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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第五章 壊れゆく絆
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第七十五話 逃げ惑う森の中で

 朧に助けられ、逃げた奈鬼であったが、次の日の夜、陰陽隊に見つかってしまった。

 彼は、ひたすら走り、追手を振り切った。

 茂みに隠れ、やり過ごそうとしたのだが、陰陽隊は、迫ってきていた。


「ひっ!」


 陰陽隊に気付いた奈鬼は、小さく悲鳴を上げるが、手で口を押さえる。陰陽隊は気付いていないようだ。

 陰陽隊は、あたりを見回すが暗くてよく見えない。月のように黄金に輝いた髪と目を持っている奈鬼を見逃すはずがないと確信していたのだが、奈鬼は茂みに身隠れたため、見つけることが困難となってしまったようだ。


「確かに、ここに鬼がいたな」


「だが、逃げられてしまったようだ」


 陰陽隊は、周辺を探索するが、一向に奈鬼を見つけられない。

 奈鬼は、手で口を押さえ、ただひたすら彼らが遠ざかるのを待っていた。


「どうする?」


「一応、結界を張っておこう」


「そうだな」


 陰陽隊は奈鬼が近くにいるにもかかわらず、気付かずにその場から離れた。

 ほっとしたかったのだが、そうも言っていられない。なぜなら、結界を張ると陰陽隊は、言い残して去っていったのだ。

 そのことを聞いた奈鬼は顔が青ざめてしまった。


「どうしよう……どうしよう……」


 奈鬼は、動揺している。

 結界を張られてしまったら、もう逃げることはできない。それは、奈鬼でさえもだ。

 結界をすり抜けられるのは、九十九ただ一人だけ。結界を破らないことには抜け出すことはできない。

 奈鬼は、完全に逃げ道を失ってしまった。捕獲されたも同然だ。

 殺されるのも時間の問題であろう。


「助けて、九十九……」


 奈鬼は、涙を流し、九十九に助けを求めた。

 だが、その声は九十九には未だ届かなかった。



 また、朝が来た。

 朧は、いつものように目覚め、皆と食事をとるが、あまり食欲がない。

 食べ終えた朧は、部屋に戻った。

 しかし……。


「ごほっ!ごほっ!」


 朧は、咳を繰り返す。

 朧は息を整え、落ち着かせた。


「咳治らないなぁ……」


 三日前の合同討伐戦以来、咳は収まっていない。

 定期的に、景時に見てもらっているが、原因はわかっていないようだ。

 呪いが解け、柚月達と同じように過ごせることに喜びを感じていた朧であったが、また逆戻りした気分になった。

 そんな時だった。朧はふと気になったことがあった。

 それは、奈鬼の事だ。

 朧は外に出ていないため、奈鬼とは会ってない。無事に逃げ切れただろうかと気にかけていた。


「奈鬼、どうしてるかな……」


 朧は、呟く。奈鬼の身を案じながら……。


「どうした?朧」


 九十九が部屋に入ってきた。 

 九十九も朧のことが気になったのであろう。


「九十九……。うん、ちょっとね」


 朧は奈鬼の事は誰にも話していない。九十九にも。

 柚月達は、九十九の事は認めているが、他の妖の事は認められないだろう。

 当然だ。他の妖は九十九と違って、殺そうとしてくるのだから。

 だが、奈鬼は違う。殺気も感じられない。何かにおびえているようだったが、話すことはできなかった。

 九十九は奈鬼の事を知っているのだろうか。

 ふとそのことが頭によぎった朧であった。


「九十九になら、話してもいいかな……」


「どうしたんだ?」


「実はね……」


 朧が奈鬼のことについて九十九に話そうと決意した。

 しかし、足音が聞こえ、朧は思わず、やめてしまう。

 その足音の正体は柚月であった。


「朧、九十九」


 柚月は、朧の部屋に入ってきた。


「兄さん。どうしたの?」


「母上が来ている。話があるから来てほしいとのことだ」


「わかった」


 この時、朧はまた、いつもの任務であろうと予想していた。

 だが、その予想は裏切られることとなり、衝撃の事実を知らされることとなってしまうことに朧はまだ、気付いていなかった。



 柚月は、九十九と朧を部屋へ案内する。

 部屋には綾姫達が集まっており、月読も上座に座っていた。

 柚月達も着席し、月読は語り始めた。

 

「昨日、陰陽隊が鬼を発見したらしい」


「え?」


 朧は、驚き、動揺してしまうが、その動揺が、柚月達に気付かれないようにと考え、押し殺した。

 その鬼とは、奈鬼のことかもしれない。

 そう思うと朧は、居ても立っても居られない気持ちになっていた。


「鬼か……こんな近くにいるなんてな」


「それは、天鬼ではなく別の鬼なのでしょうか?」


「そのようだ」


 透馬がつぶやき、夏乃が問いかける。

 月読は冷静に答えた。

 別の鬼、やはり、奈鬼の事だろうか。そうだとしたら、彼はどうなってしまったのだろうか。

 朧は最悪の事態が浮かんでしまい、手が震えそうになるが、必死で抑えた。


「天鬼が鬼を滅ぼしたという噂は聞いていたけど、生き残っていた鬼がいたのね」


「……」


 綾姫はつぶやくは朧は黙ったままだ。

 その鬼のことについて早く知りたいが、聞けずじまいだ。

 もし、何か気付かれてしまったらと思うと怖くて聞けなかった。


「月読様、陰陽隊は?」


「結界を張ったらしい。鬼が逃げられないように」


 景時が訪ね、月読は答える。

 結界を張られたと知った朧は、驚愕する。

 その鬼は逃げ道を失ったということだ。捕まるのも時間の問題であった。


「……場所は?」


「あの人食い妖を討伐した森だ」


「あの森に……」


 朧は思わずつぶやいてしまう。

 鬼がいた場所はあの森。やはり、奈鬼の事のようだ。

 このままでは奈鬼に危険が迫るであろう。

 急いで助けなければならないと朧は焦りを感じていた。


「今回も討伐隊・第一部隊・第一班と合同討伐戦を行うこととなった。相手は、鬼だ。彼らとの連携が重要となる。あの人食い妖のようにな」


「……承知いたしました」


 こうして、柚月達は、譲鴛達と共に鬼の討伐に向かうこととなった。

 朧が動揺しているとは気付かずに……。



 九十九は、自分の部屋で柚月達の準備が整うのを待っていた。

 今回も九十九は同行する形となった。

 前回の討伐同様、柚月達に知らせるために。


「鬼が出たとはな……」


 まさか、聖印京の近くに鬼が出るとは思ってもみなかったであろう。

 だが、鬼はほとんど天鬼に滅ぼされているため、生き残っている鬼は誰なのかと思考を巡らせた。


「まさか、その鬼は……」


 天鬼ではないということは、他の鬼だ。

 九十九が思い浮かんだ鬼は一人しかいない。天鬼の息子の奈鬼だ。

 九十九は、奈鬼が、昔、九十九に憧れて懐いてきたことを思いだす。

 当時の九十九は、奈鬼をうっとうしく思い、冷たく突き放してきた。それでも、奈鬼は慕っていた。

 今思えば、奈鬼に優しく接してやればよかったと後悔していたのであった。

 そんな時であった。

 朧が、不安そうな顔で九十九の部屋に入ってきたのは。


「九十九……」


「朧か?どうした?」


「……あのね。実は……」


 朧は恐る恐る九十九に話す。

 奈鬼と会った時のことを……。その発見された鬼は奈鬼ではないかと。

 その話を聞かされた九十九は驚愕し、目を見開いていた。



 しばらくして、柚月達は門にたどり着いた。

 九十九と朧が真実を知っているは知らずに、門の前には討伐隊・第一部隊・第一班の譲鴛達が、先に集まっていた。


「お。待ってたぞ」


「すまない。遅れたみたいだな」


「いや、今来たところだ」


 柚月の顔を見るなり、宗康と綾女が柚月の元へ駆け寄る。

 再び、柚月と一緒に任務ができると思うとうれしいようだ。


「柚月様、俺が鬼を討伐してみせます!」


「ずるい、抜け駆けよ!私が討伐してみせます!」


「真似すんなよ!」


「そっちこそ!」


「やめなさいよ。宗康、綾女」


 真純が言い争う二人を制し、二人はうなずく。

 綾姫達は、このほほえましい光景を見るたびに、柚月がどれだけ慕われているかと気付かされるのであった。


「本当、柚月は慕われてるわね」


「普段の柚月を見せてやりたいけどな」


「黙れ、透馬」


 さらりと、透馬は柚月をからかい。柚月が突っ込みを入れる。

 特殊部隊にとってはいつもの事なのだが、譲鴛達にとっては始めてみる光景だ。

 正直、驚きはしたが、こんな一面もあるのだと思うと笑わずにはいられない。

 だが、柚月の前では決して笑ってはいけない気がしたため、こらえるのが必死であった。


「まぁまぁ、柚月君。怒らないの。仲良くね」


「……」


 景時がいつものようにのんびりとした口調で柚月をなだめる。

 全くもってほほえましいやり取りだ。


「柚月様、そろそろ行かれたほうが」


「そうだな。行こうか」


「ああ」


 夏乃に指摘され、柚月ははっと我に返る。

 柚月達は、譲鴛達と共に門を潜り抜け、鬼がいると言われている森へと向かった。


「……」


 朧と九十九は目を合わせ、柚月の後を追った。

 朧の様子を春風は、見ていた。まるで、朧を監視するかのように。



 柚月達は森にたどり着き、捜索をし始めた。

 だが、探しても探しても鬼の気配は見つけられない。

 鬼を発見した時は、夜だったため、見逃してしまったのだが、今は、昼間だ。いくら森の中とは言え、見つけられないはずがないのだが、柚月達は見つけられずにいた。


「いないわね……逃げたわけがないわね」


「結界は張ってありましたからね。逃げられるとは思えませんが……」


 結界をすり抜けられる妖はいないはずだ。九十九を除いて。

 結界を解いた形跡もなかったため、鬼はどこかにいるはずだ。

 そう考えていた時であった。


「ごほっ!ごほっ!」


 朧は、咳をする。昨日よりも苦しそうだ。

 透馬は、朧の背中をさすった。


「朧、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ」


「あんまり、無理しちゃ駄目だよ」


「はい」


 朧は、息を整えて、落ち着かせた。

 だが、その時だ。

 九十九は、何かに気付いたようだ。

 九十九は、朧の肩をたたいた。九十九には、奈鬼を見つけたら自分の肩をたたくように伝えてあった。

 奈鬼はこの近くにいる。

 朧は、何とかして、柚月達に気付かれないように奈鬼を探そうと試みた。

 だが、突然の事だった。

 柚月達の周りに妖が一斉に出現した。


「妖!?」


「……」


 柚月達は、一斉に構える。

 柚月達の目は、妖に向いている。探すなら今のうちだ。

 朧は、陰陽術で気配を消して、走り始める。奈鬼を助ける為に向かったのだ。柚月達に心の中で謝罪しながら。

 柚月達は、朧と九十九がいなくなったことに、気付いていなかった。


「行くぞ!」


 柚月達は、一斉に妖に向かっていった。

 だが、その時、春風はあることに気付いた。

 朧の姿がないことに。


――あれ?朧様が……。


 春風は、術を発動しながら、あたりを見回す。

 やはり、朧の姿はない。先ほどまではいたはずだ。なぜなら、春風はずっと朧を監視するように見えていたのだから。

 もしかしたら、あの鬼の元へ向かったのかもしれない。

 そう思うと、春風は、居てもたってもいられなくなった。

 朧の元に行かなくては、と。

 朧を探しに春風も陰陽術で気配を消して、走り始めた。

 妖と戦いを繰り広げている柚月達は誰一人、朧と九十九、春風がいなくなったことに気付ていなかった。



 しばらくして、柚月達は、妖を全て討伐し終えた。


「簡単に倒せたな」


「なんとかね~」


 柚月達は、宝刀や宝器を収める。 

 だが、あることに気付いた。

 朧の姿が見当たらないのだ。

 どこにも……。


「あれ?朧君は?」


「そう言えば、確かに……」


「え?」


 柚月達は、さらにあることに気付く。

 なんと、春風の姿も見当たらなかった。


「待て、春風もいないぞ」


「どういうことだ!?」


 朧や春風がいないことに気付いた柚月達は、焦りを感じ、朧を探しに向かった。



 そのころ、奈鬼は、逃げ道を探していたが、どこへ行っても結界が張られている。

 どこにも逃げ道はなかった。


「どうしよう……やっぱり、結界が張られてる。逃げられない……」


 奈鬼は、絶望した。

 もうどこにも逃げられないと。このままでは殺されてしまうと。

 その時、奈鬼はある気配に気付いた。誰かが近づいてくると。

 奈鬼は、震える体を抑え込み、思考を巡らせる。どうやって、逃げ切ればいいのかと。

 だが、現れたのは、なんと朧であった。


「奈鬼!」


「朧……」

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