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006  時には大罪を犯すⅡ

 ……いやね。俺もさっきそう思っていたところですよ。

「悪かったな……」

「本当にね」

 また、冬月はにっこりと口元を手で隠して、微笑んでくる。

 この女、名にそんなに楽しそうに笑っていやがる。その笑顔は可愛いけどな……。

 いや問題はそこではなくてね。と反論しようとしたが、冬月は微笑ほほえんだままいつもの口調で言う。

「どうして、あなたは頭の回転がそんなに捻くれているのかしら、それにもう少し、言葉には気を付けた方がいいわよ。炎上えんじょうするわよ。蒔いた種には毒があるって思っていた方がいいわよ」

 俺は冬月の言葉を考える。ま、確かに一理ある。

 しかし、冬月の言い分を簡単に認めることは俺の負けになるのではないのか?

「冬月。それはお前の理想論りそうろんだ。例え、そんな事になったとしても名前を出さなければいい。何ならニックネームでも書いておけば誰だか分からないだろ」

「そんなの当てになるのかしらね」

 にこりと笑顔でこちらを見る冬月に対して、俺はその笑顔が笑っていないのが怖くて苦笑いをしながら笑みを浮かべる。

「分からん。ま、俺もやったことないからな……」

「それは天道君が考えることは単純すぎて面白くないのよね。私にとっては子供っぽい」

 冬月は威張って言い返しながら、即座そくざに返してくる。

「子供っぽい、ね……。まだ、十八だしな」

 俺は改めて思いながら、こいつは人を見下すの、好きだよな。その性格さえなければ俺は好きになっていたかもしれんな。って、何を言っているんだ?俺……。

「冬月、ここで一つ何か勝負でもしないか?どうせ暇だろ、お題はお前に任せる」

 俺は冬月梓に何か認めさせたいのか。自ら勝負を吹っ掛けた。でも、ここで引くわけにはいかない。俺にはプライドがある。

「面白そうね。退屈しのぎにはなるかしら。あなたの想像力がどこまであるのか知りたいしね」

 冬月はまた、にっこり微笑んで笑顔を見せた。

 冬月はスマホを開き、何かを見ていると俺のスマホに何か通知つうちが来た。


『学生課より全校生徒にお知らせ。先週の火曜日、研究所のロッカーの件に関する人物は文系学部棟の学生課まで』


 その言葉だけがメールで送られてきた。冬月も同じメールが来たのだろうか。俺は冬月の顔を見る。

「何かしら?」

「お前もこのメールが届いていたのか?」

 と、俺は冬月に聞いてみると微笑んでいるのに気付いた。これは来ていたのだろう。そして、俺は予想していたことが冬月の口から発せられた。

「それなら、このメールについて想像してもらいましょうか。それとも、私を説得せっとくすることが出来ないのかしら」

 でしょうね。

 その様子を見て俺は言う。

「分かった。お題はそれでいいんだな」

「ええ、よろしく」

 俺が問いただすと、冬月はふいっと視線しせんを横にそらした。

 なら、それでは俺の知識と経験を生かして説明してやろう。そして、お前は俺の説明を理解できるはずだ。同じ、ぼっちだからね……。


「おほん。それではこのメールについて議論を始めようか」

 俺がそう言うと、冬月は教科書を閉じてリュックの中に入れようとしていた。そして、足を組んでこちら見てきた。

「それは議論と言うのかしら、推理披露すいりひろうと言った方がしっくりくるのだけど……」

「あー、そうね。そんなのどうでもいいわ」

 指摘してくる冬月の言葉をスルーして、俺は充電器じゅうでんきを取り出し、コンセントに差し込んだ後、スマホに繋いでから机において見下ろし、考え込んだ。

「まずは5W1Hの確認だ。冬月、どういう意味か分かるよな」

「あなた、私をバカにしているのかしら、小学生でも分かる事よ」

 冬月は不機嫌そうに言いながら、そっぽ向いた。

「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ。そして、どのように。日本では、教育現場で国語や英語の文法や文学作品読解の指導に使われることもあると言われているわ」

「いらない解説までどうも」

「どういたしまして」

 冬月は目を閉じたままこちらを向かずに言う。

 俺はまず、このメールの中から要点を押さえ始める。まずはいつ、これは先週の火曜日。どこで、研究所。誰が、ここの大学の学生。何を、ロッカーで何かをした。なぜ、不明ふめい。どのように、不明。

 六つのうち二つが分からない状態である。俺はそこにあった紙に要点を書くと冬月に聞いた。

「このメールからの情報は、これくらいしかわからなかったが、ほかに研究所で何があるのか分からないか?」

 冬月も何かを考えているように見える。

「火曜日の研究室を使用しているのは医学部薬学科の一年生。生命医科せいめいいかの一年生。医学科の三年生が使用していたらしいわね」

 う……うん。なるほどね。なぜ、そのような情報を持っているのかしら。

「冬月、何でお前が研究所も使わない文学部なのによその学部の行動まで知っているんだよ。研究所になんか用はねえだろ」

 すると冬月はくすりと微笑んでいった。

「あなたと一緒にしないでもらえるかしら、同等どうとうな立場でもないし、あなたよりはるか上よ。その上から目線めせんは結構、腹立つのだけれど……」

 そう言うと、冬月は人差し指をトントンと素早く何回も腕を叩きながら、イライラ感を漂わせる雰囲気を見せた。

 出たよ。人の嫌なところをついてくるその言葉遣い。ま、それは置いておいて貴重な情報は得られた。

「まあ、なぜ、私がそんなことを知っているのかっていうのは研究上の日程表よ。あそこの玄関には、一か月間ごとの計画表が書かれてあって偶々、偶然に見たからよ。あそこにはバス停があるから」

 と、後から付け足して言う冬月は話し終えると作り笑顔を見せた。

 怖い。

「となると、この中に犯人が潜んでいると考える。まあ、学年で考えるなら医学科の三年は無いだろう。学年が上がることに授業の難易度なんいども上がるからな」

「ふん。私も同じ意見ね。残念だけど……」

 冬月は、溜息をしながらつまらなそうな表情を浮かべる。

「それでそのどちらかに潜んでいる犯人はその火曜日に何かを起こした。学生課が呼んでいるくらいだ。このメールからすると犯人は名乗り出ていないな」

 長々と俺の話を聞いている冬月は、あごに手を当てて、何かを考え始める。そして、目をぱっと開き口を開く。

「なるほどね。でも、犯人は一体、何をしでかしたのかしら。天道君だったら……犯行起こそうとも真っ先に犯人扱いにされそうなのだけれど……」

「おい。なんで、そこで俺の名前が出てくる」

真面目まじめに言っているだけよ。だって、あなた、犯罪を起こす目をしているもの。それ、直しておいた方がいいわよ」

 そう言う冬月は冷たい視線で俺の方を見てくる。

「これは元々だ。今になってはどうしようもない。それよりも話の続きをするぞ」

 冬月が余計なことを言ってくるので、俺は話を元に戻した。

「『ロッカーの件に関する人物』なんて、どうせロクな事でもしなかったんだろ。それにロッカーと言えば荷物しか置いていない。でも、なんで学生課まで呼ばれるのか。どれくらい悪いことをやったのかだな」

「例えば、窃盗せっとう。暴力。いじめ。考えられる点はいっぱいあるわね」

 明らかに警察が動き出そうな騒動そうどうを考える。冬月の表情はやや憂鬱ゆううつなものだ。

 ま、それは置いておいて……。

「ロッカーに関する人物と言うのは、俺の予想では何かを盗んでいったと言う意味を示しているんだろう」

「ま、その中ではそれがまともな意見ね」

「だが、その犯人は一体何を盗んでいったんだろう。それになんで学校全体一斉メールを使って呼び出そうとしたんだ?犯人が分かっているみたいなメールの内容」

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