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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第三章 四天王の思惑
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第四十九話 逃れられない幻を求めて

 柚月は月読に事情を説明した。

 柚月の体は、まだ回復してない状態であり、息も切れ切れだ。

 それでも、柚月は、説明し、月読は黙って柚月の話を聞いていた。

 綾姫達は柚月の身を案じながら、見守っていた。

 月読の表情はいつになく、怖い顔をしていた。


「……」


「母上、お願いです。お力を貸してほしいのです。朧と九十九を助ける為に!」


 柚月は、自分の想いを月読に伝えた。

 月読は、静かに目を閉じ、首を横に振った。


「それは、できん」


「なぜです!」


「そのような体で行かせられると思っているのか?今、行けば、死ぬ可能性だってあるのだぞ?」


「……」


 柚月の体は、毒が抜け、傷が治っているとはいえ、ボロボロの状態だ。これ以上無理をしたら、どうなるかということは月読も予想がついていた。

 朧と九十九は助けなければならない。だが、柚月を今の状態で行かせるわけにはいかなかった。

 柚月も自分の状態をわかっている。

 それでも、柚月は自分の覚悟を月読に伝える決意をした。


「……覚悟の上です」


「柚月!」


「俺は、二度と大事な人達を失いたくない!」


 柚月は、再び自分の想いを月読にぶつける。

 朧と九十九は柚月にとって大事な人達だ。たとえ、この命が失われてしまったとしても、助けたいのだろう。

 椿のように失いたくないという想いだけが柚月を突き動かしているのかもしれない。彼を止めることは月読でさえも不可能のようだ。

 柚月の強い想いを聞いた月読はとうとう観念し、ため息をついた。


「……止めても無駄のようだな」


 月読は静かに立ち上がり、箱からある物を取り出し、柚月に差し出した。


「これを使いなさい」


「これは?」


「幻術を解くための道具だ。おそらく、靜美塔の入り口は、幻術でふさいでいるのだろう。効果があるかどうかはわからぬだが、使ってみるがいい」


「……ありがとうございます」


 柚月は、お礼を言って、南堂を後にした。

 柚月の背中は痛々しく見える。相当無理をしているのだろう。それでも、止められなかったのは、自分の覚悟を月読に話したからであろう。

 あの冷酷な月読の心を柚月は初めて動かしたのだ。

 それほど、柚月の想いは強かったということであろう。

 柚月達の背中を見送った月読は、ため息をついた。


「……私も甘いな」


 月読は、そう呟いて、立ち上がり、南堂を後にする。

 月読が向かう先は、本堂だ。勝吏に事情を説明し、柚月達を支援してもらうよう頼むのであろう。

 柚月達を死なせないために、月読は、できる限りの事をしなければならないと決めたのであった。



 九十九は六鏖達と死闘を繰り広げていた。

 四人相手に、たった一人で立ち向かう九十九であったが、押されてはいない。

 迫りくる猛攻を、見事にかわしてきたのであった。

 反対に、押されているのは六鏖達のように見える。四天王が一気に襲い掛かろうとも、九十九を殺すことができないようだ。

 戦いはさらに激しさを増していった。


「おらっ!」


 九十九は、明枇を薙ぎ払うように振るう。

 六鏖達は、後退してよけるが、九十九はさらに六鏖を追いつめる。

 六鏖の前に雷豪が現れ、九十九に雷を浴びせようとするが、九十九は素早く反応し、かわした。

 だが、雪代が九十九を足を凍らせる。九十九は明枇で氷を砕こうとするが、緋零が鎖鎌で、九十九の腕をとらえる。

 九十九は、もがくように鎖鎌をとらえようとするが、ここで一気に六鏖、雪代、雷豪が襲い掛かった。

 足を凍らされた九十九は、かわすことも、防ぐこともできない状態であり、万事休すであった。

 しかし……。


「らあああっ!」


 九十九は吼えるように叫び、九尾の炎を発動する。

 九尾の炎が六鏖達に迫り、六鏖達は、慌てて回避し、距離をとった。

 九十九は自分の足ごと九尾の炎で焼き、氷を溶かしたため、重度のやけどを負った。

 九十九は、息が切れ切れになっている。

 六鏖達は、冷や汗をかき、九十九をにらんだ。


「その白銀の炎、九尾の炎か……。妖にしか通用せぬ炎だったな。厄介なものだ」


「まさか、ためらいなく使うとは思ってもみなかったよ。でも、大丈夫?君の寿命、また縮んじゃったんじゃない?」

 

 九尾の炎は、妖のみ焼き尽くすことができる特殊な炎だ。だが、その炎には弱点がある。九十九の命を使って炎を発動することだ。炎を使えば使うほど、九十九の命は削り取られる。

 それでも、九十九はためらうことなく九尾の炎を発動した。

 朧を助けるためなら、自分の命を差し出すことさえいとわないのだろう。

 息を整えた九十九は不敵な笑みを浮かべた。その笑みは、覚悟を帯びているようにも見えた。


「俺の命が縮もうが、ここで朽ち果てようが関係ねぇ。俺は、刺し違えてもてめぇらを殺すつもりで来たんだからよ」


 九十九は明枇を構えて宣言する。

 天鬼を殺すことを目的としていたはずだったが、朧を助けるためなら、命を失ってでも、六鏖達を殺すことを決意したのであろう。

 自分がここで六鏖達を殺せば、脅威は天鬼だけとなる。柚月達なら自分の代わりに天鬼を殺してくれると信じているのかもしれない。

 九十九は、生よりも死を選んでいたのであった。


「素敵よ、九十九。それでこそ、あたしが愛した男だわ。共に死ねるのならあなたの炎に焼かれてもいいわ」


「本気で言ってるの?」


「もちろんよ」


 共に死ぬことに喜びを感じている雪代。それは異常な愛情だ。

 緋零はあきれ返ったように尋ねるが、雪代は本気のようだった。

 反対に雷豪は、怒りに任せて唸っていた。


「キサマハ……コロス……。キサマダケ……シネ」


「冗談じゃねぇ。てめぇら、一緒に地獄に来てもらうぜ!」


 九十九は九尾の炎を纏いながら、六鏖達に突進するように向かっていく。

 その顔はまさしく狂気に満ちた顔だ。その身を焼きこがしてでも、六鏖達を灰にしようとしている。

 だが、緋零が薄紅の霧を発動し、九十九は霧に包まれてしまった。


――霧!


 霧に包まれてしまった九十九は九尾の炎を抑え込み、立ち止まる。

 霧は見る見るうちに九十九にまとわりつくように濃くなり、六鏖達の姿は見えなくなっていた。

 幻術が発動された瞬間だった。


――幻術か、どんな手を使いやがるんだ?


 九十九は、構える。

 幻に惑わされないように、注意深くあたりを見回した。

 薄紅の霧が消えていき、人影が現れる。

 だが、九十九の目の前に現れたのは意外な人物だった。


「!」


 目の前に現れた人物を見て、九十九は見開いていた。


「九十九……」


 なんと九十九の前に現れたのは椿だった。 

 自分が殺したはずの人間が九十九の眼の前に現れたのであった。


「椿……」


 九十九は力が抜けたように、明枇を落としてしまう。明枇はカタンと音を立てて、床に落ちた。

 これは幻だ。緋零が見せた幻だということは頭でわかってはいるが、心が否定できていない。

 椿は、悲しそうに九十九を見つめるのであった。


「私を、殺すの?」


 椿は九十九に尋ねる。

 九十九は激しく動揺し、思い出してしまった。

 自分が椿を明枇で刺して殺したことを……。

 思いだしてしまった九十九は体が動かなくなってしまった。

 椿は九十九に手を伸ばした。


「また、私を……」


「違う……。俺は……」


 椿の言葉を否定しようと、九十九が、手を伸ばす。

 手を震わせ、困惑しながら……。

 だが、その時だった。


「!」


 腹部に激しい痛みが走る。

 椿が握りしめた氷の刃で九十九の腹部を貫いたからだ。

 椿は、憎悪の目を宿し、九十九をにらんだ。

 何が起こっているのか理解できない九十九。椿は、見る見るうちに姿を変える。その姿は、雪代へと変わっていった。九十九の表情を見た雪代は激しい憎悪を九十九にぶつけるかのように、氷の刃を握りしめた。


「やっぱり、あなたはあの女を……。汚らわしい!」


「ぐはっ!」


 雪代は一気に刃を引き抜く。憎悪に身を任せて。

 九十九の腹部から血が噴き出し、九十九は口から大量の血を吐いた。

 九十九はよろめき、腹部を押さえるが、血は止まらない。

 緋零は、笑いをこらえることができなかったようだ。高笑いをし始め、その笑い声は塔に響き渡った。

 六鏖達は、緋零を止めることをせず、不敵な笑みを浮かべた。


「まさか、こんな術に引っかかるなんてね。五年前の君なら、見抜けたはずなのに」


「終わりだな。九十九」


「誰が!」


 九十九は激痛をこらえて、床に落ちた明枇を手に取り、構える。

 だが、形勢逆転されてしまった。これでは、勝ち目がない。それでも、負けるわけにはいかなかった。意地でも六鏖達を殺さなければ……。

 勝ち誇ったような笑みを見せつける六鏖達は、構えた。

 容赦なく九十九を殺すつもりだ。


「今度こそ、死んでもらうぞ!」


 六鏖達は、重傷を負った九十九に対して、襲い掛かっていった。



 月読から道具を受け取った柚月達は、再び天次の風に乗り、靜美塔へ向かっていたところであった。

 靜美塔付近にたどり着いた柚月達は、ある人物を発見した。

 その人物は透馬だ。

 傷だらけになり、仰向けになって倒れている透馬の姿を柚月達は、目にした。

 柚月達は急いで降下し、透馬の元へと向かった。


「透馬!」


 柚月達は、透馬の元へたどり着く。

 透馬は意識があるが、目の焦点があっていない。息をするのが精一杯のようだ。

 そんな状態であるにもかかわらず、透馬は、笑みを浮かべていた。


「はは……悪い。しくじった」


「しゃべるな。綾姫」


「ええ」


 柚月に命じられた綾姫は治癒術を発動する。

 柚月は、よろめきながらも、立ち上がり、道具を懐から取り出した。


「柚月君、頼むよ」


「ああ」


 柚月は道具を使用する。

 道具が光り始め、塔を覆い尽くしていた妖気が消え去り、柚月達の目の前に入口が出現した。


「ありましたね、入口」


「ああ。綾姫、透馬を頼むぞ」


「わかったわ」


「夏乃、綾姫達を守ってくれ」


「承知しました」


 夏乃は、うなずき、綾姫のそばに駆け寄った。


「行くぞ、景時」


「うん」


 柚月と景時は、塔へ入ろうとした。

 だが、綾姫達の前に大量の妖が現れた。

 こんな時にと焦りを感じながらも、柚月達は、振り向いて構える。綾姫達を守るために。

 妖達をすぐにでも倒して、九十九と朧の元へ行くことを選んだ。

 だが、夏乃が、柚月達の前に立った。


「柚月様!景時、行ってください!ここは私が……」


「夏乃君、でも……」


「大丈夫です。私は、綾姫様をお守りする忍びです。何が何でも守り通します!」


 夏乃は構える。覚悟を決めたようだ。たった一人で戦うことを。柚月達を先に行かせ、綾姫達を命がけで守ることを。

 夏乃の覚悟を受け止めた柚月達は、うなずいた。


「……わかった。死ぬなよ」


「ご安心ください。綾姫様を置いて死ぬなど決していたしません」


 夏乃は、豪快に淡雪を豪快に振り回した。


「いざ、推して参る!」


 夏乃は、大群の妖の元へ向かっていった。

 柚月と景時が、二人を助けてくれることを信じて……。


「……行くぞ、景時!」


「うん!」


 柚月と景時は、塔へと入ろうとするが、景時の前に、妖達が現れ、行く手を阻まれてしまった。

 景時が妖に遮られてしまったことに気付いた柚月は、足を止め、振り向いた。


「景時!」


「柚月君、行って!二人を助けてあげて!」


「……すまない!」


「謝らないで。絶対に、二人を連れて戻ってきてよ!」


「ああ!」


 柚月の身を案じながらも、景時は構え、妖に立ち向かった。

 そして、柚月は九十九と朧を助ける為に塔の中へと入っていった。


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