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第17話 ローブ


 ランバートが部屋へ篭って数日が経っていた。


 部屋の外から声をかけ、アリは街へ行く許可を求めた。返答はなかったが、指輪が光り、許可されたことが分かった。すぐに戻ってきますと言い残して街へ向かう。数多の物が集まる第二都市へ。


 ランバートに連れられて何度か来たことはあったが、一人で来るのは初めてだった。街を歩いていると、シューやビドゲルと暮らしていた頃のことを思い出す。今の自分なら婚姻の魔道式を解除して二人を探せるかもしれない。でも、と首を振って未練を断ち切ると、食料品や雑貨を買い、服飾店へ入った。


 地味なローブしか着たことがなく、勝手が分からないまま店員に服を見立ててもらった。男装で来たアリに不審な目を向けていたが、初心な少女だということが分かると、複数の店員が寄ってたかって、とっかえひっかえ、着せ替え人形のような扱いになった。困惑しながらも、初めて着る女性らしい服は嬉しかった。


 魔道式の指輪に合わせて、銀のチョーカーと黒いリボン、黒白ツートンのローブを買った。古い物は処分してもらい、買ったローブを着て店を後にする。素敵な服を着て街を歩くのは照れくさくもあり、楽しくもあった。


 これまでは、街へ来ても、フードを被り、下を向いて歩いていたが、自分がなすべきことに覚悟を決めてみると、フードを被る気にもならず、堂々と街中を歩くことができた。街の雰囲気を味わって、そろそろ屋敷へ戻ろうと思った頃、声がかかった。


 最大の交易都市、第二都市には多くの人々が集まる。アリが街を訪れたその日、シューとビドゲルもその街を訪れていた。そして、人ごみの中のアリに気付いたのだった。正確には、シューだけが気付いた。


 別れてから何年もたって、成長し、服装も変わったアリに、ビドゲルは全く気付いていなかったという。シューが声を上げながら後を追った。


「アリ! アリじゃないか!」


 懐かしい声で名前を呼ばれて一瞬戸惑ったが、すでに帰還の術式を詠唱中だった。途中で止めたら戻れなくなるような気がして、アリは詠唱を続けた。転移するまでの少しの間に、笑顔を作って言う。


「シュー、それにビドゲルも、探してくれてありがとう。でも、私は自分の意志であの人のもとへ戻ります。ランバートには私が必要なのです。私は、ちゃんと幸せです」


 驚いたようなシューの姿が薄れ、アリは屋敷の一角へと戻った。逃げるように街を後にしたことを少し後悔しながら、屋敷の奥へ向かう。


「先生、戻りました」


 声をかけても返事はない。扉には鍵がかかったままで、出てくる気配はなかった。アリは、ふぅと息を吐いて精霊式を唱え始めた。


 打ち震える力よ

 迷い進めぬ力よ

 汝を押さえつける重石は砕かれた

 汝を縛りゆわえる鉄鎖は砕かれた

 思うままに奔り、唸り、破壊せよ

 汝を押さえるものはない

 蹂躙せよ、蹂躙せよ、蹂躙せよ


 詠唱がおわると、暴風のような力の塊が湧き起こり、扉を壁ごと打ち砕いた。


 テーブルに伏していたランバートは床に転げ落ちると、酔っ払ったままの頭で誰かが襲ってきたのかと思い、ふとアリの身を思った。街へ行って、帰って来るはずのない弟子のことを。


 しかし、アリはそこに立っていた。思ってもみないような格好で。先生、と可愛らしいローブを着た少女が、壊れた扉の向こうで言う。

 

「帝都へ連れて行ってください。二重詠唱を修得した私は取引の材料になり得ます。先生と一緒なら、対等の取引ができるはず。詠唱士として協力する見返りに、帝都に保管されている魔法書や詠唱術を求めることができるでしょう。あるいは、先生の望みを叶えるものがあるかもしれません」


 そこまで言い終え、悲しそうに心で付け加えた。


 まさかと思いましたけど、過去の亡霊にとらわれて、弟子の性別も見えていなかったのですね。もっといまを、私を、見てください。



 これにて第1部終了です。

 しばらくランバートやアリは出てきませんが、いずれ出番があるはずです。

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