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第29話 フォレット


 第二都市の中心部には、帝都にも劣らぬ巨大なドームがそびえ、その周りには粗末だが賑やかな街が広がっている。同盟との戦いが続いていても、表向きは平穏な日常が維持されていた。


 賑やかな街中を、シューとビドゲルが歩いていた。考え事をしながら歩いているシューとぶつかって何人かが文句を言いかけたが、その度に、きつく睨まれて退散した。その様子を見たビドゲルが声をかける。


「どうかしたのですか」


「あん? どうしたって、アリのことに決まってるだろう。やっと見つけたっていうのに」


「自分から戻っていきましたね」


「脅されてるような感じもなかったし、どうしたもんかな」


「どうもこうもありませんよ。会って、よく話を聞くことです」


「そりゃそうか。しかし、くせぇな」


「獣脂製の蝋燭を燃やしているにおいですね。安物はこんな匂いがします」


「いや、それだけじゃねぇな。街全体が……」


 走りこんできた人影に突き飛ばされ、ビドゲルがよろめいた。はは、大丈夫かよと笑っていたシューも、兵士に突き飛ばされて手をつく。


「なんだ? 兵隊がガキを追いかけてるのか?」


 その後ろ姿を眺めるシューに向かって、


「申し訳ありません。美しいお嬢さん」


と、鳥肌が立つような台詞を吐いたのは、軽武装の兵士、いや、将校だろうか。穏やかな顔つきの青年が立っていた。ぺこりと頭を下げる。


「お二人とも、申し訳ありませんでした。僕は、この街の警備隊長をしているフォレットと言います。先ほどは部下が失礼を」


「今のは、何だったのです?」


「避難民の子供ですよ。盗みでね。最近よくあるんです。おや、あなたは不死者イモータルのビドゲル殿じゃありませんか?」


「そうですが、なぜ知っているのです?」


「なぜもなにも、伝説の不死者じゃありませんか。こんなところでお会いできるとは。ここ第二都市に何か用事でもおありですか?」


「人を探しているんだ」


 応えたのは、シューだった。


「アリという詠唱士の娘を探している。竜人ランバートとともにいるはずだ。第二都市の警備隊長なら、何か聞いたことがないか」


「思い当たるところが無いわけではありませんが、路上で話すようなことでもないですし。まだ職務中ですので、夜に改めて」


 もう一度会うことを約束してフォレットと別れた後、二人は改めて街の様子を見て回った。注意して見てみると、賑わいに紛れて、襤褸を着た人々があちこち目立たない場所にたむろし、路地裏の痩せこけた子供たちが目だけをぎらつかせて、表通りに鋭い視線をぶつけていた。


 日が落ち、市に並ぶ店がたたまれ、街が暗く彩られ始めたころ。一軒の酒場で、シューとビドゲルは、フォレットの話を聞いた。



「改めまして、警備隊長のフォレットです。お尋ねの件について話す前に、街の状況からお話しましょうか。まんざら関係のない話でもないですし。

 僕ら警備隊は、地下通路や砂漠から迷い込んでくる魔獣を狩るのが仕事です。公務での害虫駆除みたいなものですね。ところが、このところ魔獣より人間を相手にすることが多くなりました。

 この街は、各都市から逃げてきた避難民でいっぱいです。口が増え、諸都市の品も入らなくなったために食糧の値が上がりはじめてまして。僕らは貧しい彼らの起こす犯罪に付き合わされているわけです。

 各都市の状況ですか? あまり芳しくない状況ですね。同盟は究極魔法アルティメットを乱発し、いつもの都市が壊滅に追いやられている。

 その詠唱をしているのは、まだ幼い女の子らしく、お探しの方ではないでしょう。ただ、帝国側も同盟に対抗するべく、竜人ランバートと詠唱士の少女を迎え入れたと聞いています」


「なるほどな。同盟側じゃなくて良かったというところか。それとも実験動物に逆戻りか。何とも言いがたいが、アリは帝都にいる可能性が高いな」


 唇を噛むシューに、ビドゲルが問う。


「さて、ではどうしますか」


「決まってる。とにかく帝都に行くのさ」


「その後は?」


「知らん。とにかく行くんだ」


 ぐっと杯を空けて、シューがテーブルに倒れこんだ。ビドゲルは、やれやれと溜息をつくとフォレットに向かって言う。


「私どもの方針は決まりました。方針と言えるような代物ではありませんが、いつもこんな感じですしね。とにかく、行くだけ行ってみます」


「その自由さ、うらやましいです」


「なかなか辛い状況のようですね」


「ええ、窃盗や強盗はもちろん、一片の食料のために身を売る女性もあれば、人殺しを犯す者もいる。いつ暴動が起こってもおかしくない状況です」


 皿に目を落として、かちゃかちゃと音を立てた。


「僕らにできるのは、望んでするのではない犯罪を取り締まることだけです。自分たちはしっかり食事をとってね。痩せ衰えた彼らを捕まえることなんて馬鹿でもできる。それでどうするのかといえば、ちょいと鞭打ってすぐ釈放です。食わせてやれませんからね。

 殺人なんかの場合は、ろくに調べもせず、その日のうちに処刑とくる。この間なんか、強盗殺人の罪に問われて、よぼよぼのお爺さんが処刑されてましたよ。

 捕まえる職権はあっても裁く職権はありませんから、もうなんとも。ああ、すみません、会ったばかりの方に愚痴をこぼしてしまいました」


「この都市が標的になる可能性は?」


「もちろんあります。帝都の前に、ここでしょうね。中の連中は、ああでもない、こうでもないと議論しているようですが、地理的にも戦略的にも、次はここでしょう。あなた方も早く出発した方がいい」


「同盟側が攻めてきたらどうするのです?」


「さてはて、どうしましょうか」


 苦笑いしながら、フォレットは細い目をさらに細めた。いの一番に逃げ出すんじゃないですかい? と、酒を運んできた店主が言う。


「今日は、何人捕まえたんです?」


「親父さん、好きで捕まえてんじゃないんですよ」


 苦笑まじりに応える姿に酒場中の視線が集まるが、それは決して好意のそれではなかった。不意に投げつけられたグラスが、フォレットの頭に当たり、ぱりんと砕け散った。


「大丈夫か!」


 グラスの当たった箇所を調べる。そう酷くはないが、少し血が滲んでいた。ビドゲルは、テーブルに足を投げだして下卑た笑いをあげている男に向かってつかつかと歩きだした。拳をひいて力を溜めたとき、鋭い声がとんだ。


「ビドゲルさん! 大丈夫、大丈夫です。たいしたことはありませんから……」


「しかし……」


「お願いします」


 との言葉に、ビドゲルは拳を握りしめたまま席へ戻った。グラスを投げつけた男の一団から、どっと歓声があがった。


「本当に、大丈夫か?」


「だいじょうぶ。たいしたことはない。僕は、そうされても仕方ないのだから」


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