第41話 発動
詠唱を始めたアリに、女王が、キュムが、シューが、動ける者みなが飛びかかった。しかし、アリを覆うように巨大な魔竜の姿が現れ出てくる。近づけないまま詠唱が進む。
「魔道式に縛られているんだ。よせ!」
ランバートの叫びも届かず、一定のリズムで詠唱が繰り返される。空中に生じた魔獣の群れに阻まれながら、シューも叫ぶ。
「そいつは蘇りの秘術なんかじゃない。みんな消えてしまうぞ。それが望みなのか。言ってたじゃないか。ちゃんと幸せだって。自分の意志で戻るんだって。自分の気持ちを言え。正直な気持ちを言えよ!」
詠唱のリズムが少し乱れる。具現化した魔竜の翼が開いて、アリが戸惑った表情を見せた。
「最後の一言で発動します。みなが発動の邪魔をするだろうと聞かされました。私は……」
「アリ、やめるんだ!」
「どうして……。私は、先生のために」
「もういい。お前にそばにいてほしいんだ」
「先生、先生も邪魔をするんですね。先生も邪魔をするだろうと、言われていた通りです。魔道式に操られているのは私じゃない。みなが……」
ぐっと息を吸い、最後の言葉を口にしようとする。口を開き、しかし、ぱくぱくと喘ぐようにするだけで声が出ない。代わりに、啜り泣きが聞こえた。
「声が出ません。先生、なぜでしょうか。私は、先生のために、先生の大事な人を蘇らせたい。みなが消えてしまうなんて、そんなの嘘っぱちです。
きっと、みなが邪魔するだろうけど、自分の意志で発動させるんだと、そう言われたんです。そうしなければならないんです。なのに、なぜでしょう。最後の一言がどうしても言えません。先生、先生、私は先生のそばにいて良いのですか?」
ランバートが強く頷き、アリを見つめ返した。
アリは、安心したように表情を緩め、詠唱を中断した。生じていた魔獣や魔竜も姿を消し始めるが、その時、キュムは前に聞いたことのある嫌な音を聞いた。
数発の乾いた音が響き、その場にアリが倒れた。地面に落ちた二つの魔法書が拾い上げられる。
「よくやった。お前といい、ジルといい、最後まで役に立ってくれたよ」
そこに立っていたのは、ガムスだった。
いち早くランバートが動いた。瞬時に襲い掛かるが、何もない場所からぞくぞくと魔竜や魔獣が姿を現し、弾き飛ばされる。近付こうとしても波のように現れる群れに押し流されてしまう。女王すら近付くことができなかった。
「本気で発動させれば、この程度、造作もない」
波の中心点でガムスが満足げにつぶやく。傍らに倒れているアリがもの問いたげにしていた。
「もう喋ることもできないか。魔竜同士の衝突で潰れたのは私の人形だ。危険な場所に、のこのこ姿を晒せるほど気が大きくはないのでね。……死んだか。では、最後の言葉を代わりに言ってやろう」




