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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第五章 壊れゆく絆
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第六十九話 野望のためなら

 真谷を出迎えた天鬼は、不敵な笑みを浮かべたまま立ち上がる。

 真谷は、天鬼とは対照的に嫌悪感を現しているようだ。

 なのに、なぜ、天鬼の元へ来たのであろう。

 白い髪の青年と黒い髪の青年は、笑みを浮かべて二人を見ている。何か面白いことが始まると予感して。

 奈鬼は、心配そうに天鬼を見ていた。なぜ、真谷を招き入れたのかもわからずに……。

 

「私に助けを求めるとは、珍しいな」


「助けなど求めていない。情報提供を求めているだけだ」


「同じだろう」


「違うな」


 天鬼の言葉を完全否定する真谷。

 天鬼の事を仲間だと思っていないのだろう。ただ、利用するだけの駒なのかもしれない。

 だが、それは天鬼も同じだ。天鬼も手段を選ばない男だ。

 だからこそ真谷を招き入れたのだろう。利用価値があると感じて。


「お前、まだ、あの男の部下のままなのか?五年もたって何も変わらないとはな」


「これから、変わるんだ。私は、必ず鳳城家の当主になり、聖印寮の大将になる」


 真谷の野望は、鳳城家の当主、そして、聖印寮の大将となることだ。つまりは、聖印一族の頂点に立つことである。

 そのために、不本意ながら天鬼と手を組んでいた。

 天鬼は、人間と、ましてや聖印一族と手を組むつもりなどなかった。

 だが、彼は退屈していた。何も変わらないこの世の中に対して。

 狂った世の中を見たいがために、天鬼は真谷と手を組んだのであった。

 だが、天鬼が真谷と手を組んだ理由はこれだけではなかった。


「だが、お前の作戦は失敗しているようじゃないか。奴は生きているぞ。あいつの魂はいつ手に入る?」


そう、天鬼の目的はある人物の魂だ。その魂は、天鬼にとって手に入れたいほどなのであろう。

 だが、真谷は成功させていないようだ。


「それがわからんからここに来ている。とっくに命を落としてもいいはずなのに。柚月も強くなってきてしまっている。これでは本当に……」


「ほう、柚月がか?」

 

 柚月の名を聞いた天鬼は、反応する。

 だが、真谷は気付かず話を続けた。


「そうだ。放っておいたら妖にでも殺されると思っていたのだが、特殊部隊の隊長になって活躍しておる。あの小僧の前にあ奴を何とかせねばなるまい」


 柚月は、気弱で大将や当主に向いていなかった。

 だが、それも五年前の話。今では、隊長を務めるほどの実力を持っている。

 それも、四天王を退けてしまうほどにだ。ここ最近、柚月の活躍を聞いた真谷は焦りを感じていたのだろう。

 なんとか、策を練らなければ、本当に柚月が頂点に立ってしまうと。

 なんとしてでも、それを防がなければならない。どんな手を使ってでも。


「……それは、無理な話だな」


「なんだと?」


「あいつは、妖と手を組んでいる」


「なっ!」


 天鬼は、九十九の情報を真谷に流す。

 真谷は、驚愕し、動揺していた。

 まさか、自分以外にも妖と手を組んでいる者がいたとは知らなかったからだ。しかも、あの柚月がだ。

 そんなこと、誰が予想していたであろう。


「それは、真の話か!?」


「本当だ。お前が殺そうとした小僧が死なないのも、その妖のせいだ。私も腕を焼かれた。手ごわい奴だぞ」


「……」


 真谷は、これで、全てはっきりしたと感じていた。

 柚月がなぜ、天鬼と四天王を退けられたのか。なぜ、真谷が殺そうとしていた少年・朧は生きているのか。

 妖の存在が自分の野望を邪魔しているのだ。

 そう思うと真谷は居ても立っても居られず、入口の方へと体を向けた。


「もう帰るのか?」


「やらねばなるまいことができたからな」


「そうか。いい情報を与えたんだ。私を失望させるなよ」


「ふん」


 真谷は振り向かず、天鬼の元から足早に去っていく。

 その後ろ姿は遠くなり、視界から消えていった。

 天鬼と真谷のやり取りを見ていた二人は、楽しそうに天鬼の様子をうかがっていた。


「いいのかよ、天鬼。あんな情報、流しておいて。九十九、殺されるぞ?」


「どうだろうな。あいつはそんな簡単に死ぬ男ではない」


「よくわかってるじゃない。じゃあ、九十九が生き延びたらどうするの?」


「……殺す。私の手でな。そうすれば、奴らの戦力はないに等しい」


 柚月達が強いのは、九十九の存在があるからなのだろう。

 それに、九十九を外へおびき出せば、いつでも、殺し合いができる。天鬼が望んだ最高の殺し合いが。

 そして、その九十九を孤独にさせれば、柚月達の戦力は格段に落ちる。柚月が謎の力を発動したとしても、天鬼は対抗できるだろうと考えていた。この妖刀・煉獄丸があれば。


「なるほどな。戦力をそぎ落とした後に、聖印一族を殺すってわけだ」


「そうだな。柚月も俺の手で殺す。二人いっぺんに相手にしたかったのだが、退屈していたからな」


「退屈しのぎにはちょうどいいってことか。いいね、悪くない」


 天鬼が真谷に情報を流した理由は、退屈だったため。

 真谷が動き、九十九の存在が聖印一族に知れ渡れば、面白いことが起こると予測していたからであろう。

 天鬼の本心を察した二人は、笑みを浮かべる。

 だが、彼らのやり取りを聞いていた奈鬼は、心配そうな表情を浮かべ、おずおずと天鬼に話しかけた。


「あの、父さん……」


「奈鬼か。なんだ?」


「九十九を……殺すんですか?」


「当然だ。あいつは、裏切り者だ。いずれは俺の手で殺す」


 天鬼は、自分の手を見て、握りしめる。不敵な笑みは、九十九との殺し合いを待ち望んでいるようだ。

 奈鬼は、恐怖におびえるが、こらえている。

 そして、奈鬼は、天鬼の前に立った。

 彼が、なぜ自分の眼の前に立ったのか、天鬼は知る由もない。

 二人も、何が始まるのかと予想がつかないようだ。

 奈鬼は、意を決して土下座した。


「お、お願いです!九十九を許してあげてください!」


「何?」


 奈鬼は、九十九の事で許しを請う。

 彼は九十九に憧れていたからだ。九十九のように強くなりたいと慕っていた。

 だが、その九十九は、聖印一族側についてしまっている。

 天鬼も九十九を殺そうとする理由は十分に承知しているが、どうしても、奈鬼は、九十九を助けたかった。九十九を殺してほしくないと願っていた。

 だが、天鬼は形相の顔で、奈鬼をにらんでいる。

 自分の息子が土下座までして、許しを請うなど予想もつかなかったであろう。

 自分のように非道になれないのかと落胆するほどに。


「つ、九十九は……な、何か事情があって……」


「事情があって、私の腕は焼かれたと?」


「……」


 奈鬼は黙ってしまう。

 天鬼の言うことはもっともだ。事情があって腕を焼かれたなど考えたくもない。

 いや、事情などあるはずがない。あっていいはずがない。

 九十九は自分を殺そうとしたのだから。そんな男を許せるはずなどありはしなかった。


「あいつを許すつもりなどない。裏切り者には死を与える」


「……でも!」


「まだ、私に逆らうのか」


「!」


 奈鬼は、必死に天鬼を説得しようとするが、天鬼はついに、怒りを露わにする。殺気の塊と強力な妖気が奈鬼に襲い掛かる。

 奈鬼はおびえた目で天鬼を見ていた。

 天鬼の目は冷酷で残忍に思えるほど冷たい。今にも自分が殺されるのではないかと思うほどに。

 天鬼は、妖刀を握りしめるが、すぐに放してしまった。


「……逆らうのであれば、出ていくがいい。従わないものなど、必要ない。……たとえ、息子でもな」


「……」


 天鬼の言葉は残酷だ。殺されるよりも。

 耐え切れなくなった奈鬼は天鬼から逃げるように走り去り、洞窟を出ていってしまった。

 天鬼の元から去っていった奈鬼を二人は、笑みを浮かべて見ていた。


「あーあ。出てっちゃった」


「いいのか?本当に」


「かまわん。面白いことになりそうだからな」


 天鬼は、奈鬼が自分の元から去ったことに関して、気にも留めてないようだ。

 それどころか、不敵な笑みを浮かべている。何かたくらんでいるかのようであった。



 天鬼から重要な情報を手に入れ、聖印京へ戻ってきた真谷は、そのことを巧與と逢琵に話すため、東堂に呼び寄せたのであった。

 柚月達を、勝吏と月読を陥れるために。

 話を聞いた二人は驚愕していた。にわかに信じられないと言ったような顔つきで。


「それは、本当なの?父上」


「そのようだ。これは、あくまで噂だがな」


 といっても、天鬼から聞いたとは言えない真谷。

 自分が、妖王と手を組んでいることは子供にも言っていないようだ。

 さすがに言えることではないだろう。誰かが聞いているかもしれないのだから。

 そのため、噂だと二人には伝えたのであった。


「なら、証拠をつかまないといけないわね!やっぱり、密偵隊と陰陽隊を放ったほうがいいわ」


「でも、気付かれる可能性も高い。もし、違っていたら僕らが追い詰められる」


「だったら、どうするのよ!野放しになんて出来ないわ!」


 逢琵は、苛立ち、声を荒げる。

 せっかくの機会を棒に振るわけにはいかない。

 彼らを追い詰めるのは今しかないのだ。そうでなければ、自分達の野望を達成させることなど不可能なのだから。

 だが、彼らにとって真実かどうかなのも疑わしいところだ。

 もし、違った情報だったとしたら、無事では済まない。追放されるかもしれない。

 そのことばかりが頭に浮かんでいた。

 真谷は、黙っていた。

 どうするべきなのか。彼らを追い詰めるいい方法はないのかと。

 すると、あることを思い返していた。

 この前の定例会議での決定事項だ。特殊部隊の援護を命じた勝吏。彼らは当初反対していたが、使えるかもしれないと考えたのであった。

 そして、もう一つの案も思い浮かんだ。


「……いい考えを思いついた」


 真谷は不敵な笑みを浮かべる。

 二人は、何を思いついたのか想像もつかなかった。


「父上?」


「どうしたの?」


「次の指示を待て。それまで、待機だ」


 真谷はそう言って二人の元を去っていく。

 何を思いついたのか二人はまだわかっていないようであった。



 真谷が向かったのは、鳳城家の敷地内にある自分の屋敷だ。

 彼は自分の部屋に戻り、箱からあるものを取り出した。

 それは真っ黒な石だ。

 何かを閉じ込めているようだが、何なのかは不明。

 だが、わかっていることはとてつもない妖気を放っていること。

 妖を捕らえているようであった。


「これが、使えそうだ」


 真谷は不敵な笑みを浮かべていた。

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