第36話 帝都
ネスティの宙船である。甲板に女王とキュムが立ち、知り得る状況を伝えた。頭を下げながらキュムがいう。
「私が付いていながら、クナ姉さまを連れ帰ることができませんでした。本当にごめんなさい」
「ううん」
首を振りながらネスティが応じる。
「あなたがいなければ、クナがどこでどうしているのか見当も付かないところだったわ。ありがと。ところで、そちらの方は、えーと、女王様とお呼びすればいいのかしら」
「うむ、苦しゅうない。女王様と呼んでもよいぞ。わらわに名前はない。唯一無二の固体じゃからな」
「リルって可愛い名前があるじゃないですか」
「黙っとれ、キュム。空気を読まんか」
「読んだから言ったのです」
クスクスと笑うキュムを捨て置き、こほんと咳払いをして言葉を続ける。
「あー、まあそんなわけでな。舐めた真似をしてくれたガムスとかいう輩、その取り巻きの魔獣や魔竜ども、すべて打ち殺してくれようぞ。ついでに、クナとやらも助けてやる。それを伝えにきたのじゃ」
「リル女王!」
と、ネスティが声を上げる。続けて、他の船員も、リル女王、リル女王、リルちゃん、と声を上げた。
「なんじゃ、お主ら」
「私達も行きます。少しは役に立てるはずです」
「死体が増えるだけじゃ。止めておけ。あと、誰じゃ。ちゃん付けで呼びおって」
「リルちゃん、俺達も行きたいんだ」
と、ちゃん付けの犯人はカザである。
「お主か、こら」
「命の恩人なんだ。絶対に助けてみせる」
「わかったわかった。じゃから、とりあえず、ちゃん付けはなしでな?」
「ありがとう。リルちゃん」
「……まあよいわ。勝手にせい」
ネスティ一行が帝都へ着いた時、街はすでに臨戦態勢だった。出入りは厳しく制限され、船着場では数名の者が帝国兵ともめていた。シューとビドゲルを連れたフォレットである。
「お願いします。ハインシュトルム様に連絡を」
「ダメだ、ダメだ。誰も入れるなというのが、そのハインシュトルム様からの命令なんだ」
「私は、第二都市警備隊長のフォレットです。そう告げてください」
「第二都市だと? 地図上から消えた都市の警備隊長なんて、肩書きにもならん。そもそも街を守る警備隊の隊長が、よく生き恥を晒せたもんだな」
パコッ、と兵士の頭を叩いたのはネスティだった。
「満身創痍の人間に向かって、よく言うわね。フォレット、あなたも言わせとくことはないわよ」
「ネスティさん、どうしてここへ」
「逃げてきたのよ、と言いたいところだけど、私の大事な船員を攫っていった馬鹿野郎に、世間ってものを教えてやりにきたのよ」
頭を叩かれた兵士が激昂して銃を構える。そこへ、たまには船旅もいいのうと観光気分の女王が宙船から降りてきた。無粋なものを向けおって、と言い終わるか否か、一瞬のうちに兵士は弾き飛ばされていた。それを見て向かってきた一団も軽くあしらわれ、女王の足元に転がる。目を見張りながら、シューがいう。
「すげぇな、あんた。でも、ゲートが閉じてて入れないんだよ」
「ふん、こんなもの開ければ良いではないか」
帝都を囲む城壁に近付くと、女王がゲートに触れ、軽く力を込める。それは音を立てて開き始めた。周囲の城壁も引きずられるように軋み、崩壊する。
西のゲートが破られたとの急報を受け、ハインシュトルムは現場へ向かった。情報が錯綜しており、当初は想像以上に早くガムスの襲撃があったのかと思ったが、どうやら違うらしい。帝都のドームを目指して進む一団には、不死者や詠唱士、獣人までいるようだ。人ならざる者たちの女王がいるという情報も入った。
現場に着いたハインシュトルムは目を疑った。見たところ、死んではいないようだったが、急行させた精鋭部隊が完膚なきまでに叩きのめされていた。
一団の先頭を歩くのは、確かに、人ならざる者たちの女王だった。立ちはだかる部隊を何気なく崩壊させ、数多の兵士が地面に転がる。その後ろから、
「はいはい、ごめんなさいよ。通りますよ」
「これ、ちょっとまずいんじゃないですか」
「いいんだよ。徹底的にやった方がいいって」
「そうですね。こちらの力を見せておいた方が話も楽になります」
「女王様って、こんなに強いの? ちゃん付けはやめておこうかな」
「あらあら、呼んであげてくださいな。喜んでましたわよ」
「わし、帝都に入るのは初めてじゃ」
「あたしだってそうだよ。ゲート破りするとは思わなかったけどね」
などと気楽に話しながら何人かが歩いてくる。その中に見知った顔を見つけて、
「フォレット君」
と、ハインシュトルムが声を上げた。
「これはいったいどういうことだ。なぜ、人ならざる者の女王と一緒にいるのだね」
「あ、これは、ハインシュトルム様。話せば長くなるような、そうでも無いような……」




