007 時には大罪を犯すⅢ
冬月はすぐに言ってくる。
「こういうのはどうかしら。犯人は分かっていて、何を犯行に及んだのかはもう分っている。そして、これは最後の警告であるというのは考えられないかしら」
なるほど。冬月の考え方は一理あるが、果たしてそれがあるとして……。
……待てよ。なら……。
「これは冬月が言う通り、犯人は事前に分かっており、どんな犯罪を起こしたのかもある程度は知っていた」
冬月はふっと勝ち誇ったようにこちらを向いて微笑んでくる。なんだか、少し負けたような気がする。
「『関する人物』と言っているからね」
「まあ、全校生徒共通のメールで名前など公開告白でもされたら立場がなくなるからな。学校側からの甘い蜜の誘いだよ。男をだますような女の使い方だ」
俺は昔のことを思いだしながら話を走らせていく。
前を向くと、冬月はドン引きしながら、溜息をついた。それに目を細めながら冷たい目線で俺の方を見てくる。
「あ、いや。そうじゃない。女を憎んでいるんじゃなくて……その……なんだ、あれだ。あれは要するに女と言うものは何かのスパイスでできている」
そう言いだすと、冬月は少し口を開いて、自分の髪の毛を触りながら言い出す。
「自分の過去のことはいいからそれよりもさっさと働きなさい。本当に憎んでいるならそれでもいいわ。早くして頂戴」
「ああ?」
俺は帷幄をする声で言い返すと、冬月は冷たい目線のまま俺を見る。
「……。さて、それじゃあ、もし、俺がこの事件に関しての犯罪者とする。お前が俺を犯人と知っておいて何をしたのかと思う」
「誘拐、いや、ストーカーね」
「おい。違う。この話での例えだ。ストーカーはないだろ」
深呼吸をして間を取り、冬月は手を口にあて、咳をして言う。
「もういいわ、それではそれぞれの想像でこのメールの真実を言い合いましょうか。それでこの件に関するものは終わりにしましょう」
「ま、そうなるわな。いいだろう。それぞれ考えた後、十分後。最終結論を出そうじゃないか。まあ、俺の話が一番正論だと思うけどな」
「さあ、それはどうかしら。あなたの思考能力ではわたしを追い越すところじゃ、追いつくことすらできないわ」
冬月は力強い声で、はっと鼻で笑いながら言う。
さて、俺は小さくなっても頭脳は大人並みの少年みたいに推理が出来ると思うかな。だって、あれテレビ番組の最短三十分で解決してしまうんだぞ。人並みの頭の回転力じゃないぞ。こら!
「それでは時間も経ったことだから、それぞれの結論を言おうか」
ちらりと俺は冬月を見る。何事にも動じない冷静でいる冬月が息を飲んだ。
俺は言う。
「まず、この犯人は何をやったのか」
「……それなら同時に言いましょう。その方が手っ取り早いわ……」
提案してくる。
喉辺りで、唾を飲み込んでから……。
俺たちはそれぞれ息を合わせながら、最初の言葉を同時に言い出す。
「「窃盗」」
……俺は溜息をつく。
「はあ、まったく。なんで同じなんだ?」
「ええ、私もよ。まさかとは思わなかったわ」
冬月は額に手を当てて、呆れた表情でこの世の終わりかのように言ってくる。俺も同様だった。
「次は何を盗んだからだ。もちろん俺は窃盗と言えば、金を盗んだと思っている」
冬月は唖然として、言葉に詰まり、口をごにょごにょと濁らせながら開いた。
「……どうしてあなたと言う人はこうも人と同じ意見と重なるのかしら。私、今度、病院に行って精密検査で受けてこようかしら」
冬月は、右手を膝の上において、左手で額に手を当てながら、何やら悩んでいる様子であった。そして、横を向いて小さく咳をするといつもの冷静な冷たい目線で俺に向かって言った。
「いつか、殺す」
はいはい、そうですね。そんなに俺と同意見が嫌みたいだったらしいですね。それはもう、俺からも言わせてもらいたい。
「ま、ともかくだ。これでこの事件のメールについてはこれでいいな。それにしても、なんでまだ、五時まで一時間もあるんだ?この時計壊れていないだろうな」
時計を見ながら、自分のスマホを確認する。画面にはまだ、四時二分と表示されていた。
「そ、私はてっきり話す話題が無くなってホッとしているのだけれど。それより、何?まだ、私とお話ししたいの?」
なに?それ……。私とお友達にでもなりたいのでも言っているのかしら。ご冗談を……。こんな上から目線の女と誰が友達になるだって?そんなことできるはずがない。
「お前さ、高校時代でもいいけどさ。誰かとまともな会話でもしたことあるのか?」
俺はそう言うと、冬月は目をつぶったままこちらを見ずに答える。
「……そうね、私が今の二年生の同級生とまともに話したのはあまりなかったわね。でも、あなたぐらいよ。退屈に長話をしたのは……」
「あ、そう。その話し方だとお前、高校時代あまり思い入れがないことが伝わってくるわ。泣きそうで疲れるわ」
まぁ、俺も修学旅行や体育祭などの行事イベントで隅っこに一人で行動していたから結構、話していませんね。
だってね。フォークダンスの時なんかね。俺を嫌っている女子なんか嫌な顔をしながらも人先指一センチぐらいしか触れてこなかったもんね。あの時、親があの場にいなくて本当に良かったと思っているよ。これ、実話……。
他には修学旅行中、東京ネズミランドで自由行動で一人は寂しく一個ずつ回ったとかね。あの遊園地、一人だと夜のイベントなんか虚しいほどじゃないぞ。
「でも、なんで俺と話すとき、言葉の数が多いんだ?嫌っているのは分かるけどさあ。想像できないんだけど……」
「そうね。あなたに対して話すと日頃のストレス発散になるのよ」
口元に手を当てて、にっこりと微笑んでいる冬月を俺はその笑顔はずるいと思った。
「あ、うん。ま、そ、そうね……」
「その感じじゃ、人文科でも同じなんだろ。ああ、もういいよ。話さなくて。分かっているから」
俺が言うと冬月はきっ、と睨みつけてくる。そして、不機嫌そうにふて腐れて、頬を膨らませながら言った。
「……天道君には分からないわよ。もう少し、人の気持ちを考えると進歩するんじゃない。あなた程度だと相当努力をしないといけないわよ」
いらないことを言わなければ、可愛いものもそうやって、後々色々とヒトの嫌なところを付け足して言ってくるところをお前は直せばいいんじゃないのか?
「でも、今更。お互い、自分の性格は直せないことは分かっているのだからその……」
「少しずつ、変えろとでも言いたいの?お断りよ。私は私のまま、突き進んでいくつもりよ。決して誰も邪魔はさせないわ」
そう言って、冬月は怒っているのを必死に隠そうとしている。
「だから、程度の問題だろ」
「私の態度が少しでも変われば、世界はきっと変わるみたいなおとぎ話でも言うつもりなの。それはただの現実逃避よ。私には合わないわ」
そう言うと、冬月は口を閉じて小さく息を吐いた。
これ以上、空気を悪くしてはなるまい。でも、やっぱり、冬月とはいくらいい雰囲気で話をしようともお互いを認めるのが嫌で衝突してしまう。
でも、これはある意味、どこか似ているところがあるからそうなるだけで、……。
「ねぇ、こんな話を知っている?ある小さな少女が大きな小学校に通っていました。その少女は、昔、一人だけ友達と呼べる女の子がいました」
冬月はどこか悲しい目をしながら、話し続ける。