第40話 目覚め
魔獣の群れと戦い続けていたネスティたちは上空を見上げた。二匹の巨大な魔竜が、空中で絡み合い、牙を立て、爪を立てて激しくもみあっていた。
「やぁ、すごい迫力ですね」
魔獣を斬り捨てながらフォレットが言う。余裕のある言葉とは裏腹に、息が上がり始めていた。
「やってくれたみたいね。クナたち、無事なのかしら。ガムスは死んだのかもしれないわ。ほら、魔獣たちの動きが鈍い」
「そうじゃの。鈍いというか目的をなくしたような、ぼうっとした様子じゃな。もう囮もいらんし、船を出した方がよかろう」
「あたしも賛成だよ。さすがに限界だ。切りがない」
ネスティは、チョビーとサカエに頷き返すと、船を走らせようとした。ところが、上空から、走り出した船の甲板目掛けて落ちてきたものがあった。派手な音を立てて甲板を突き破って着地したのは、ひとならざる者たちの女王だった。小脇にクナとアリを抱え、背中にはキュムがしがみ付いている。
「ああ、ふ、船が、借金が……」
泡を吹くネスティを尻目に、破れた甲板の穴から這い上がってきた女王が笑う。
「いやぁ、危ない危ない。確かに慢心じゃったな。こっちがクナで、こっちがアリじゃったか。どっちも無事じゃ。キュム、ちょっと重くなったの。そろそろ降りんか」
「降りんかじゃないですわよ。恐ろしい、本当に恐ろしいですわ。あんなスピードで空中を駆け回って、正直、気を失いかけました」
「わらわのおかげで助かったのじゃぞ。感謝せんか」
「油断して空中へ放り出されたくせに。肝心な時に役に立たないのですから」
「間に合ったじゃろうが。二人とも無事じゃ」
「クナ姉さまが詠唱術でアリと自分を守っていたからでしょう? 魔竜同士の潰しあいも、クナ姉さまのおかげだし。助けに来た相手に助けられていれば世話はないですわよね」
「あ、あのキュム」
クナが控えめに声をかける。
「助けに来てくれて、ありがとう。女王様のおかげで無事に降りられたのだし、もうその辺りで」
「いやです。許しません。無茶はしないでください。たまたま助かったから良かったものの、ほんのちょっとの差で、死んでいたかもしれないのですよ」
「ごめんなさい」
「いーえ、許しません」
言うと、クナに抱きついて、声を押し殺しながら泣き始めた。
宙船は壊れてしまったが、統制を失った魔獣の群れはどこへでもなく四散し、二匹の魔竜も、絡み合いながら遥か彼方へと姿を消した。空中へ投げ出されたガムスは、壊れた拠点の瓦礫に挟まれて死んだ。クナとアリを救い出した女王が、その様子を視界の端に捉えていた。
気を失っていたアリが目を覚ましたのは、女王様とキュムが甲板でバカンス気分を楽しみ、ネスティとチョビーが必死に船の修理をしている最中のことだった。ランバートが優しく声をかける。
「アリ、大丈夫か」
「ここは……」
「宙船の中だ。ガムスは死んだよ。魔竜も魔獣も近くにはいない。ゆっくり休んでいていいんだ」
「先生、迷惑をかけました。それに、究極魔法も発動できませんでした」
「もういいんだ。お前が無事なら」
「先生、私は……」
と、ふらつきながら立ち上がった。
「甲板に皆さんを。始まりの書も一緒に。また誰かが使うことのないようにしないと」
「わかった。だが、無理するなよ」
甲板に集まった面々を前に、アリが究極魔法について話す。
「発動には条件があります。まずは始まりの書と、その所有者が近くにある状態で詠唱すること。第一段階の発動の条件は、それだけです。
第二段階については、その詠唱に、別の詠唱を重ねることで発動します。第三段階については、さらに終わりの書が必要になりますが、実のところ、解析は終わっています。ちょうど、できあがったところだったのです」
言い終えて俯くと、躊躇いがちに詠唱を始めた。その様子を見て、ランバートが心配そうに声をかけようとしたとき、甲板の周辺、何もない空間から魔獣や魔竜が這い出てきた。
「始まりの書と終わりの書を手にした者が、すべての権限を得ます」
そう言うアリの手には、二つの魔法書があった。ランバートが戸惑いを隠せずに問いかける。
「どうした、何をしているんだ?」
「これで最終段階の発動ができます」
「バカな。まだ魔道式に縛られているのか」
「いいえ、これは私の意志です。何を犠牲にしても、先生の最愛の人を呼び戻してみせます」




