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第11話 ランバート


 高いアーチ型の天井の下、豪奢な調度品に彩られた部屋で目を覚ました。魔人を倒し、喜ぶシューの姿を嬉しく思って。ところが、詠唱のゆらぎを感じたかと思うと意識が途切れたのだ。


「目が覚めたか」


 少し離れた場所から声がかかり、そこにランバートの姿を見て、アリは絶望的な結末を思い描いた。自分のために、ビドゲルもシューも殺されたに違いない。圧倒的な力を有する冷酷無情な竜人を前に、2人が生き残れたとは思えない。その表情を見て取り、ランバートが言う。


「おっと、早まるなよ。他の連中も無事だ。あれを無事と言うかどうかはともかく、あまりにしつこくて気が削がれた」


「僕に出来ることなら何でもします。だから、2人を殺さないで」


「ああ、俺も殺さないで良かったと思っているよ。今のお前の様子を見ると、もし、俺が奴らを殺していたら、自殺してでも協力を拒んだだろうからな。

 安心しろ。別に奴らに恨みはないんだ。わざわざ殺しに行くようなことはしない。いいか、奴ら同様、お前にも恨みはない。大人しく従ってさえいれば危害は加えない。俺に詠唱士として仕えろ。

 この屋敷の中は自由にしていいが、勝手な出入りは禁ずる。また、鍵のかかった部屋には入るな」


 頷くアリを見て、言葉を続ける。


「左の薬指を見てみろ」


 アリが薬指に目をやると、そこには禍々しい文字と図柄が彫りこまれた銀色の指輪が嵌っていた。その指輪は決して取れん、と言って左手を持ち上げたランバートの薬指にも同じ物が嵌っている。


「二個一組の呪物で、式名は婚姻エンゲージだ。かつては、死が二人を別つまでと結婚の誓いをしたらしい。いまは奴隷や捕虜を従えるための呪詛式に使われている。お前は俺から離れることはできない。

 俺の許可を受けて、あるいは屋敷の内外程度なら問題ないが、一定の距離を離れると呪詛式が発動する。意思も魂も失われ、いわばゴーレムのごとき人形と化すのだ。忘れるな」


「わかりました。約束を守ってくれる限り、僕もあなたに従います」


 と応じながら、アリは心に疑問を浮かべていた。


 意思も魂もない従順なゴーレムになるなら、その方が都合がいいのに。どうして、こんな面倒なことをするんだろう。竜人は冷酷無情と言われるけど、本当なんだろうか。



 次の日から、ランバートは詠唱術を教え始めた。


 年齢の割には術式を使いこなしているな。才能だけで言えば、アリ、お前は俺より遥かに上だ。だが、才能に頼りすぎて技術は最低だな。


 これから毎日修行をつけてやる。


 身を守る術、敵と戦う術も教えてやろう。新たな詠唱術を探す旅に、お前も同行させることになる。危険な場所へ行くこともあろう。戦うこともあろう。

 詠唱術は一種の財産だ。だれも簡単に他人に教えたりしない。交渉したり、買い取ったり、有無を言わせず奪い取ることもある。まだ見ぬ詠唱術の中に、俺の願いを叶えるものが必ずあるはずだ。


 いつ旅に出るか分からんぞ。死にたくなければ訓練に励むんだな。上手くすれば俺を殺して逃げることもできるかもしれないぞ。婚姻エンゲージは、片方が死ねば効果を失うからな。


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