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第10話 不屈


 魔人を倒し、それで油断していたというわけではなかった。自分と同じ不死者を相手取るのだから、戯れながらも周囲には気を配っていた。だから、ギリギリのところでシューを救えたとも言えるが、不意の一撃は別のところから来た。


 胴体を断ち切られ、動くこともままならない。顔を上げて見えたのは、アリを抱えた竜人、ランバートだった。シューに向かって歩き出していた。


「逃げなさい。その男と戦ってはならない」


 ごぼごぼと血を吐きながら発した警告が聞こえたかどうか。いずれにせよ、シューが仲間を見捨てて逃げることなどありえなかった。自分にできることは、そばを通り過ぎようとするランバートの足を掴むことだけだった。


「私の名は、ビ・ド・ゲル。この程度で……」


「無駄だ。如何な不死者といえ、呪詛式を組み込んだ剣戟を喰らえば、容易には回復できぬ」


 足を掴んでいた腕を容赦なく断ち切られた。しかし、残った片腕で再びその足を掴む。


「私は不死者、ビ・ド・ゲル。甘く見ないでもらいたい。シュー、今は引くのです。この男は、望みを叶えるまで、アリを殺すようなことはしない」


「そうだ。だが、邪魔になりそうな者は殺す」


 言って、さらにビドゲルの腕を断ち切った。振り返り、シューに向かう。ランバートの力を感じるのか、金縛りにあったように動けずにいる。


 何気なく間合いを詰めるランバートが足を止めた。ビドゲルが立ち上がり、背後から抱きかかえるようにして足を止めさせたのだ。


「お前、どうやって……」


 不可解だった。呪詛式は間違いなく発動しており、再生を停滞させ、動けないようにしたはずだった。横薙ぎにした腹のあたりから血がこぼれ続けている。まさか、再生し続けているのか?


「馬鹿なことを。不死者の再生は代償を要する。もうよせ、記憶も人格も失うぞ」


「いいえ、やめません。娘に手出しはさせない」


「離せ!」


 ビドゲルの手を振り解くと、黒光りする大剣を持ち上げ、今度は縦に両断した。だが、ビドゲルは倒れない。十字に血を吹き出させながら、笑みを浮かべてランバートと向かい合う。


「私の名は、ビ・ド・ゲル。まだやりますか?」


 ランバートは、ふぅと息をつくと、大剣を収めた。


「目的は達した。その命、預けておいてやる。だが、次に邪魔をすれば容赦はしない」


 言い置いて、アリを抱えたまま姿を消す。後を追うように、シューがアリの名前を叫んでいた。その悲痛な叫び声を聞いて、


「大丈夫です。心配はいりません」


と、しっかりした様子でビドゲルが言う。全身の血飛沫を除けば、切断された体は元に戻っていた。


「あれは竜人のランバートです。詠唱術を極めんとしているとか。そのためにアリが必要なのでしょう。危害を加えられるようなことはないはず」


「ビドゲル、覚えているんだな。良かった。今度こそ、本当に忘れてしまうかと」



 シューの頭を撫でながら思う。貴方のことを忘れたりするものですか。何の目的もなく、死ぬ時を待つだけの私に喜びや悲しみ、不安や温かさ、様々な感情を与えてくれた。貴方のことを忘れる時は本当に死ぬ時です。私は、何があろうと貴方を守ります。


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