第21話 発掘
砂漠の只中に白い点がある。それは大きな宙船だったが、広大な砂漠の中ではあまりにちっぽけだった。
そのちっぽけな宙船の中の一室。乱雑に散らばった書類や本と対照的に、宙船の中枢を成す装置が整然と並び、ネスティが無線に向かっていた。
「こちらネスティ。コール、サカエ。あと5分して見つからないようなら上がってきて。カザに代わってもらうから」
〈わかったよ〉
「近くに底へ向かう流れがあるかも。巻き込まれたら上がって来られないわ」
〈気を付けはするけどね〉
ネスティは無線を切り、窓の外を見やった。どこまでも砂漠が広がっている。軽く伸びをして、床に散らばった物に躓きながら出口に向かった。勢いよくドアを開けると、衝撃があり、呻き声が続いた。そっと覗き込むと、カザが鼻を押さえていた。
「やっぱりおまえか。狭いんだから気を付けろっていつも言ってるだろうが」
「ごめんごめん、いやー、ほんとにね。狭いから。あははは」
「狭いせいだけじゃないぞ、おまえの場合」
「まあいいじゃない。そろそろ用意しといて」
わかった、わかったと言いながら、カザは船底へと降りていった。やがて白い防護服を着けて、もぞもぞと這い出てきた。いかにも鈍そうな外見とは裏腹に、意外と器用に砂の上を歩く。
カザは入り口を探していた。いわゆる流砂のようなポイントのことである。立ち止まり、足先からゆっくりと沈み込んでいく。潜ると言うよりは飲み込まれていくような作業だった。身じろぎもせず、上半身だけが砂の上に突き出た格好は、異様な、それでいてどこか滑稽なものがあった。やがて、その体はすべて沈み込み、後には小さな窪みを残すだけになった。
船室では、ネスティが無線に向かい、その後ろで、チョビーが所在なげに立っていた。
「ほんとに大丈夫なんじゃろうな。これで失敗したら、わしも一文無しに……」
「ちょっと、後ろでぶつぶつ言わないでよ。邪魔するぐらいなら、キュムと一緒に昼寝でもしてなさいよ」
「いや、すまんかったな。じゃが、あんまり見つからんから心配になってきてな」
「きっと見つかるわ。ここにあるのは間違いないもの。あとは具体的なポイントだけね」
〈聞こえるか、ネスティ〉
ちょうどその時、無線から声が入った。
「ええ、聞こえてるわ。なに?」
〈入り口はずいぶん底の方にある。そこでだ〉
「しゃれのつもりじゃないでしょうね」
〈ばか言え、そんな余裕はない。とにかく、底へ向かう流れに入ってみるつもりだ〉
「浮かんで来られるつもり?」
〈まあな〉
「なにがまあなよ。そんな無茶は許さないわよ」
〈大丈夫だ。近くに上向きの流れも見つけた〉
「危険だわ。一度上がった方がいい」
〈ところが、もう遅いんだなこれが。すでに流れに巻き込まれているんだ。わざとじゃないぜ〉
「どうだか。確認するわよ。底へ向かう流れに乗って最深部まで進む。入り口だけを探り、見つかっても見つからなくても、無事に浮上することを優先して考える。いい? 絶対に無茶はしないでよ」
〈アイアイサー〉
「ばかよね、あんたは」
〈無線もここまでみたいだな。切るぞ〉
「気を付けてね」
〈ああ〉
つながりの切れる音がして、ネスティは軽くため息をついた。黙っていたチョビーが話し掛ける。
「大丈夫さな、きっと何か確信があったんじゃろうて。ただ……」
「ただ、なによ?」
「入り口を見つけっちまったら、サカエの奴が悔しがるかと思ってな」
あっ、そう、とあきれたように応え、ネスティは、ばたんと椅子に身体を預けた。
翌日、カザの見つけたポイントを通して引き揚げ作業が行われた。船に収められた引き揚げ物をチョビーが手に取り、ネスティに声をかける。
「なかなか良いものが揃っとるのう。ここにあったのは、オフィスビルじゃったのか?」
「知らないわ。何かが埋まってて、このあたりが遺跡の中心部ってことぐらいね。しっかし、あの2人元気よねぇー」
窓の向こうでは白い防護服を身に付けたサカエとカザが引き揚げ作業を続けていた。傾きかけた太陽が、一面の砂を赤く染め始めている。




