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第14話 魔竜


 巨大な魔獣の死体が落ちてきた。遥か高みに魔竜の姿があり、ランバートは忌々しげにつぶやく。


「呼び寄せてしまったか。術のゆらぎに興味を持って、ここまで来たのだろう。途中で見かけたバーギーを遊びで狩った、そんなところか」


「どうでしょう。何か品定めをしているような、そんな感じがします」


「大丈夫だ。あれだけ高所にいれば、我々など小さな点でしかない」


 と話している最中に、


 ゴウ!


と暴風が吹いた。次の瞬間、ランバートとアリは風圧で高く持ち上げられた後、勢いよく地面に叩きつけられていた。旅に出る前に入念に組み上げた防護式が塵のように消え失せていた。魔竜が軽く一薙ぎした、ただ、それだけで。


 防護式がなければ確実に死んでいた。上空へ戻った魔竜は、竜人の目でも捉えがたい速さで下降を始めていた。その狙いはアリだ。防護式を、いや帰還の術で。ダメだ、とても間に合わない。そう考えながら、庇うようにして抱き寄せた。体が風圧で持ち上がり、地面に叩きつけられる。


 まともに衝撃を受け、ランバートは、自分の左腕がなくなっていること、残った手足も自由に動かない状態であることを知った。痛みも何もなく、麻痺したような感覚だった。ヒュー、ヒューと息を漏らしながら、抱えたアリを見る。少しだけ防護式が残っていたことと、庇ったことで、大きな怪我はないようだった。


 そこへ、再び暴風が襲った。軽く撫でるようで、明らかに遊びの一撃だったが、二人とも吹き飛ばされ、ばらばらに地面に落ちた。よろよろと立ち上がったアリが、こちらへ向かおうとしている。ランバートは片腕で何とか身を起こし、声を張り上げた。


「俺から離れることを許可する。帰還の術で、屋敷へ戻れ。後から行く」


 アリが立ち止まって歌い始めた。


 そうだ、それでいい。歌声に包まれながら、意識が遠のいていくのを感じていた。



 一方、アリが詠唱していたのは帰還の術ではなかった。また、ひとつではなく、同時に二つの術の詠唱を行っていた。これまで成功したことはなかったが、自分とランバートが生き延びるためにはこれしかない。それも魔竜の気まぐれで与えられる、わずかな猶予の中で成さねばならない。


 身の守りよ

  打ち震える力よ

 襤褸を纏いし者どもよ

  迷い進めぬ力よ

 この世の寒冷より我を守るのだ

  汝を押さえつける重石は砕かれた

 この世の炎熱より我を守るのだ

  汝を縛りゆわえる鉄鎖は砕かれた

 おお、気高き鋼鉄の盾よ

  思うままに奔り、唸り、破壊せよ

 おお、気高き鋼鉄の兜よ

  汝を押さえるものはない

 おお、気高き鋼鉄の鎧よ

  蹂躙せよ、蹂躙せよ、蹂躙せよ


 上空から魔竜が迫るのと、アリの詠唱が終わるのと、ほぼ同時だった。激しい力の奔流を感じて、魔竜は本能的に上空へと舞い戻った。


 アリは、完成させた衝撃の精霊式を少し離れた斜面へ向けて放った。同時に、アリとランバートの体を新たな防護式が覆う。轟音が響き、巨大な雪崩が巻き起こった。辺り一面が雪に覆われ、静けさが戻ると、そこに2人の姿はなく、上空の魔竜は、つまらなそうに何処かへ飛び去っていった。


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