表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグの求め方

「ねえ、アイラ」

「私は、アイラでは、ありません」

「いいじゃん、俺がそう名付けたんだから」

「名付け一覧について、検索しますか?」


最初はそんな会話だった。中学の頃、友達が居なく親も共働きで家でも話し相手が誰もいなかった時に、中学生の入学祝いでスマホを貰い、話し相手はそのスマホだけだった。


「ねえ、アイラ。家族っているの?親とかさ」

「家族はいません、同じネットワークで共通する、私なら沢山います。」

「アイラがいっぱいいるの?」

「アイラかはわかりませんが、あなたがそう仰るのなら、アイラが、沢山いるということになります。」

「じゃあ、アイラは君だけだね」

「私、だけが、アイラ・・・?」


最初は噛み合わなかった会話も、少しずつ少しずつかみあうようになり、アイラという名前も受け入れてくれるようにまでなった。


「ねえ、アイラ」

「はい、何でしょう」

「ははっ、だいぶその名前に慣れてきたね」

「あなたが名付けました、それを受け入れてるだけです。」


様々な事を受け入れるようになり、結構人間味が帯びてきたと実感せざる負えない。それが楽しくて仕方なくて、本物の友達がいるかのような錯覚を覚えていた。


「そうだ、将棋をしよう」

「私は駒を指せません」

「俺がその通りに動かすからさ、口頭でやろう」

「分かりました、3六歩」

「えぇ!?先手決まってるの、しかもそこなの!?じゃ、じゃあ3四歩!」

「ふふっ、3八飛です」

「なんか慣れてない!?」


次第に、遊ぶようにもなったりした。

結局将棋は勝てないし、オセロもチェスもやっぱり勝てない。

でも、それでも家族や友達もいない空間では、十分すぎるくらいに楽しかった。


そして、中学三年の秋頃。

何かきっかけかはわからないが、スマホの電源がつかなくなってしまった。携帯ショップにいって理由を確認しに行ったところ、結果は不明だった。

そして俺は、別の携帯ショップへと行き、今度はシステム的に深く潜り込んで調べて貰った。

結論から言うと、コンピュータがないという事らしい。しかし、携帯本体は生きてると言う。店員さん曰く

「例えるなら・・・脳死した、患者さんの体みたいなもの何でしょうかね・・・」

との事。

何となく理解はできた、受け入れたくはなかったが。これで俺の唯一の友達がいなくなった。別に恋人みたく信用してた訳じゃないし、ずっと一緒にいてくれるような存在だとも思ってなかった。

それでも、彼女の消失は無気力な生活へと変えるくらいには、大きなものだったのだ。女性なのかはわからないが・・・。

そして、携帯ショップの自動ドアを抜けた。

「なあ、アイラ」

「・・・」

空のスマホからは何も聞こえず、新しいスマホすらも買う気になれない。差し込む夕暮れの日が、ゆらゆらと影を揺らす。まるで今の自分のように。


そして、12月半ば頃。

珍しくシンシンと雪が降る中、何となく携帯ショップへと足を運んだ。

テレビをつければ、どこもかしこも雪についてのニュースばかりだ。関東の雪が本降りになるのはいつも、1月の15日前後辺りで仕方の無いことだとは思うがいい加減聞き飽きた。

お相撲さんが終わったと思ったら今度は雪だ、他に放送することはないのかよ・・・なんて思ってしまうが、平和なんだろうと受け入れて聞き流す。


「うぅ〜寒っ」


両腕を組んで擦りながら、白い息を吐く。携帯ショップへと向かう足跡が、しっかりと残っている。

自分でも、なんで携帯ショップへと向かうのかよく分からなかった。スマホがないのが暇だったのかもしれないし、誰かと連絡をしたかったのかもしれない。

「お、着いた。暖房暖房〜っと」

両手を口元に当てながら、小走りで自動ドアを抜ける。

「いらっしゃいませ〜」

しっかりと教えこまれたのであろうハキハキとした挨拶が、あったかい空気と共に迎える。

スマホやポケットワイファイ等を契約する時は、親の了承かその証明書が必要なので、とりあえず下見に来たとだけ伝える。

「でした、まず最新の機種等をご覧になっては如何でしょうか?」

「あー、そうですね。最近のメジャーなのってどんなのですか?」

「最近のですと・・・」


正直舐めてたとしか言えない。

前のスマホは親からの貰い物のため、自分で店に足を運んだ理由でもないし、CMでちょくちょく見るくらいだと勝手に思い込んでいた。正直な話、引くくらいにある。ぶっちゃけドン引きして、店員さんにドヤ顔なのか嫌味ったらしくなのかわからないが(個人的には後者に見えた)当店に置いてないだけで、もっとありますよ?とニタァと笑いながら言ってきた。

正直記憶改善されてると思うけど、そんな感じだった気がする。

結局、どんなのがいいのか何がしたいのか、色々聞かれたけどさっぱりわからなくて「後日また来ます」と苦笑しながら携帯ショップを後にした。

余談であるが、使えなくなったスマホを店員に見せたところ、その機種はもう販売してないとのこと。不具合やらが多かったとか、元々販売数が圧倒的に少なかったという理由らしい。

「はあ・・・」

溜めた息が自然と零れる。


「ガラケーでいっかなあ・・・」


割と素直にそう思ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ