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第28話 発動


 ジルは、アリと同じ研究施設からの逃亡者だった。違うのは姉妹で逃亡したことと、他の仲間とともに姉も帝国兵に殺されたこと。


 次々と仲間が死に、姉も死んだ。いまでもみんなの死に様を覚えている。毎夜、毎夜、ジルの夢の中で、繰り返し、繰り返し死んでいくのだった。仇を、仇を、仇をと帝国への復讐を求めるかのように。飛び交う銃弾の中、血まみれの手で私の手を掴んだ姉ちゃんは何か言った。でも、聞き取ることはできなかった。


 なんて言っていたのだろう。


 悪夢の中のように、仇を取ってと言っていたのだろうか。いつもの優しい姉ちゃんと違う恐い顔で。薄暗い地下通路で表情がわかったとは思えないし、私の想像でしかなかったのかもしれない。


 帝国への復讐心が薄れることが姉ちゃんを忘れることのような気がして恐い。悪夢を見なくなったことだけじゃない。キュムの能天気さや、クナの優しさが私の気持ちを鎮めている。


 私がやっていることは、本当に姉ちゃんが望んだことなのかな。究極魔法アルティメットを発動させて、第二都市を滅ぼし、帝都を滅ぼし、それで、それで、私は何を得るのだろう。


「ジル、もうすぐ着くぞ。準備を」


 ガムスに声をかけられて思考を中断すると、不機嫌さを装って応じる。


「わかってるわよ」


「何を考えていたのかね?」


「別に何も」


「帝国兵に追われていた君を助けたのは誰だ?」


「あんただよ」


「君の姉を殺させたのは、帝都に居座る皇帝だ。それを忘れないように」


「忘れるもんか」


 そうだ、忘れるわけがない。夢の内容がどうあれ、姉が帝国に殺されたことは間違いないんだ。いくつもの都市を滅ぼしてきた。いまさら何を迷う。


 ジルは、第二都市を遠く視界に入れて、詠唱の準備を始めた。究極魔法の式名は、終末のパレード。この世界に巣食う数多の魔獣を砂漠から召還する。列をなして進み、標的を滅ぼすと、それらはすべて砂に還るのだ。もう何度も唱えてきた。


 召還の術式と操作の術式を組み合わせ、二重詠唱を繰り返し行う。

 

 暗き世界の物どもよ

  怨嗟の戒めを受けよ

 目覚めの時は来た

  歓喜の戒めを受けよ

 疾く目覚め、疾く進め

  汝らの脚は鎖に

 道は示された

  汝らの腕は錠に

 腕は腕に、脚は脚に、胴は胴に、あるべき姿にあれ

  汝らの胴は鉄に

 此岸に渉り帰れ、その力を惜しみなく曝せ

  恙無く戒めを受けよ

 ああ、振り向くことなかれ

  我が詞の呪いを

 ああ、帰り来たれ、帰り来たれ、帰り来たれ

  我が詞の祝いを

 汝らの敵は何処、汝らの敵は何処

  我が詞の縛りを受けよ

 道を阻むものは、すべて敵なり、滅せよ、滅せよ、滅せよ


 砂漠から魔獣たちが姿を見せる。後から後から砂の膜を破るように湧き出てくる。獣じみた姿のものから、爬虫類のような生き物、硬い外殻に覆われたものまで、ジルの前方、砂の底から身体を持ち上げるようにして、列をなして第二都市へと向かっていく。


 煌びやかに光を発して、魔獣のパレードが始まった。街を逃げ出す避難民には目もくれず、守備兵を蹴散らし、ドームを破壊する。ずっとそうだった。今回も難なくドームを破壊し、第二都市は消えて無くなるだろう。そして役目を終えた魔獣たちは、光を失って砂へと還るはずだった。


 しかし、今回は違った。ジルは、自分の目が信じられず、何が起こっているのか分からなかった。



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