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第18話 カザ


 第2部スタートです。時間軸としては、第1部の最後から遡ること数年前となります。


 音を立てて蓋が開けられた。眩しい光と女性らしい人影が二つ、カプセルを覗き込みながらの会話だ。


「え、何これ。お宝じゃないじゃん」


「そういう問題じゃないわ。生きてるみたいよ」


「うそ、どういうこと?」


「衰弱してる。治癒の詠唱を」


「助ける? 助けちゃう?」


「もちろんよ」


「蓋を閉めて戻しちゃうのも有りかもよ」


「ネスティ! 馬鹿なこと言わないで」


「冗談、冗談、本気にしないでよ。クナってば、堅いんだから」


「もう、邪魔しないで!」


「はいはい」


 カザが目覚めた時の記憶は、ネスティとクナの会話から始まる。混乱する頭で状況を思い出す。


 特に変わったこともない週末の夜だった。


 平日よりは少し豪華な弁当を買って家に帰った。気楽な都心での1人暮らし。金もなく、彼女もなく、友人もいない。軍隊に入った独身男の生活は味気ないものだった。訓練には充実感があったが、世の中は平和で実戦の機会もない。


 がらんとした部屋の侘しい雰囲気に耐えられず、端末のニュースを流しっぱなしにする。新しくできたテーマパークの話題らしい。週末のパレードが人気で、常に満員だという。科学技術の粋を集めた会場では、魔法を体験することができるとか。

 責任者らしき男性が得意げに説明を続ける。いわく、科学で魔法を再現できないか、その挑戦から生まれたテーマパークだと。ナノマシンだとか、音声認識パターンだとか、よく分からない話を垂れ流す男性の声にげんなりしてニュースを切ろうとした時、生々しい悲鳴が聞こえてきた。

 音声は途切れがちになり、エラーを示して中断された。代わりに、訓練でしか聞いたことのない緊急呼び出しのアラームが鳴り響き始めた。


 緊急出動させられ、化物と戦争になったのだ。


 後のことは、よく覚えていない。戦うというよりも、生き延びることに必死だった。人や動植物が崩れ落ちて砂となり、その砂から化物どもが這い出てくる。倒しても倒しても切りがなく、弾薬と燃料が切れた戦闘艇から緊急脱出ポットで逃れたところを、ポットごと砂に飲み込まれたのだ。

 理論上は何年でも耐えられる生命維持装置が付いていたため、死を覚悟した上で冷凍睡眠に入った。そして、目が覚めたのが……。



 ここだったというわけだ、とベッドの周りで自分を囲む女性に説明した。ネスティ、クナと名乗った二人は、どちらもぽかんとした表情で、よく理解できていないようだった。


「まあいい。ところで、いまは何年の何月だ? 俺は、どれくらい眠っていた?」


「何年って?」


「西暦だよ」


「西暦?」


 よく呑み込めない様子で顔を見合わせている。カザは、西暦を知ることをあきらめて外の様子を見ようと立ち上がった。そのつもりだったが、立てずにベッド脇に崩れ落ちた。そのとき初めて、自分の足が細い棒切れのようになっていることに気付いた。


「動かないで」


 クナが言い、何やら唱えながらカザの足を擦った。その足が穏やかな光を発し、みるみるうちに艶を取り戻していく。いったい何をしている? と、詰問するように声を荒げたカザに、ネスティが応えた。


「何って、治癒の詠唱術だけど? 便利だから、どの詠唱士も修得してるわよ」


 当然のように言われ、今度は、カザがぽかんとする番だった。その表情を見て、ネスティが笑う。


「あなた、変な奴だけど面白いわね。今回の収穫はあなただけね。発掘士には、掘り出した物はすべて自分の物という暗黙のルールがあるのよ。だから、今日からあなたは私の物です。わかった?

 えー? じゃない。返事は、はい! 言うことを聞かないと砂漠へ放り出すわよ。ん、よろしい。私の労働力、もとい船員として、しっかり働きなさい」


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