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第39話 救出


 ガムスの意識が下方の宙船に向かっていた頃、キュムと女王は、密かに魔竜の背にある拠点に侵入していた。クナとアリを救い出さなければならない。


 侵入した時点で救出は半ば成功したように思えた。一室で眠らされていたクナと始まりの書を難なく発見した際には拍子抜けするような感じだった。その目を覚まさせ、さらに研究室でアリを見つけたのだが、


「だから、ここは危ないって言ってますのに」


「構いません。究極魔法を発動させるのです」


と、キュムとアリは、埒の明かない会話を繰り返していた。明らかに様子のおかしいアリを無理にでも連れて行こうとした時、研究室の壁を破って小型の魔竜とガムスが飛び込んできた。


「こそこそと何をしている。その二人は、まだ必要なのだ。返してもらうぞ」


「ふん。わらわを前に、よく言えるな」


「人ならざる者の女王か。慢心だな。アリ!」


 声を合図に、短い詠唱術が発動する。一瞬の硬直が女王とキュムを襲った。ほんのわずかな時間でも十分な隙となる。小型の魔竜に身体を捉えられ、二人は、そのまま高速で空中へ投げ出された。残されたクナを一瞥し、


「目が覚めたようだが、余計なことを考えるなよ」


と釘を刺した上で、アリに問いかけた。


「何の話をしていた? 助けに来ただけではあるまい。何か企みがあったはずだ」


「ここは危ない、魔竜を連れてくると」


「魔竜を? 野生種を連れてきて戦わせようというのか。操るようなことはできないはずだが」


「詠唱術で引き付けることができます」


「挑発したり興味を惹いたりしながら連れてくるつもりか。だが、そううまくは行くまい」


 それは始めは小さな点に過ぎなかった。遠くから、黒い点がぐんぐんと迫ってくる。やがて家ほどの大きさになり、街を覆う大きさになり、雲のように巨大な魔竜が姿を現した。

 激しい風に晒されながら、小型の竜に姿を変えたランバートが先導するように飛ぶ。その背中では、シューが鉾を振るい、ビドゲルが詠唱術を連発していた。


「はは、竜人てのは名前だけじゃないんだな」


 有翼の魔獣を屠りながらシューが言う。常人なら目を開けていることすら苦しいはずの風と寒さに晒されながら平気な様子だった。


「竜に変化するのか、竜が人に変化しているのか、議論のあるところですが。魔竜に負けず劣らず、これだけの速度で飛べるとは思っていませんでしたよ」


「魔竜もでかすぎだろ。身体に小型の魔獣が棲みついてるんだからな」


「私が誘導し、シューが守り、ランバートが飛ぶ。無茶な話でしたけど、何とか上手くいきそうです。ガムスの魔竜が見えてきましたよ」


 しかし、魔竜同士がぶつかり合うかと思えた瞬間、ガムスの拠点である魔竜は高度を上げて身をかわした。巨体が交差し、高速で遠ざかり始める。

 ガムスが安堵の息を漏らしたとき、空中で轟音が響き、激しい火炎が四方に飛び散った。興味を惹かれた野生の魔竜がぐるりと向きを変え、自分の頭上を飛ぶ同種族へとぶつかっていく。


 予想される衝撃を前に、ガムスは信じられない思いでいた。本当に野生種を連れてきたことにも驚いたが、それ以上に、せっかく避けた野生種を引き戻した行為に驚いていたのだ。クナの詠唱術だった。燃え盛る炎の塊を召喚し、空中で爆散させたのだ。ガムスは、クナを睨みつけた。


「よくもやってくれたな。お前も助からんぞ」


「そうでしょうね。眠らされていた間のことも、思い出してきました。私のせいで、たくさんの都市が壊滅し、多くの人が殺された。今度は私たちの番です」


「こいつはどうなんだ。アリも巻き込むつもりか」


 と、足元が揺れ、衝撃と咆哮があがった。魔竜の背にあった拠点が吹き飛ぶ。



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