第4話 狩
その日は、シューもビドゲルも真剣な様子で、道具の手入れをしていた。自分の鉾の具合を確かめながら、シューが言う。
「アリ、今日は地下通路へ魔獣を狩りに行く。本当は連れて行きたくはない。ただでさえ危険な上、いつこの前の魔人が襲ってくるか分からないからな。だが、お前だけ街へおいていくよりは、一緒の方が安全だ。不意を突かれなければ、あんな奴に負けはしねぇ」
「そうですとも」
と、ビドゲルが続ける。
「普段の狩りのつもりで、何の用意もしていなかったですからね」
実際、狩場でのシューとビドゲルは強かった。
魔獣は人間を餌としかみていない。飛びぬけて強い者や詠唱術を使う者がいても、概して、力なく脆い人間は食欲を満たすための肉でしかなかった。狩人の多くはチームを組み、群れとして狩りを行う。盾役が魔獣を牽制し、後方から詠唱士が止めを刺すのだ。
だが、シューは1人で魔獣を屠っていく。
ビドゲルが要所要所でサポートしているが、アリの傍から動く必要がない程度のもので、シューの力は圧倒的だった。それについて、戦いに目を配りながら、少し自慢げにビドゲルが言う。
「どうですか、シューの戦い振りは。不死性と詠唱術さえなければ、魔人にも1人で勝てるでしょう」
ところで、と声の調子を変えて訊く。
「アリ、私は貴方を疑ってはいません。シューが信じているようなので、私も信じます。ただ、貴方は詠唱士なのではありませんか?」
問いかけに、俯いていたアリが顔を上げた。
「はい。まだ、それほど歌えないけど、帝国軍付きの詠唱士として育てられました」
「軍付き?」
「帝都では、詠唱士を集めているんです」
「遠く離れた帝都の人間だったとは。それに軍付きとは、きな臭いですね」
「詳しいことは分かりません。でも、何か良くないことが起きようとしているのだと思います」
「で、逃げてきた?」
「そうですね。少し前に軍から別の場所へ移されたんです。僕が一度聞いた詠唱を忘れず、すぐに何度でも正確に歌えることが分かって。研究のための施設でした。待遇は良かったけど、ひどい実験ばかりで、集められていた詠唱士が何人も死んでいきました。
僕は詠唱を正確に繰り返す特技があって、研究者にとって便利なモルモットだったから比較的大事に扱われましたが、監禁されて、いつ死ぬか分からない状況でした。
でも、ある日、施設に襲撃があったんです。誰が、なぜ襲撃したのかわかりませんが、僕らを解放してくれました。僕らは究極魔法を発動するための鍵として集められたと言っていました」
と、シューがビドゲルに向かって声を張り上げる。
「おい、サボってないで、ちょっとは働け!」
言われて、やれやれとばかりにビドゲルが詠唱術で数体の魔獣を排除した。アリを見ながら、にっこりと笑う。
「長生きはするものです。こう見えて、私も多少は使えるのですよ。
究極魔法については私も訊いたことがあります。式名は〈終末のパレード〉でしたか。何が起こるのかまでは分かりませんが、世界が引っくり返るようなことが起きるとか。
私自身も、この不死の運命から逃れたくて探し続けてきました。シューを見ている方が面白くて、半分忘れてしまってますがね」
ああ、それとと続ける。
「貴方、本当は女の子でしょう?」




