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第23話 捜索


 第二都市へやってきたネスティたちだったが、警備隊長のフォレットから立ち入り検査があると言われ、戸惑っていると、そこへ帝国兵がなだれ込んできた。指揮官と思われる男が叫ぶ。


「フォレット君、早くしてくれないと困る。忙しいんだよ、私は」


「というわけなんですよ」


 淡々と応じるフォレットと顔を見合わせると、ネスティは、不満を隠さず、指揮官に問いかけた。


「ふーん。で、あんた誰よ?」


「あんた誰? ときましたか。物を知らないというのは、それだけで罪です。私こそ、帝国きっての哲人、ハインシュトルムですよ?」


 知らない、知らん、知らないかも、知りませんわ、知らないね、知らんのう、と冷たい反応を受けて、額に青筋を立てながら言葉を続ける。


「ふ、ふふん。では、今日、覚えて帰りなさい。このハインシュトルム、心が広いので、今回は許してあげましょう。と、に、か、く、この宙船は、違法発掘を行った疑いがある! 後ろ暗いところがないなら、立ち入り検査に素直に従うことです」


「違法~? いつの時代の話よ。みんな好き勝手にやってるじゃん。あんたらが引き籠ってるからさ」


「ふん、我々は違う! 帝国兵の中でも、外へ出る覚悟と能力と忠誠を持ったエリート部隊なのだ」


「外回りさせられてんのね。可愛そう」


「きーさーまー!」


「悪いけど、干された部隊の暇つぶしに付き合うつもりはないの。うちには優秀な詠唱士が何人もいるしね。この意味わかるわよね?」


「脅しのつもりかね、このエリート部隊に。逆らうなら、この宙船自体を接収してもいいのだぞ。それもただで、それもただで」


「繰り返すんじゃないわよ。こっちに金がないことを知っての嫌がらせかしら。まさに横暴だわ」


 そうだそうだ、横暴だ~と、クナとキュムも声を合わせる。うるさい小娘どもだと思いながら、ハインシュトルムは部下に目配せした。強制的にでも宙船の中を捜索するつもりだった。東から来る宙船のどれかに、究極魔法アルティメットに係る魔法書があるはずなのだから。と、その時、退屈そうにしているキュムの姿が目に入った。


「ところで、フォレット君。街に入り込んだ魔人や獣人は、どうなるのだったかな」


「裁判なしで縛り首ですね」


 もう、そんなことはしてませんけどと続けようとしたフォレットを遮り、


「縛り首、獣人は縛り首」


と繰り返す。その度に、キュムの表情が目に見えて変わり、身体いっぱいビクッとしてみせる。


「あれ、もしかして?」


「ち、違います。獣人なんかじゃありません」


 汗をダラダラ流しながら、あさっての方を向いて答えるキュムであった。ふっと息を吐いて、ハインシュトルムが優しく言う。


「いや、別に疑ってませんよ」


「そうですか。良かったですの」


「誤魔化せて良かったですね」


「あ、はい。誤魔化せて良かった」


 ふぅと息をついて汗を拭う。が、やらかしたことに気付いたのか、はにゃ? と間抜けな声を上げた。


「キュムって獣人だったのね」


 と呆れたようなネスティの声。


「ま、別にいいけどね。宙船に乗るような連中は、わけありの奴ばっかりだし」


「あなたが良くても、運用が違っても、私には獣人を縛り首にする権限があります。ということはどういうことか。この意味わかりますか?」


「はいはい、うちの乗員には代えられないわ。何が目的なのか知らないけど、ご自由にどうぞ」


「物分かりのいい娘は好きですよ。このハインシュトルムとお付き合いしてみますか」


「やなこった。さっさと調べて出てってよ」


 探しているのは、もちろん、クナが鍋敷に使っている魔法書だった。もし、魔法書を探していると素直に告げていれば、クナやキュムの馬鹿正直な表情で、この船にあると確信を持てたかもしれない。

 しかし、目的を伏せて活動しているため、本棚にも金庫にもなく、鍋敷にされている魔法書に誰ひとり気付くことなく、捜索は終わった。ハインシュトルムは、心底、嫌そうな顔で言った。


「真に残念ながら、何も問題はありません」


「じゃ、そういうことで。さいなら~」


 ひらひらと手を振るネスティだった。


「ふん、このハインシュトルムの温情に感謝するんですね。獣人の件は不問にしてあげましょう。それで良いですね。フォレット君」


「あ、はい、僕は何でも」


 と応じるフォレットは、クナが淹れた珈琲を飲みながらくつろいでいた。


「珈琲とは珍しいですよね。帝都でも、そうは飲めないと聞きますよ。ハインシュトルム様も、一杯いただいて行かれては?」


「ドームの外で安易に飲食など。第二都市の警備隊長がそんな意識では困りますな」


「ああ、最後の審判がどうのって話ですか。穢れた外の世界の物を食べてはならないとか。今時、子供でも信じてませんよ。ただ、食べる習慣がないだけじゃないですか」


「そうかね。まあ勝手にしたまえ」


 と鼻を鳴らし、ハインシュトルムは、珈琲ポットの下敷きにされていた魔法書に気付かないまま船を降りていった……。


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