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第37話 檄


 人ならざる者たちの女王に続いて帝都に侵入した一行だったが、現場に駆けつけたハインシュトルムに声をかけられ、その経緯をフォレットが説明した。


「なるほど」


 事情を聞き終えたハインシュトルムが応じる。


「だいたいの話は分かった。ゲートを壊したのは女王様の気まぐれと言うか物の弾みで悪意はないと。まあ、ゲートなんぞあったところで、大型の魔獣や魔竜には気休めにしかならんし、住民は地下へ避難させているから別に構わんよ。

 それより、シューとビドゲルと言ったな。確かに、お尋ねの詠唱士アリと竜人ランバートは帝都にいたよ。だが、詠唱士はガムスに奪われた」


「奪われただと? ランバートは何をしていたんだ」


「ふむ、こちらも少し説明が必要かな」


 ハインシュトルムは、アリとランバートを帝都へ迎えた事の次第について語った。ちょうど同盟が反乱を起こした頃だったという。帝国に力を貸す代わりに、保有している魔法書を閲覧させてほしいという申し出は願ってもないことだった。複数の都市が陥落する中、竜人と優秀な詠唱士の助力を得られるのなら、魔法書の閲覧くらい安いものだ。


 第二都市が落とされた後、ガムスから帝都の魔法書や研究資料をすべて差し出すよう一方的に告げてきたが、帝国として、またランバートとしても受け入れられないことだった。独断でガムスを襲撃したという。その結果、と話を続ける。


「簡単に言えば、返り討ちにあって詠唱士は奪われ、竜人も重傷を負って戻ってきたというわけだ。怪我を癒しながら策を練っているようだが、ランバートは部屋に篭ったままで何をしているのか分からん。良い機会だ。様子を見に行こうじゃないか」


 ランバートの部屋の扉には鍵がかかっていたが、例によって無理やり入ったところ、中では、ランバートが無気力にテーブルに向かっていた。空になったグラスと酒瓶が転がっている。シューが、つかつかと歩み寄り、ランバートの襟首を掴んで持ち上げた。


「てめぇ、なにをしてんだ?」


「ああ、お前か。相変わらず気の強そうな女だな。あれは無理だ。魔獣程度なら何とかなる。小型の魔竜もだ。だが、固有種同様の魔竜もいた。俺はもちろん、女王でも勝てないさ」


 シューがこぶしを握り締めた時、横合いから女王の拳が飛んだ。派手な音を立てて、ランバートが奥の壁にぶつかった。崩れた壁に向かって言う。


「しっかりせんか。お主がこれほどの根性なしとは思わなんだぞ。同じ過ちを繰り返すつもりか」


「お言葉ですがね、俺は元々根性なしですよ。アリも、不甲斐ない俺に愛想を尽かしているさ」


 それを聞いて、今度はシューが、ランバートを蹴り飛ばした。


「てめぇ、ふざけんなよ。アリは、自分の意志でお前の元に帰ると言ったんだ。それが幸せだと。きっちり責任とりやがれ!」


「アリが、そんなことを……」


 呆然とした表情のランバートを、さらにキュムが殴り飛ばした。


「えい! しっかりなさい。事情はよく分かりませんが、ここは一発殴っとく流れですわね」


「ふーむ、流れで竜人を殴り飛ばすとは。その心意気や良し」


 しきりに感心する女王に笑顔を返すと、ランバートに向かって言う。


「ガムスは、子飼いにしていた詠唱士を見捨てました。ただの詠唱士なら不要だったのでしょう。帝都に保存されていた魔法書や詠唱術を知っていることが重要だったのではありませんの?」


「そうか、アリが記憶している範囲に求めるものがあれば、それで事足りる。しかし、いったい何を?」


 その疑問に応えたのはハインシュトルムだった。


「おそらく、終わりの書を求めているのだろう。我々、中の者たちが外界との接触を恐れてきたのは宗教的な理由からではない。魔獣の肉など口にするべきではない本当の理由がある。ここまできて隠し立てすることではないが、陛下のお許しなく話すことでもない。謁見の間に集まってもらおうか」



 皇帝と女王が玉座につき、謁見の間において、居並ぶ者たちの前でハインシュトルムが語る。


「我々の知る限りのことを話すとしよう。遥か昔、この世に詠唱術はなかった。その頃は科学というものが信じられ、天空にまで届く巨大な建物、地下を走る鉄の乗物が幅を利かせていたという。砂に埋もれた遺跡や都市の地下通路に、その跡は見られる。

 しかし、ある時、何らかの問題が生じ、それまでの動植物が姿を消して、代わりに魔獣や魔竜が現れた。かつての動植物が根本から作り変えられたものだという。その際に用いられたのが始まりの書だ。終わりの書は、その効果を打ち消し、作られた生命を巻き戻すと言われている。砂から生じたものを砂に還す。

 砂から生じたものを食べてはならない。そう教えられてきた。いつか、終わりの書が詠唱された際に、人類が無に帰すことのないように」


 ハインシュトルムの話を聞いて、カザが納得したように頷く。そして自分自身のこと、目覚めるまでのことについて語った。


「この世界には、詠唱に反応する極小の生体システムが蔓延しているのだと思う。生き物を分解し、また生成することさえ可能なのだとすると、人間を含めたすべての生き物が砂に還ることもありえる」


「しかし、ガムスを止めるのは容易ではないぞ」


 と、ランバートが口を挟む。


「本物の魔竜と接したこともあるが、ガムスの手駒には、それと同等の魔竜も控えている。正直言って、手も足も出なかった。いや、待てよ。もしかすると、何とかなるかもしれない」


 考え込むランバートを見て口元を緩ませながら、女王が言う。


「さあ、それぞれ、できることを考えて早急に事に当たるんじゃな」


「余からもお願いしたい」


 黙って話を聞いていた皇帝が頭を下げる。


「帝都に保管してある魔法書や遺物など、役立ちそうな物があれば何でも提供しよう」


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