第22話 立入検査
宙船が砂漠を疾走している。エンジンの力も借りて詠唱術で操っているのだ。心地よい風を受けながら、キュムが楽しそうに歌っていた。
盗ってくるように言われた魔法書についてはまだ所在もわからないが、特に気にしていなかった。獣人は、中でもキュムは細かいことを気にしない質なのだ。今が楽しいことが何よりも大切だった。
宙船を思うまま疾走させるのは想像以上に楽しく、このまま一昼夜でも歌っていられそうだった。と、するするとネスティが見張り台へ登ってきた。
「すごいわね。熟練の詠唱士なみじゃない。本当に私の出番がないわ。前の宙船も大事にしてたんでしょうね。あたしのせいで、ごめんね」
キュムは歌い続けながら、にっこりと笑って見せた。心の中で言う。
いーえ、気にしないで。わざとなので。
そう、ネスティたちの船に乗り込むために、わざと宙船を故障させたのだ。魔法書を盗んでくるだけなら手間もないが、使い方や、クナとの関係も調べてくるように言われていた。
面倒くさいと思いながらも、外へ出ることが好きなキュムは喜んで引き受けた。獣人であることを隠して、人にまぎれて旅をするのは楽しかった。ネスティの船に乗り込む前に、詠唱士を探していたチョビーやサカエと出会い、雇ってもらったのだ。
女王様は長生きで時間があるんだから急ぐこともない、今は船旅を楽しもうと考えていた。目的地の第二都市が近いことを聞き、キュムは船足を落としながら、楽しげに歌い続けた。
帝都に次ぐ大都市、第二都市には正式名称もあるが、誰も呼ぼうとしない。かつては、点在する都市は帝都の管理下にあった。都市同士が広い道や様々な連絡ツールで繋がっていた頃、国という大きな形でまとまりを見せていた。いまは小さな都市が砂漠の中に点在し、それぞれ独立して機能を維持している。
都市と都市の間の交易や連絡は宙船を介して行われ、中でも、第二都市は多くの船が行きかい、自由に出入りする商業都市となっている。ネスティが引き揚げ品の売却先として第二都市を選んだのも、その商業的な自由さからだった。ところが、
「立ち入り検査?」
と、ネスティは自分の耳を疑った。
第二都市へ出入りする際、手続き上の検疫は受けるが、商業上の自由さを尊重する都市で、これまで立ち入り検査など受けたことがなかった。顔見知りの警備隊長、フォレットが気の毒そうに言う。
「すみません。ネスティさんとは旧いなじみだし、必要ないと言ったんですが」
「ん? あんたの隊がやるんじゃないの?」
それがですね、と言いかけたフォレットを遮るように、声を荒げながら帝国兵がなだれ込んできた。




