第8話 竜人と女王
人ならざる者たちが集う街。
放棄されたドームと街の跡地に、魔人や竜人、獣人などと呼ばれる者たちが好き勝手に暮らしている。
ドームの中央制御室に、女王も勝手に住み着いていた。古い不死者の一人として、諸々の相談に応じたり世話を焼いたりしているうちに勝手に女王と呼ばれるようになった。
税金や軍隊、法律があるわけでもなく、女王と言うのも渾名のようなものだ。それでも、多くの人ならざる者たちが彼女を慕い、あるいは恐れ、幾ばくかの敬意を持って女王と呼んでいる。
今日も、一人の竜人が彼女の元を訪れてきた。妙に儀礼的に、膝をついて頭を垂れる。その様子を、おかしそうに見つめて女王が言う。
「久しいのランバート。いったい何用じゃ」
「ただの御機嫌伺いですよ」
「ひゃひゃひゃひゃ、面白いのう。嘘をつくな、嘘を。用事もなしに訪ねてくるわけがないわ。それとも、わらわに惚れたか。ん?」
「いいえ、左様なことは御座いません」
「ひゃひゃひゃひゃ、国家元首を振りおった。このわらわを。ひゃひゃひゃひゃひゃ」
「軽々しい発言はお控えを」
「何を抜かす。一言も喋れなくなるだろうが。わらわの発言は、すべて軽々しいのじゃ! あ、お主、いま鼻で笑ったじゃろう」
「いいえ、さほど馬鹿にはしておりません」
「馬鹿にしとるんじゃないか!」
「ところで、獣人の姿がありませんが?」
「ああ、キュムか。あれは、ちょっとした暇つぶし、いや、所用で外へ出しておる」
にまにまと応じつつ、女王が言葉を続ける。
それより、今日の用は帝都での騒ぎの件じゃろう。図星か。何の意図かは分からんが、優秀な詠唱士を集めて無体な研究をしておったようじゃのう。そこから逃げ出した者たちを狩り立てていたようじゃ。
ほとんど殺されたらしいが、何人か逃げ延びたのではないか。古い馴染みの不死者が、面白い素材を見つけたと喜んでおったわい。
あん? 誰だと? 骸骨じみた格好で、魔人なんぞと呼ばれておる奴じゃ。あやつの住処は、帝都からだいぶ離れておるが、遠くまで逃げ延びたもんじゃ。なんじゃ、もう行くのか?
踵を返して部屋を出て行こうとするランバートに、追いかけるように声をかける。
「ランバート、幸せの形は人それぞれじゃ。お主にはお主の生き方があろう。じゃが、囚われるなよ」
「女王よ」
立ち止まって、振り向かずに応じる。
「俺は、俺の望みのために、なすべきことをするのです。そのほかに俺の幸せはない」
「不憫な男よ……」
女王のつぶやきが、寂しい部屋に響いた。




