まあ、眼鏡そのものがただのオシャレアイテムだからね。本当に視力が悪い人は、コンタクトレンズにしたり、人体改造で対応してるはずだし」

 人体改造というのはオーバーですが。歯だってインプラント治療がある。

 おれの場合は、やはりどうもヒトとは違うらしく、歯が悪くなるということはないらしい。単に食後いつも歯を磨いているせいなのかもしれないが、そういうのはもう50年ぐらいしないとわからないものである。

 これは、今の私には必要がないものだが、きみには必要かもしれない、とアクレナさんは言い、じゃあ数年後にお互い覚えていたら返すことにします、とおれは言った。人にあげたものなんて、あげたほうは忘れていてももらったほうは覚えているものだ。そしておれとアクレナさんは、なすべきことをし、別々のホテルに戻った。そしておれはシャワーを浴びた。バスタブはちゃんとあるんだけど、お湯に入るとなんかもう、なにもする気にならなくなるのだった。

     *

 翌朝、おれがネット小説の続きを朝の3時ぐらいまで書いて、浅い眠りについた午前9時ごろ(ネット小説はどうやら、毎日書いていないといけないものらしい)、おれは半裸のハチバンに起こされた。

「なんか、警察のほうから聞きたいことがあるって、ホテルのフロントから内線もらったんだけど」

 警察のほう。なんじゃそりゃ。

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