第42話 遡り
ガムスが詠唱を締めくくる言葉を口にすると、周囲に展開していた魔竜の群れは消えうせ、視界が360度、全面に広がった。
群れに押し流された先、ずっと離れたところに、女王やキュムやクナ、自分の邪魔をし続けていた連中が蹲っているのが見える。見えない力に押さえつけられるように動けないでいる。
自分だけは自由に動けることを確認して悦に入りながら、周囲の様子を観察する。砂から生じた魔獣や魔竜の群れが捲き戻しのように砂に還っていく。さらに、傍らに冷たい躯となって倒れていたアリの顔に赤みが差し、呼吸を取り戻した。
「再構成しているのか。ほとんど奇跡といっていいじゃないか。生命を捲き戻しているのだな」
一人で納得するガムスの周囲で、これまで生きてきたであろう者たちが、記憶を再現するかのように蘇っては消え、過去へ過去へ遡っていく。
加速度的に捲き戻しが始まり、終末のパレードが始まった。敵もなく、未来もなく、目的もなく、静かに自分のためだけのパレードを見て悦に入っていたガムスは、地面が近付いてくるのを不思議に思った。
どさっという音を感じ、胸に痛みが走った。自分が倒れ、胸から血が流れ出していることが分かった。意識は薄れ、ただ普通にガムスは死んだ。
遠く離れた場所から、カザはその死を確信した。射撃は決して得意な方じゃなかった。それも、こんな重圧の中で。だが、とにかく成功させた。最悪の想定ではあったが成功はさせたのだ。
この後、どうなるか自信はなかった。ハインシュトルムの助言で最後の保険として残されていた。発動させた詠唱士が途中で死ねば、その術式は解除される。そう聞いてはいたが。
敵が安心した瞬間を狙うのは襲撃の基本だ。一つ目の罠を回避して安心したところに、二つ目の罠を仕掛ける。究極魔法自体が不可解なもので予想も難しかったが、発動させて成功を確信した時点で仕掛けるのは当然のことでもあった。
カザの周囲では、捲き戻されている途中の生き物たちが困惑したように静止している。まるで時が止まっているかのようだった。大昔から来た自分だからこそ、すぐに影響が無かったのだろう。
周囲に動きのない中、長時間、ほとんど飲まず食わずで照準を覗き続けていた疲労から、カザは、やけくそ気味に目を閉じて横になった。




