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第31話 夜の街


 第二都市では、まだ誰も異変に気付いておらず、警備隊長のフォレットは、酔いつぶれたシューを、ビドゲルと一緒に宿まで送ってきたところだった。頭を下げながらビドゲルがお礼をいう。


「わざわざ送ってもらって、すみませんでした」


「いや、構いませんよ。私の力不足で、この街の治安も悪くなっているので」


「貴方は、よくやっていると思いますよ。あまり自分を責めない方が良い」


「ありがとうございます。まあ、できるだけのことはやりますよ」


 と、その時、街の外縁から、これまでにない狂騒が伝わってきた。悲鳴が、叫号が、轟音が、静かに眠りを貪っていた夜の街を悪夢の中に目覚めさせる。


 暗い窓に、次々と灯りがつく。


 路上に吐き出された混乱した人々が魔獣に襲われ、状況もわからないまま食い殺される。上空を舞う巨大な影の下には、呆然とした寝乱れ姿の人々だ。


 夜の街を、有翼の魔獣が夢魔のように飛びまわる。魔獣の吐く炎が、逃げまどう人々や半壊した建物を映しだしていた。


「ビドゲルさん、はやく逃げてください!」


 走り出そうとしたフォレットの身体が宙を舞った。魔竜のひと薙ぎで建物が崩れ落ち、空高く舞い上がった人々は、地面に落ちて果実のように弾けた。


 フォレットは、何とか身を起こして街中へと向かった。多くの人々が我先に逃げ出そうとし、いち早く宙船に乗った者は恐慌に駆られ、他の人々を跳ね飛ばし、船体を赤く染めながら疾っていた。誰ともしれない喧騒が街中に響いている。


 ……助けて……はなせ、ガキィ!……ひぃっ…………邪魔だ!……どけどけどけどけ……きゃー!………………


「危ない!」


 女性の金切り声が響き、魔獣に喰われかけていた少女を突き飛ばした。その女性の首が魔獣に噛み切られる。一方、倒れた少女の上を逃げ惑う人々が走り抜け、蹴り飛ばし、踏みつけ、にじり殺した。


 住民を誘導しながら、警備隊は魔獣と戦った。街の治安が悪化するまでは常の仕事として魔獣の駆除を行なっていたから、戦い方は知っていたのだ。


 フォレットは、硬い外殻をもつ魔獣を足で押さえつけ、その隙間に剣を刺しこんだ。引き抜こうとしたが、魔獣の顎に押さえられ、引き抜くことができない。剣を引き抜こうと焦る彼の左肩に小型の魔獣が噛みつく。強靭な顎で肩の骨をきしませ、何本もの鋭い足先を肉に喰いこませる。

 部下の一人が、それに気づき、魔獣を突き殺した。力尽きた魔獣は地に落ちたが、フォレットの左肩、血の渦の中には骨が覗いていた。同じ部下が戦槌を振りあげ、殻ごと魔獣を叩き潰したが、背後にいた小型の魔竜に気付かず、フォレットの警告も間に合わなかった。大きな顎に身体を挟まれ、部下はへしゃげて死んだ。片目を見開いて、その様をみた。


 剣を片手で振るい、何匹もの魔獣を屠った。ぼろぼろになった剣を放り捨てると、斃れた部下の腰から短剣を抜いた。左腕はまるで動かせず、だらりとぶら下がっていた。肩の傷口から血があふれ出し、びちゃびちゃと地面に落ちる。


 目の前で、護るべき住民や避難民が次々と殺されていく。家族に置いて行かれたのか、へたへたと通りに座り込んだ老人に長い尾を持つ魔獣が襲いかかり、齧りついた。子供を庇った父親が、魔獣の吐く炎に捲かれて消し炭となった。

 満員の宙船から突き落とされた女性が、船上の子供に向かって、降りてはだめと叫ぶけれど、降りるまでもなく、少しでも船を軽くし、この場を逃れようとする者によって蹴り落とされていた。女性が駆け寄って抱きあげた子供は首の骨を折って絶命していた。嗚咽をあげる女性を有翼の魔獣が取り囲む。

 打ちしおれた少女が壁に張りつき、歯を鳴らして首を振っていた。フォレットは、そうした光景をすべて見たが、見ることしかできなかった。次から次へと魔獣が押し寄せ、助けることができなかった。目の前の相手を倒したときには、すでに、助けようとしていた者は殺されてしまっていた。


 何より、負傷した彼は己の身を守ることで精一杯だった。できるのは、ただ逃げずにこの場に留まること、それだけだった。

 

 額から流れる血に片目をつぶりながら、長い尾を振りまわす魔獣の首を掻き飛ばした。その首から噴きでた体液をまともに浴び、せきこみ、よろめいて腰をつく。地面に柔らかい弾力があり、見ると、満足げに腹を膨らました魔獣だった。膨らんだ腹を裂いて中の物を引きずり出した。人間らしき塊が半ばまで消化されていた。手足を溶かされた肉塊がまだ動いていたが、それは痙攣か、意思をもった動きなのか。


 腹を裂かれても意に介さず、魔獣は、怒りをもってフォレットに飛びかかったが、部下の銃が魔獣を撃ち殺す。地面に転がる魔獣と人間らしき肉塊から目を背けた先に、宙船を襲う魔獣の群れが見えた。


 ぎりりと下唇を噛み、宙船の元に走ると、数名の部下とともに何匹もの魔獣を屠った。


 しかし、一匹の魔獣が襲ってきた時のことだ。反射的に上げようとした左腕は、ぶらさがっているだけで動かなかった。攻撃を防げず、転倒したところへ、小型の魔竜が炎を吐いた。まさに焼けつくような痛みが全身を駆け巡った。左肩の傷口が焼け焦げ、赤く変色していた。肉の焦げる嫌な匂いと音が、からだの内側から伝わってくる。


 数名の部下が小型の魔竜と対峙し、火傷を負って伸くフォレットを宙船に押しこんだ。フォレットは声を出せず、身体も言うことを聞かなかった。


「今だ! やってくれ!」


 警備兵の一人が叫んだ。フォレットは、「頼む」と弱々しく声をひねり出した。口中で、「死ぬな」と続ける。荒い息を継ぎ、宙船の震動に傷口を揺さぶられながら、それだけをつぶやき、祈った。



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