第7話 ビ・ド・ゲル
魔人は、ずいぶん貴方に御執心のようですね。
わざわざ呼び出しのメッセージを送ってきました。まあ、私とシューがいれば大丈夫でしょう。この身に代えても、アリ、貴方は渡しません。
ん? 何ですか。私のことが心配だと言うのですか。ふむ、心配されるというのも久方ぶりですね。私は不死者です。どのような傷を負っても、例え四肢をばらばらにされようと甦ります。おそらく、全身を粉々にされても時間さえかければ元に戻るはずです。
実際、これまでの数百年間、私は何度も死に、何度も甦りました。ただ、傷を癒すたび、特に何度も死ぬたびに、私は私でなくなってきた。肉体が元に戻っても、精神は磨り減っていくのですよ。記憶が薄れ、感情が薄れ、物事への関心が薄れつつある。緩慢に死につつあるのです。
少し、と言っても、数十年前までのことですが、私は自分の記憶や感情が失われていくことを酷く恐れ、また激しい怒りを感じていたようです。すでに、その怒りすら忘れてしまった。記憶も感情も、失うことに何も感じません。少し不快に思うだけです。いずれ、この不快さもなくなり、私は私でなくなるでしょう。
おや、心配させてしまいましたか。大丈夫です。まだまだ何十年も、あるいは何百年先の話です。
時折、不死者の成れの果てを見ることがあります。言葉も忘れ、人の姿も忘れ、何もかも忘れ果てて這いずるモノたち。いずれは這いずることすら忘れ、ただの無機物となるのかもしれません。
私はね、この運命から逃れたいのです。そのために、この世界の理を根本から覆す究極魔法を探し続けています。ですが、その気持ちも少しずつ削られているようです。私が私でなくなっていく、不安とも焦燥とも異なる気持ちが私を縛っている。
究極魔法を見つけられるかどうかは分かりません。今はシューの傍にいたい。彼女を見ていると、その間だけは私が不死者であることを忘れられる。危うく、儚げで、それでいて強靭で、真っ直ぐで。あんな生き方をしていたら、命がいくつあっても足りない。
だから、私が彼女の代わりに死ぬのです。彼女を失うその日まで付き従うつもりです。一生懸命に生きられない私の分まで、彼女に生きてもらいたい。
おや、泣いているのですか。ああ、紳士として、よろしくないことです。申し訳ない。こんなモノのために泣くことはありません。




