表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第六章 聖印京の混沌
92/159

第九十一話 出口が見えないまま

 九十九が柚月達の元から去った後、柚月は、朧を抱えて、靜美山を後にした。

 九十九の行方を追いたかった柚月であったが、自分達も追手から逃げなければならない。何より、朧を休ませなければならない。

 柚月は、何もできない己の未熟さを思い知らされ、悔しさをにじませながら、華押街へとたどり着く。

 牡丹の店にたどり着き、中へ入った柚月は先に到着していた綾姫達と合流した。

 なんと、店には矢代もいたのであった。どうやら、綾姫たちと共に逃げてきたらしい。

 緊張の糸が切れたのか、体力に限界が来たのか、彼女達が無事で安堵したのか、綾姫達の顔を見るなり、柚月はその場で倒れてしまった。

 綾姫達は、すぐに柚月の治療に取り掛かった。

 柚月の怪我は予想以上にひどかったようだ。

 治療に時間がかかった。


「だいぶ、無理したみたいね」


「すまないな……」


 綾姫は、柚月の腰に治癒術を当てる。

 腰は、傷を負っており、痣のようなものが広がっている。妖気に当てられた証拠だ。

 まさか、明枇を持ったせいで、怪我を負っているとは思いもよらなかったのであろう。彼の様子を見た途端、綾姫は驚愕し、動揺した。

 柚月なら、意識を乗っ取られることはないと考えていたが、傷を負ったのは予想外のようであった。


「明枇の事、どうして言ってくれなかったの?言ってくれたら負担がかからないように術を使ったのに」


 綾姫は、怒った様子で、いや、あきれた様子で、柚月に問いかける。

 もし、明枇の事を知っていたら、綾姫は、結界術で柚月の負担を軽減したであろう。

 だが、柚月が言わなかったのは、理由があった。


「あの時は、急いでいたからな。それに、もし、術を使ったら、明枇は、俺達の事をますます拒絶しただろう」


「……まるで、明枇が生きているように言うのね」


「そんな気がしたんだ。明枇は、生きている気がする」


「そう……」


 綾姫は、納得した様子で話す。

 妖刀が生きていると言った話は聞いたことがない。本来なら、信じられる話ではない。

 しかし、柚月が言うのならそうなのであろうと綾姫は柚月を信じた。

 柚月は、治療の最中、朧を心配するように見ている。

 朧は、景時に診てもらっている。

 朧の顔色は窺うことはできないが、休むことができてほっとしていた。


「景時、朧の様子はどうだ?」


「ぐっすり眠ってるよ。正直、呪いがどこまで侵攻しているかわからないけれど……」


「そうか……」


 朧の呪いの事は、綾姫達には伝えてある。

 彼の話を聞いていた綾姫達は、驚愕し、愕然としていた。

 特に景時は、見抜けなかった自分を責めていた様子だった。

 もちろん、景時は何も悪くない。柚月は、自分も、側にいたのに何も気付かなかったのだから。

 これ以上、呪いが侵攻しないように、綾姫が術を発動してくれた。

 そのおかげなのか、朧はぐっすり眠っているようだ。

 このまま呪いが侵攻しなければいいのにと柚月達は朧の身を案じるしかなかった。


「ごめんね、柚月君」


「いや、ありがとう、景時」


 景時は、謝罪するが、柚月は、お礼を言う。

 朧の状態は、自分ではわからない。景時は優秀な医者だ。景時のおかげで、朧の状態を知ることができる。

 感謝してもしきれないくらいだ。

 そんな中、透馬は、そっと外の様子を眺める。

 華押街は、前と変わらず、賑やかだ。

 聖印京で起こった事件のことなど、誰も知る由もないであろう。

 

「外は、いつも通りだぜ。ま、当分は、大丈夫だろうな」


「そうか。しかし、良かった。皆と無事に合流できて」


「おう、良かったぜ。けど、母ちゃんが来てくれなかったら、やばかったかもな」


「……透馬、矢代様だろ?」


「ひっ!す、すみません!矢代様!」


 安心したのか、透馬は、思わず本音を漏らす。

 母ちゃんと呼ばれた矢代は、むっとした様子で、透馬を強引に訂正させた。

 こんな時でも、透馬は母親を恐れているようだ。

 綾姫達は、柚月を一人で先に行かせた後、隊士達と死闘を繰り広げていた。

 なるべく、傷つけず、気絶させるのは至難の業である。特に警護隊との戦いは、苦戦を強いられたようだ。

 しかも、次々と隊士達は、綾姫達に襲い掛かり、キリがなかった。

 次第に追い詰められていく綾姫達であったが、そこへ現れたのが、矢代だ。

 矢代は、陰陽術で豪快に隊士達を拘束し、綾姫達と共に聖印京から脱出したのだ。

 矢代は、聖印京にいては危険だと判断し、柚月は必ず九十九と朧を救出して、華押街に来るであろうと予測し、綾姫たちと共に華押街へ逃げ延びたのであった。


「牡丹様、凛様、私達を受け入れてくださって、ありがとうございます」


「ええんよ、皆には、助けてもろたし」


「あなた方は、命の恩人です。どうか、ゆっくりお体をお休めください」


「ありがとうございます。お言葉に甘えてそうさせてもらいます」


 夏乃は、頭を下げる。

 凛は自分達は命の恩人だと言うが、牡丹と凛こそが命の恩人と言えるであろう。

 牡丹と凛にも危険が迫るかもしれないのに、危険を顧みずかくまってくれたのだから。

 綾姫達は、華押街へ逃げ延びた後、牡丹の元を訪れた。

 事情を話した矢代に対して、牡丹と凛は、快く綾姫達を受け入れてくれたのだ。

 柚月達は、二人に感謝している中で、矢代は、すっと立ち上がった。


「さて、そろそろあたしは、行こうかね」


「行くってどこに?」


「あの石頭の所さ。一応、様子を見に行ってこないとね」


「……」


 矢代が月読のところへ行くと聞いて、牡丹は黙ったままだった。

 話によると勝吏と月読は、本堂から脱出することに成功していた。

 その後、二人の身を案じた矢代と合流し、矢代は、陰陽術で二人の気配を隠し、自分の別邸へ行くように指示した。

 状況を察知した矢代は綾姫達を探したという。

 矢代達が牡丹の元へ逃げ込んだ時には、勝吏と月読も無事に矢代の別邸にたどり着いたと道具を使って知らされた。

 矢代の別邸の存在は、聖印一族は知らない。そのため、二人が見つかることはないだろう。

 と言っても、相手は聖印一族。どんな手を使って探すかわからない。

 念のため、二人の無事を確かめるために、矢代は別邸へ行くことにした。


「じゃあね、また来るよ」


「またね」


 牡丹にそう告げ、矢代は店を出た。

 隊士達には、知られないように。


「ほな、あたしと凛は、入口の方を見張ってるから、何かあったらよんでや」


「ありがとうございます」


 牡丹と凛も入口の方へと向かった。

 万が一、隊士達に知られたら、柚月達を逃がせるようにと考えたのだろう。

 本当に、彼女達は、命の恩人だ。牡丹達がいなかったらと思うとぞっとするほどである。

 牡丹と凛が、部屋を出た後、部屋は静まり返る。

 口には出さないが相当参っているようだ。

 それもそのはず、一族からは反逆者とみなされ追われる身となり、朧は呪いが消えていないと知らされ、九十九が行方不明となってしまった。

 今は、牡丹の店に身を隠しているが、いつ知られるかもわからない。

 問題は、山積みと言ったところであろう。


「これから、どうなるんだろうな……」


「そうだね。朧君の呪いの事もあるし、九十九君も探さないと……」


「……」


 柚月は、解決策を見出さなければならない。

 特に急がなければならないのは、朧の呪いだ。このままでは、命を落としてしまう。

 だが、朧を蝕んでいる呪いは、どのような呪いなのか、詳しいことは知らされていない。どのように呪いを解けばいいのか。その方法さえも全く見当がつかない。

 また、九十九の事も気がかりだ。

 重症のまま九十九は、姿を消してしまった。

 隊士達は、九十九を探しているであろう。

 四面楚歌状態の中、九十九はどのようにして逃げ切るというのであろうか。

 柚月達は、九十九の身を案じ、殺されてしまうのではないかと不安に駆られていた。


「今は、体を休めましょう。休んでおかないと、何かあった時に大変よ」


「ええ、綾姫様の言う通りです。今後の事は、体を休めてからにしましょう」


「……そう、だな」


 綾姫と夏乃は、柚月達を気遣うように、諭す。

 柚月達も疲れ切っている状態だ。自分達も四面楚歌状態と言っていいだろう。体を休めなければ、作戦を立てても、危険が迫るだけだ。

 柚月達は、身を休めることにした。



 そして、夜になった。

 綾姫達は、眠りについていた。

 入口を見張っていた凛も、部屋で眠っているようだ。

 だが、柚月は中々寝付けずにいた。

 朧と九十九の事を考えると眠れないのであろう。

 柚月は、立ち上がり、部屋を後にする。

 牡丹がまだ、起きているようなので、相談することにした。


 

 柚月はとある場所にたどり着く。

 かつて、牡丹が、九十九や矢代と酒を酌み交わしたあの庭だ。

 だが、牡丹の姿はない。別の部屋にいるのだろうか。

 柚月は、あたりを見回すと、あるものを見つけた。

 それは、紅の櫛であった。


「これは……」


 椿のような紅の櫛は、とある模様が彫られてある。それは、椿と鳳城家の聖印にもなっている鳳凰と月の模様だ。

 その模様を見た柚月はあることに気付いた。


「まさか、姉上の……?」


 その櫛は、かつて柚月が幼いころに椿にあげたものだ。

 椿の誕生日に、贈り物として柚月が勝吏に頼んで、職人に櫛を作ってもらったことがある。椿と同じ名を持つ花と鳳城家の聖印を彫ってもらって。

 つまり、その櫛は、この世でたった一つだ。同じものは二つもない。

 なのに、なぜ、牡丹が持っているのか。柚月は不思議でたまらなかった。

 そんな時であった。


「柚月はん?」

 

 庭へと戻ってきた牡丹は、柚月の姿を見つけ、声をかける。

 柚月は、櫛を手に持ったまま振り返った。


「牡丹さん、あの……これは……」


「見られてしもうたか」


 柚月が櫛を手にしているのを見て、あきらめたように表情を見せる牡丹。

 観念したかのように、柚月の隣に座った。


「それはな、娘の形見や」


「娘?」


「そうや。それ、あんたが上げたんやろ?椿に」


「ということは、姉上は……」


 柚月は、気付いてしまった。椿と牡丹の関係に……。


「そうや。鳳城椿は、あての娘や」


 椿は、微笑んで柚月に告げた。

 自分が椿の母親であると。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ