第38話 開戦
ガムスは、連日の襲撃にうんざりしていた。
手元に始まりの書とその所有者のクナ、終わりの書を得られるであろうアリを有し、究極魔法の完成が目の前だというのに、人ならざる者の女王や詠唱士、獣人の襲撃が続いていた。
本格的に迎え撃とうとすると引いていく。時間を稼いで何かを待つような、そんな戦い方だった。詠唱術や遺物を使った攻撃で落ち着く暇もない。
巨大な魔竜の背に拠点を置き、移動しながら究極魔法の解析を進めている。詠唱術を正確に再現できるアリに研究させているのだ。魔道式をかけ、この研究はランバートのためだと思わせている。究極魔法とは、死者の蘇りの術だと。本当のところは、と、ガムスは一人で悦に入っていた。
本当のところは、死者の蘇りどころではない。砂から生じたものを砂に還し、さらにその先、すべての生命を成り立ちへと捲き戻し、捲き戻し、果ては生命の原初へと至るはずだ。
この星が見てきた生の連鎖が幕を閉じる。走馬灯のように、生きとし生けるものの死のパレード、終末のパレードが演じられ、私がその観客となるのだ。来るべきその時のことを思うと身体が震える。定命の身にして、そんなパレードが見られるのだから。
と、その時、轟音と共に魔竜の巨体が揺れた。遥か下方からの砲撃だ。この高度まで届くのは遺物を使っているからに違いない。砲撃の元を叩き潰すため、魔竜の方向を変えながら、アリの元へ向かう。拠点の一角にある研究室に入って言う。
「お前の邪魔をしに来ているやつらの仕業だ。究極魔法の発動を止めようとしている。早く解析しないと間に合わないぞ」
「はい。解析してみせます。あの人のために」
疲れきった様子のアリが、気力を振り絞って応じる。その返事に気をよくして研究室を出ると、邪魔者を一掃するべく魔竜や魔獣を動かし始めた。一方、雲のような影を落とす巨大な魔竜の遥か下方では、
「ほっほっほっ、来た来た」
「来たねぇ」
と、チョビーとサカエが遺物から飛び降りてネスティの待つ宙船へ向かった。
宙船の足は速くかなりの距離を走ったが、やがて魔竜や魔獣の群れに追いつかれて停止した。上空ではガムスの乗る巨大な魔竜が待機し、高みの見物を決め込んでいるようだった。
ネスティは雲のような魔竜を見上げ、宙船に向かってくる魔獣の群れを見ながら深呼吸をした。
「さて、女王様も竜人もいないけど、ここが踏ん張りどころね」
つぶやきに応じるのはフォレットとハインシュトルムだ。二人も宙船に乗っているのである。
「信じるしかありませんね。希望を持って戦えるだけ幸せです」
「くっくっくっ、このハインシュトルムある限り、容易に手出しはさせません。私に任せておきなさい」
「その根拠のない自信と無駄に高いテンションが今回ばかりは有り難いわね。さぁ、来るわよ」
宙船の周囲で行われた戦闘は、そもそも絶望的なものだった。無数の魔獣の群れに対して、詠唱士数名とそれを守る者が数名。遺物を使っていても、とても勝てるものではない。
ガムスは、その様子を楽しみながら、しかし、違和感を持って眺めていた。帝都から離れ、何もない地点に留まって逃げようともしない。何か企みがあるに違いない。そう感じ取って、魔竜の高度を下げようとはしなかった。




