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第20話 昼の太陽の光はあまりにも強く、それを直視する者にとっては太陽は黒い

「これは実に不思議な指輪だね」と、アクレナさんはおふくろの形見であるルビーの指輪を手に取って言った。

「宝石を固定している金属は、金のようにも見えるが、外側は別の金属と不十分な融合がされているため、金色の濃淡が生まれている。ブロンドとアッシュブロンド、ああ、ビスクもあるな、ナオ、きみの髪の毛の色だ」

 そんなこと言われてもな。

「そして内側に刻まれている、文字のような文様のようなものは、古いサンスクリットで、それを正しく発音できる者は今はいない。ルビーを支えている台座は、ハスの葉脈を記号化したもので、多分ここにも文字が隠されているんだろう。これと類似したものは、私は数年前、ハリウッドの新ソード&サンダル映画の小道具として見た覚えがある。それもやはり、女優が親の遺品、つまり私物として撮影用に持ち込んだもので、監督はそれの精密で、かつ安っぽい模造品を、手のアップ以外では使ったものだった」

 アクレナさんはそう言いながら、指輪の穴を目に近づけ、その穴からおれを見た。

「おお…! きみはこれをつけてみたことはあるかな?」

 おれは否定した。

「そうだな。多分時期というものがあるんだろう。あるいは、運命というものが。私が、この指輪の穴からきみを見たとき、何が見えたか教えてあげようか。ビスク色の髪と金色の瞳、つまりきみと同じ髪と瞳の、すばらしくハンサム、今の言葉で言うならイケメンの美青年がいた。すばらしく可愛い美少女の代わりにね」

 おれはアクレナさんからその指輪を、湘南のトンビが観光客のサンドイッチを奪い取るような勢いで奪った。

「…そうか、自分で自分を見ることはできないんですね。しかし、このリングは多分、別の世界、別のリアルにつながっているんでしょう」と、おれは言って、一応アクレナさんと同じように覗いてみた。

 おれの隣には、詐欺師っぽい顔のキツネ(アクレナさん)と、その膝に頭を置いている賢そうなウサギ(ハチバン)が見えた。

 街を歩いているヒトたちは、子犬を連れたワニ、数匹のコブタ、仲良さそうな男女(オスメス?)のイタチ、ジョギングしているゾウ、など、さまざまな動物に見えた。びっくりするほどズートピアである。

「昼の太陽の光はあまりにも強く、それを直視する者にとっては太陽は黒い、と、グノーシスの思想では語られる。沈みゆく太陽の光はほどほどに弱いので、あまり長い間でなければ問題はないはずだ。その指輪を通して、太陽を見てごらん」と、アクレナさんは言った。

 赤い血のような海に、紅に燃える空を背景にして、黄金色の太陽が、徐々に沈んでいくのをおれは左目で見て、半分ほど水平線に沈んだところで右目に変えた。太陽は沈む寸前に緑色に一瞬光って消えた。

「きみに、あとで見せたいものがある。ホテルまで行ってもいいかな」と、アクレナさんは言った。

 結局アクレナさんは、ホテルのおれの部屋まで来ることになった。

 正確には、おれとハチバンの部屋ね。もうすっかり意識を失っているハチバンを、アクレナさんは親切に背中におんぶして運んでくれたのだ。

 なおはじめは、お姫様だっこで運ぶつもりだったらしいが、十メートルぐらいで息切れして諦めたのである。

「重いな、この子は」と、さり気なく失礼なことを言うアクレナさんに、おれはこう言い返した。

「それがリアルの重さってもんです」

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