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第13話 雪原


 厳しい寒さに耐えられるよう詠唱術を駆使した上で、魔獣の毛皮をまとって吹雪のなかを進む。白色に覆い尽くされた世界を無言で歩き続けていた。


 呪詛式の効果で互いの位置はわかるのだが、アリは、ランバートの背中を必死で追いかけた。見失ってしまえば二度と会えないような気がしていた。何もない白銀の世界に耐えられる自信がなかった。

 自分を連れ去った男、目的のためには手段を選ばない冷酷な竜人、何年経っても本当には心を開こうとしない悲しい人。その背中が見える、それだけで、これほど安心できるなんて。


 雪原に入って数日は、何事もなく過ぎた。


 雲の切れ間から落ちる透明な日差しが辺りを照らしている。旅は順調だった。ただ、視界が開けたことで、魔獣の動きが活発になってきていた。


 黙々と先を歩いていたランバートが立ち止まり、警告を発する。巨大な魔獣が突進してきていた。


「バーギーだ。厄介なヤツに見つかったものだ。吹雪で餌にありつけず、気が立っているな。詠唱術を使うまでもないが、少し離れていろ」


「わかりました。気をつけて」


「俺を誰だと思っている」


 バーギーが雪をまいて迫り来るが、ランバートは大剣を盾のように構えて動かない。


 ゴッ!


 自分の何倍もの質量の疾走を受け止めてみせた。十数メートルは押しやられたものの、バーギーの突進を押さえ込むと、大剣を振るい始めた。

 手足のない魔獣が吠え、巨大な口を開いてランバートを呑み込もうとする。しかし、突進が止まったバーギーの動きは緩慢で、まるで戦いにならなかった。止めを刺すべく、最後の一撃を打ち込んだ時、


 ギーーーーーーーー!


と、悲鳴のような、呪いのような叫び声が響いた。

 

 その声を最後に魔獣は息絶えたが、ランバートは不吉なものを感じていた。後方にいるアリの方を見る。遠方から、白い雪煙が迫っていた。十数体のバーギーの群れが押し寄せてきていた。それに気付いたアリは逃げ出そうとしていたが、足を雪に取られて思うように進めず、疾走する群れに巻き込まれるのも時間の問題だった。


 ランバートは詠唱術を使うことを決めた。魔竜を呼び寄せるかもしれないが、気付かれずに済むかもしれない。ここでアリを失うわけにはいかないのだ。自分の目的が達せられるかもしれない、この時に。


 千に倍する氷の刃よ

 我が敵を切り刻み、屠り、塵と化せ

 万に倍する氷の刃よ

 我が敵を切り刻み、屠り、塵と化せ

 死せる世界の礎に追い落とし、凍てつかせよ

 死せる世界の果に追い落とし、深く眠らせよ

 さあ、いけ、意思持つ刃よ

 さあ、いけ、死を撒き散らすのだ


 詠唱を終えると同時に、周囲の雪が寄り集まり、無数の氷の刃となった。バーギーの群れ目掛けて突き刺さる。前方の何体かが動きを止めた。後続の者が、不意に止まった個体に衝突する。


 その隙に、ランバートはアリを抱えて雪の下に身を隠した。バーギーの群れは仲間の死骸を貪り、満足したのか、雪原の向こうへ消えていった。しばらく様子を見た後、2人は雪の下から這い出した。雪原には、何も異変はないように思えたが、


 ドン!


と、上空から何かが落ちてきた。ひときわ大きなバーギーの死体だった。


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