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パンドラの箱  作者: 灰崎 幽
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カラダが痛い。

喉、肺、心臓、頭、足、いたるところが引き千切れそうなまでに痛くて。

でも走る足をとめたら、アイツに、アイツに掴まってしまうから。

もう限界だ、と訴えてくる足を無理やり動かす。

その途中で、アイツとの距離を確認するために首を回せば。


「......えっ?」


アイツは、どこにもいなかった。


「どこに行ったの?」


今さっき通ってきた道を、呆然と見やる。

酸素不足でぼやける視界には、ただただ薄暗い学校の廊下が映るだけで、アイツが教室に入った形跡はない。

逃げきれたんだ、と安堵あんどした私は大きく息を吐いて、力なくその場に座り込んだ。

走りすぎて、少し気持ち悪い。

しかし、このまま此処にいるわけにもいかないので、息を整え、ふらふらと立ち上がる。

そしてふり返ると、


「あれ...すが、くん?」


行方ゆくえをくらませていた彼が、ポツリとそこに立っていた。


「無事だったんだね!よかった...」


先輩たちとさがしたんだよ、と彼に近寄れば、何かぶつぶつと呟いていて。


「なに?ごめん、ちょっと聞こえない」


と、彼に耳をよせると。


「...ま、がった...こい、じゃな...」


曲がったこいじゃない?

意味不明な言葉に、思わず小首をかしげる。


「あい、らだ...し、ぱ...また」

「菅くん?」

「・・・つら、ろし...あい、せいで、おれは」


足もとに視線を落としながら、ぼそぼそと口を動かす菅くんに、何故だろう、鳥肌がたって。


「こん、こそ...いつらを...してや」

「ねぇ、菅くん」

「いき、かち、て...い。コ...やる」


何かに取り憑かれたように言葉をつむぐ彼の名前を、必死に呼ぶ。

けれど、私の声は彼に届かなくて。

私はナニカに押しつぶされそうになりつつも、彼に手を伸ばす。


「すが、くん」


ねぇ。

声を震わせて、彼の肩にそっと触れる。

すると、菅くんはガッと顔をあげてニタリとわらった。


「ひっ!!」


背筋が凍る。

コレは、菅くんであって菅くんじゃない。

反射的に、数歩あとずさる。

刹那、彼の背後で黒い物体がぐにゃりとうごめいた。

アイツだ。

そう認識した瞬間、恐怖が私を支配する。

はやく、逃げなきゃ。

そう思うのに、足がまったく言う事を聞かなくて。


「なんで、やだ、やだよ。にげられたのに、なんで」


もう何が何だか分からなくなって、子供のようにイヤイヤと首をふる。

誰か助けて。

誰でもいいから、お願いたすけて。


「死にたくない」


たすけてよぉ、と泣きながら、見た事もない神様に祈る。

そんな私に、嘲笑ひとつ。


「神様に祈って、何になるの?」


神様なんていないんだよ。その証拠に、ホラ。

そう言って両手を広げた彼を、黒く実体のないもやのような、それでいて影のようなアイツがぐるりと囲んで。


「あっ、あ...」


ネズミ一匹とおさない、という風に、ピッチリと廊下を塞いだ。

もう逃げ場がない。


「さぁ、はやくおわらせよう」


彼が指をパチンと鳴らす。

それと同時に、アイツが私を取り囲み。


「さようなら」


彼が微笑むと、カラダに熱が走って、そして...。





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