第20話 宙船
ネスティらの宙船が街に辿りついたのは、もう日が高く上りきったころだった。前方のゲートでは、小さめの宙船が手続きを行っている。簡易な手続きで、すぐに街へ入れるはずなのだが、なかなか前へ進んでいかない。
クナとカザに後を任せて、ネスティが様子を見に外へ出ると、前方の宙船が動く様子はなく、どうやら故障しているようだった。
「くそっ、このぽんこつが!」
船の機械をいじっていた小柄な老人が声をあげ、その後ろから、大柄な女性が茶々を入れている。
「まだ直んないのかい。早くしなよ」
「うるさい、気が散るから黙っとってくれ」
といったやりとりの合間に、もう一人、小柄な少女があれこれ口を出しているのだった。
「そのコードじゃないかしら。違いますわ。それじゃなくて、こっちの奴じゃないですの?」
「頼むから静かにしとくれ」
「おじいさん、私に見させてくれない?」
「だーかーら、静かにしてくれんか」
「今のは、あたしらじゃないよ」
「じゃあ誰だというんじゃ」
と、老人が振り向き、ネスティに向かって言う。
「なんじゃ、お嬢ちゃん。なんの用か知らんが、わしゃ忙しいんじゃ」
「わかってるわ。でも、きっと役に立てると思うの」
「なんじゃ、いじりたいのか。じゃあ、やってみるんじゃな。すぐに無理だとわかるじゃろう」
ほれ、と工具類を渡して場所をあける。ネスティが嬉しそうに機械をいじり始めた。
「良い腕じゃな。だが、その程度では……」
「できたっ!」
「嘘じゃろう? このわしにさえ難しいのに」
「でも、できちゃったよ」
「ほんとにか」
「ほんとほんと、後はこの線をつなげれば……。あれ、なんか変な音が」
ぷすぷすという音とともにエンジンが始動し、無人の宙船はゆっくりゲートに突入していった。炎を吹き上げて爆散する。
「なはは、はは、お、おかしいな」
大音響と飛び散る破片の中で、ネスティの虚ろな笑い声だけが響いていた。結局、その日は事故のため街に入ることが出来ず、後から来た船も巻き込んで、街の外で一夜を明かすことになった。人が倍に増え、夕食は賑やかなものだったという。
「チョビー、あなた少しは控えなさいよ。もう年なんだからさ」
新しく船の一員になった3人は、驚くほどよく食べた。大柄な女性はともかく、老人と少女がよく食べるのには驚かされた。ネスティの忠告に、チョビーと呼ばれた老人は、食べ物を口いっぱいに頬張りながら、そんなこと言ってもな、食えるものはな、食えるうちにな、と返事をする。
少女もまた、そうですわ、美味しいものは美味しいうちになどと応じるし、大柄な女性は黙々と底無しに食い続けていた。自分の蒔いた種とはいえ、今後の食費を考えて身を震わしたものである。食後、立ち上がったネスティが、みんなをテーブルに集めた。
「我が宙船に、新たに3名の船員が加わりました。これも何かの縁であります」
お前が船を炎上させたからな、というカザの突っ込みを無視して話を続ける。
「これから共に旅をする仲間として、船長の私から、船員を紹介させていただきましょう」
いつ船長になったんだとの声に対して、黙りなさい、発言は手を上げてと注意する。
「私が船長のネスティ。航海士、兼整備士、兼発掘士、兼詠唱士、兼船長です」
こちらは、と長い髪の女性を示して言う。
「詠唱士、兼調理士、兼副船長のクナ」
あっちのは、と突っ込み役のカザを示して、
「ただの船員です」
「扱い悪いな。俺は発掘から家事から雑用まで何でもやってる。うちには肩書きだけで何もできない奴が一人いるんでな。人様の宙船を炎上させるとか、整備士が聞いてあきれるわ」
「お黙りなさい。おかげで新たな労働力、もとい得がたい3人の船員と知り合えたんでしょうが。いい? こちらの丸っこくて愛らしい御老人、チョビーは航海士兼整備士さん。あちらの背の高いがっしりした力強い女性、サカエは発掘士さん。この小柄で笑顔の素敵な少女、キュムは詠唱士さん。いずれも当船になくてはならない技術の持主ですよ!」
「お前のすることが無くなるじゃねぇか。まあ、3人でやるのに無理があるのは認めるがな」
「そういうこと。何事も前向きに、ね?」
「やらかした本人が言うことじゃないな」
んぐ、と詰まりながらも前を向いて言う。
「さてさて、当船の総合力が大幅に向上したところで、皆様にお知らせです」
こほん、と咳払いひとつ。
「実は、当船にはお金がほとんど残っていません。先ほど不幸な事故のために破壊されたゲートの修復費を払ったら、残りはこれだけになってしまいました」
コインが触れ合う音だけが静かに響く。
「我々は働かねばなりません。そう! 労働こそ真実、人間にとって欠くべからざるものなのです!」
「要するにあれね、潜りゃあいいって事だろう?」
「そう! サカエさん、正解!」
「サカエでいいさ。そんなことより、もう寝たいんだが、どこで寝ればいい?」
背丈が倍もあろうかという女性を案内して、ネスティが部屋を出て行き、後に残された面々は、やれやれと間抜けな笑みを交わしあうのだった。




