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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第六章 聖印京の混沌
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第八十三話 なぜ信じられるのか?

「これより、尋問を行う。鳳城真谷、真谷からの報告では、鳳城朧が、飼っていた狐は妖狐であった。そうだが、間違いないか?」


「……間違いありません」


 軍師の問いに、勝吏は、静かに答える。

 抵抗することもうそをつくこともなく。

 これ以上、隠し通せないと観念したのであろう。ごまかしたところで、軍師の眼を欺くことなどできない。

 嘘だと知られてしまっては、自分達と朧達の罪は重くなるだけだ。

 それなら、いっそ正直に答えるしかない。自分を犠牲にしても。

 勝吏は、覚悟の上で答えた。


「では、そなたたちは、知っていてかくまっていたと?」


「その通りであります」


「鳳城朧もか?」


「はい。ですが、朧に命じただけです。朧は、ただ、従っていただけで……」


「軍師様、この者に構わず続きを」


 勝吏は、朧をかばう。

 なんとしてでも、彼らだけは守らなければならない。

 たとえ、朧が自分の意思で九十九の存在を隠していたとしても、最初に命じたのは、自分だ。朧や柚月達は、何も悪くない。

 そう、軍師に伝えたかったのだが、真谷は勝吏の話を遮った。

 軍師の意見が変わらないように、勝吏達を陥れるために。


「……鳳城月読に問う。そなたが、特殊部隊を発足させたが、その理由は、妖狐をかくまうためか?」


 軍師が次に月読に対して問いただす。

 月読も抵抗することなく正直に答えた。

 月読も勝吏と同じ決意を持って、この部屋を訪れている。

 全てを話したうえで、軍師に判断してもらおうと。朧や柚月達のために、そして、聖印一族や都の人々のためを思っての決断であった。


「……そうです。ですが、特殊部隊を発足したのは、妖狐の力を借りて、妖を殲滅するためです。あの妖狐は、他の妖にはない特別な力を宿していました」


 特別な力と聞いて真谷達は、ざわつき始める。

 彼らは、九十九の力を知らない。だが、九十九を知ろうとする気もないため、戯言だと口々に言い始めたのだ。

 彼らにとって九十九がどのような存在なのかなどどうでもいいのだから。彼らは、九十九を他の妖と同じ残忍で冷酷、すなわち、討伐すべき者として、見ていなかった。


「その特別な力とは?」


「……九尾の炎です」


 月読は、九十九の能力について話す。

 またもや真谷達がざわつき始めた。

 九尾の炎は、妖狐が持つ特殊能力の一つだ。だが、その炎は自分達にとって脅威だ。

 過去に、一族の人間が燃やし尽くされ、灰となったことが歴史書に記されている。その九尾の炎がなぜ、特別な力だと言えるのか、誰にも分らなかった。

 彼らの疑問に月読は静かに答えた。


「あの妖狐……九十九が持つ九尾の炎は、妖のみ有効でした。我々に害をなすものではありません。そのため、その力を使えば、妖……いえ、妖王・天鬼を討伐することが可能と確信したのです」


「それは、でたらめです!妖だけに有効なわけがない!」


 真谷は声を荒げて反論する。

 月読の話が信じれるものではないのだろう。

 九尾の炎が、妖だけに有効だなどと聞いたことがない。なぜ、そんなことがわかり、言いきれるのか、真谷には到底理解できなかった。いや、理解に苦しんだと言ったほうがいいだろう。

 軍師は、静かに、月読を問い詰めた。


「仮に、九尾の炎が、妖のみ有効だったとして、その妖狐が自分達に従うとでも思っていたのか?」


「あの妖狐は私に従わざるおえない理由がございました」


「その理由とは?」


 さらに、軍師は月読に問いかける。

 どちらかと言うと軍師の問いかけは興味が湧いたようにも聞こえる。

 元四天王の九十九が従わざるおえない理由とはいったい何なのか。

 真谷達も月読の答えを待った。


「瀕死だったあの妖狐を私は生かしました。その代り、私の命に従えと命じたのです」


「なるほどな。だが、結局は従わなかったな。その妖狐は、討伐隊・第一部隊・第一班の波柴春風を殺しているとの報告を受けている」


「……」


 この尋問が行われた最大の理由は九十九が春風を殺したからである。

 九十九をかくまわなければ、春風は殺されずに済んだ。真純達も死ななずに済んだかもしれない。

 月読はとうとう黙ってしまう。

 何も言えなかった。月読は、状況を聞かされていないため、答えようがなかったのだ。

 だが、勝吏は、答え始めた。月読の代わりに。月読を守るために。


「軍師様、確かに、九十九は殺してしまいましたが、何か理由があるはずです。九十九は理由もなしに人間を殺すものではありません」


「なぜ、そう言いきれる?なぜ、妖を信じられる?」


「……」


「答えよ、鳳城勝吏」


 軍師は、勝吏に問い詰める。

 何も答えない勝吏に対して、軍師は怒りを覚えたからだ。

 妖を信じる理由とはいったい何なのか。軍師たちはわかるはずがなかった。

 妖が人間を殺す理由などあるわけがない。だからこそ、人々から守るために、一族は、戦ってきたのだ。

 ここにいる誰もがそう思っていた。月読を除いて。

 勝吏は、意を決して答え始めた。


「私の息子、鳳城朧は、病にかかったことはご存知ですね?」


「それが、何の関係がある」


 軍師は、苛立ち始めたようだ。

 朧の病気と九十九を信じられる理由と関連性は全くないように思える。

 罪から逃れるために、話をそらしているのではないかと疑い始めたものもいる。

 だが、勝吏は怖気づくことなく答えた。


「……かかっていたのは、病気ではありません。呪いだったんです」


 勝吏の答えを聞いた真谷達は、動揺し、ざわつき始める。

 真谷達は、朧は病気になったと聞かされていたからだ。

 一体何の呪いがかけられていたというのか、でたらめを言っているのではないかと、勘ぐった。


「朧は、体内に妖の卵が産み付けられてしまい、その妖から命を吸い取られてしまっていた。そういう呪いだったんです」


 勝吏は、呪いについて語りだす。

 呪いを聞いた人々は、恐怖で顔が引きつった。

 そんな呪いがあったのかと、衝撃を受けていたからだ。

 そして、自分達も体内に妖の卵を産み付けられたら思うと、恐怖に襲われそうになった。


「それを九十九が救ってくださったのです。呪いを解いてくれた後も、九十九は朧や柚月達を守ってくれたのです。聖印京を救ってくれたのです。それも命がけで!」


 勝吏は、軍師に訴える。

 九十九が朧を命がけで救ってくれたことに感謝しているからだ。

 そして、聖印京にとどまり、柚月達と共に戦ってくれたことを。だからこそ、勝吏は信じられたのだ。九十九は理由もなしに春風を殺すはずがないと。必ず、理由があるはずだと。

 それは、月読も同じだ。月読も九十九を信じている。

 勝吏の気持ちがひしひしと伝わってくる。朧達を守ろうとしていることが月読にも伝わっていた。


「その彼が、理由もなく人を殺すとは思えないのです。どうか、軍師様、朧と九十九、そして、月読を助けてやってはくれませんか?全ては、私の責任です!」


「勝吏様……それは、なりません。私にも責任があります。どうか、ご配慮を」


 勝吏と月読は、頭を下げて懇願する。

 自分達の心情をさらけ出し、犠牲となる覚悟で。

 彼らの想いが届いたのか、誰も反論することなく静まり返っている。

 焦った真谷は、立ち上がった。


「軍師様!この者たちの話したことは全て、作り話です!妖が理由があって殺したことも、呪いの事も!罪を逃れるために!」


 真谷は、立ち上がり、声を荒げて反論する。

 人々は、我に返ったような様子で、次々に真谷の意見に従うように反論した。

 彼らは、嘘つきだと。自分達を騙したのだと。許していいはずがないと。鋭利な言葉は、次々と勝吏と月読の心に突き刺さった。


「静まれ!」


 今まで以上にざわつき、揺れ動いた状況の中で軍師がたった一言で黙らせる。

 部屋は静まり返っていた。


「……理由はどうあれ、妖を手引きし、被害を拡大させたことは重罪だ。よって、鳳城勝吏と鳳城月読は、大将と討伐隊の武官の除名処分とする。二人を牢へ」


「はっ!密偵隊よ!この者たちを牢へ連れていけ!」


 真谷の命に従い、密偵隊が部屋へ入る。

 そして、勝吏と月読をとらえ、無理やり立ち上がらせ、牢へと連れていった。


「そんな……軍師様、どうか、どうかお考えを!軍師様!」


 勝吏は、声を振り絞ったかのように、軍師に願い出るが、軍師も聞く耳を持たない。

 月読はあきらめたかのような顔つきで、連れていかれてしまった。

 勝吏は、最後まで叫んだが、その声は届かなくなるほど遠のいた。

 勝吏と月読が去った後、真谷は、軍師の前に立ち、立て膝をついた。


「軍師様、今後は、どのようにすれば……」


「特殊部隊にも尋問する。彼ら全員を連れてくるように。彼らの話を聞いた後、鳳城朧と妖狐の裁判を行う」


「……かしこまりました」


 軍師の意見を聞いた真谷はうつむいて不敵な笑みを浮かべた。誰にも気付かれないように。

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